第2話
私がふらりと行ったその夏祭りでは、神楽舞の演じ手たちが踊っていた。
それも、現代と古典を融合させた斬新なダンス。曲線美の動き、激しいリズム。
伝統的なようで目新しい、楽しさと夢のある狐面の演者たちのパフォーマンス。
あれに魅了されたからだ。
彼らの祭囃子、さんばしょの笛の音が頭の中で流れ続けた。
どうしてももっと見たい。
夏祭りのシーズンが終わっても、その余韻は抜けなかった。
動画を見ると沢山出て来た。サイトを調べるとその後の興行予定と共に、キャラクター設定なども書いてある。天狐たちの神楽舞。赤と青。笛囃子の姫たち。
あの時は自分でも信じられないくらいマイナージャンルに沼ってしまったとおそれたものだ。
遊園地のダンサーが好きだったのはDヲタだったから元々だが、彼らもその類と言えば類だがフィールドが神。言葉遊びでなく本当に神楽舞で神を降ろす舞をしている。神社から神社、年末年始の祭事、祓えの儀から本物の神事まで地域おこしと祭りにあわせて多岐に渡り行っている。
ダンサーやパフォーマー、音楽に魅入られてファンになる。
オタクになる。それはそうだ。
だがまあ神を降ろした狐面の演者に魅入ったという事態がおそらく本来ならちょっとやばかったのだがそんなことよりも当時一番やばいなと思ったことは相手が狐キャラであることなどよりこのジャンルにハマっても供給も二次創作もものすごくマイナーだということが一番だった。あとこれはナマモノに入るだろうかという点。神事もするけどパフォーマーは聖職者ではない。彼らの本職は演者、演劇一座のようだ。優れたエンターテイナーたち。
キツネはいい。もふもふだ。ネコみもあるしほぼネコというかまあ猫の次くらいにはかわいいんじゃないだろうか、いや失礼かもしれないが。狐キャラというか口元が稼働する本物の能面を付けたいた彼ら。夢にも当然何度も出て来た。
そこでまず、ああ自分は彼らにはまったなと自覚した次に我が身に起きた途方もない出来事は、供給がないのに欲しいと思う感情のベクトルが『すべての和風コンテンツのリバイバル』として起きたことだ。
それまで、23までにハマってきた、通過したり少しでも触れて来た『和』モノ。全部にマイブームの風がふたたび向いた。熱しやすく冷めやすく、また短期間で一気に極めて深堀りできてきた多趣味の自分には本当に途方もない再熱の仕方だ。ぶり返した波が大きすぎた。どれだけあると思う。和な作品なんて、いくらでもある。絞り込みの検索結果としてなんの絞り込みにもならないほどに膨大にあった。
それらすべてが再熱した。
それらを再履修しながら彼らのイベントを追って脳内で鳴りやまない祭囃子をハナウタで歌ったりyoutubeで探し当ててリピートしたりしながら秋を迎えた。
その秋だ。夏祭りの次の催しの時期。
夏が終われば秋がくる。
ハロウィーンパーティのシーズンがやってくるんだ。
それが私があれだけの理由で手出ししなかった、
本物の着物に手を出した理由。
それは、ドレスコードだ。
どうしても行きたい場所、見に行きたいイベントが出来、
それが和装でなければいけなかった。
小さな遊園地でのハロウィンイベント。
あやかし仮装限定。
チケット制。
神楽舞の演者達が主演し、勢ぞろいするイベント。
彼らの一座のグループが主催するハロウィーンパーティ。
あの場所、あの遊園地の由来が、本当はわるいものだったことくらい知っていた。
だから個人的に遊びに行ったこともなかった。
古くてすこしこわい、いわくつきのちいさな遊園地。
そう考えると、なんてハロウィンにぴったりなんだろうな。
たしかにそうだ。ああ、行ってみたい。
祭りだ。ファンイベントだ。ここでもグッズ販売もあるらしい。
遊園地の、ステージショーだ。
見に行きたい。行ける。
値段も高くないしそう遠くもない。
行けない理由なんて、ああ、そうだ、
ドレスコードしかない。
舞踏会に行けないシンデレラの気分かよと嫌になるほど思い知った。
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