第8話 身代わりに~生命~

それから、夕哉君と会う事はなかった。


私達の距離は微妙な関係なまま縮む事なく1ヶ月の月日が流れる。




そんなある日の事だった。




~ 夕哉 side ~



「あっ!こらっ!ライっ!お前そっちじゃねーだろっ!?ラーーイっ!そっちに行くなーーっ!」



俺は散歩コースをしばらく変えていた。


ライは、俺がリードを外した途端、彼女とキラが行く散歩コースの方に向かって走って行ってしまった。


しかし、彼女とキラがいる海の道に向かう時も絶対に通らないように避けている道の方にライは走り出してしまったのだ。



「ラーーイっ!」



俺は後を追った。





一方。



「キラ!?ちょ、ちょっと待ってっ!どうしたの?そっちは駄目っ!キラっ!」



スルリと私の手元からリードが離れた。



「キラっ!待ってっ!キラーーっ!」



私は後を追う。



「キラーーっ!」


「ラーーイっ!」




「そっちは駄目ーーっ!」

「ラーーイっ!行くなーーっ!」





キキーッ!



急ブレーキ音と共に



「キャイン…」



犬の鳴き声が響き渡った。




「ライ?」


「キラ?」




お互い別々の道から挟んで、その場に向かう。



横たわっている一匹の犬の姿。


もう一匹は、横たわっている犬の周りを切ない声で鳴きウロウロする姿。


私達は、すぐに分かった。




そこに横たわっているのは ―――――




――― ライだった ―――………





「ライ?嘘……」


「ライっ!」



私はゆっくりと歩み寄る。



「夕…哉…君…」


「コイツ…馬鹿だけど…大事なもの体張って守ったんだろうな…」



「…………」



車から人が降りて来る。



「すぐに病院に」

「いいえ……大丈夫です……」

「しかし……」

「……そのまま……眠らせてあげて下さい……」


「夕哉君…でも…」

「こんだけ出血多いし…」


「本当に良いのかい?」


「はい。家族に連絡して迎えに来て貰うので……大丈夫です。すみません……」


「そうかい……?じゃあ……行くけど……」

「はい……すみません……犬飛び出してしまってご迷惑おかけしました……」


「いや…私こそ……本当…すまないね」

「いいえ」



男の人は渋々車に乗り車を走らせた。


夕哉君は電話をする。




「ライ……」


「クゥン…」


切なそうになくキラ。



「キラ…」


「俺が散歩コース変えたから…キラと魅憂ちゃんにずっと会いたかっただろうな……」


「……夕哉君…」


「…病院に行っても助からない…食欲もなかったし…原因分からなくてさ…今、思えば分かる気がする…ごめんな…ライ…。俺が…散歩コース変えたばっかりに…俺の都合で変えて…マジ悪い…本当に…ごめんな……」



「………………」



「キラ…ごめんな…お前も会いたかったよな…」



夕哉君は、キラを抱きしめる。



「クゥン…」



キラは、夕哉君を舐める。


まるで慰めるかのように………




そこへ、夕哉君の家族と思われる車がとまり、男の人が降りてきた。


お互い軽く会釈をし、ライを車に乗せる。



「じゃあな……魅憂ちゃん……キラ…」

「うん……」

「ワウワウ」



私達は別れた。





そんなある日。



「ワウワウ」

「キラ?」



キラが吠えたかと思うと



「キラ!魅憂ちゃん!」



ドキン


「夕哉君?」

「久しぶり…と言うべきなのかな?」

「そう…だね…」

「なぁ、ちょっと気になったんだけど……コイツ…キラ…もしかして妊娠してる?太ってるとかじゃないよな?」


「違うよ!妊娠……してるみたいだよ」

「えっ?やっぱり?誰の犬の子?」

「知らないよ……でも…」

「えっ?何?もしかして…ライ!?」

「…そうだと…思う…2匹仲良かったし」


「何だよ!アイツ!やることやってんのな」

「…そうみたいだね…」

「いつヤったんだ?」

「し、知らないよ……」


目を反らす。



動物も同じ命ある生き物だ。


だけど、飼い犬の飼い主同士が改まってそういう話をすると何処か恥ずかしくなる。



「あれ?案外、純なんだ。魅憂ちゃん」

「いや別に…そういう訳じゃ…」



クスクス笑う夕哉君。



ドキン

胸が大きく何故か跳ねる。




「なあ、キラ、あの馬鹿犬の何処に惚れたんだ?」


「ワウ!」


「馬鹿って言うなって怒られた気がするんだけど」


「ハハハ…やだ…そう聞こえてもおかしくないよね」


「だよな?じゃあ、キラ、ライの子供、俺にくれないか?」


「ワウワウ」


「良いよって言われた気がするんだけど」

「そう?もしかすると…嫌だ!かもよ」


「ええっ!?キラ…お前の父親の飼い主だった俺にやらないってどうしてなんだ?お前一人で面倒見るって?」


「ワウワウ」


「それは無理だって?いや……出来るって?どっちなんだ?キラ」



私は夕哉君とキラの、やりとりに微笑ましく思う



≪そういえば…礼二もキラと夕哉君みたいに話していた気がする…≫



「魅憂ちゃん」

「何?」

「仔犬、貰えたりする?」

「えっ?」

「もし、貰えるなら欲しいんだけど」


「良いよ。まだ、やる人や貰い手、当たってないから。何匹産まれるかも分からないし家族と話し合って産まれてから当たる予定だし」


「良かった。俺的には、2匹欲しいんだけど…家族に相談してみるから一応、先約として考えておいて」


「うん、分かった」


「キラ、お前のお腹の子供、俺に一匹でも良いから頂戴!オスだったらイケメンに育てるからメスだったらお前みたいに美人な犬にするから。勿論、お前の飼い主みたいに可愛くもしてやるからな」




ドキッ



「えっ?」


「ワウワウ!」

「お願いします!だって」


「えっ?や、やだ…もう…」

「御主人様、照れて恥ずかしいって!」


「ワウ!」


「可愛いって。キラが。勿論、俺もだけど…」

「えっ?」


「魅憂ちゃん、可愛いと思うよ。俺」

「夕哉君…」


「彼氏、幸せだったんだろうな…。正直…ライも…自分が死ぬ事知ってて…最期に会いたかったんだろうなぁ…二人に。特にキラには……。……アイツ…自分が父親だって知ってたのかな…?」


「…知っていたと思うよ」

「魅憂ちゃん……」


「私達が…しばらく会わなくなる前に…キラが…きっと…ライに…話していたと思うよ…あなたは父親だよって…でなきゃ体張って守らないと思う」



「そうだよな…アイツ…知っていたんだろうな…自分の子…見届ける事なく…アイツ…逝ってしまったけど……」



気付けば私は夕哉君を抱きしめていた。




「大丈夫だよ。天国で神様が見せてくれるよ……きっと……」





























































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