第22話 これは新手のいじめだろうか
少し距離が近くなった分、沈黙が少し気まずくもあったが、なんとか集合時間まで耐えれば全員五分前にはやって来てくれた。
「うぇーい! ってなわけで行くっしょ!」
淳司君がひとしきり騒ぎ終え、ついにラウワンへと出発する。
ラウワンまでは高校の最寄り駅から徒歩で十数分の位置にある。大型ショッピンングセンターに併設されている形であるため、ここらへんの若者が遊びに行くとなったらまずそこだ。という話は人づてで聞いた事があった。実際の所はぼっちの俺に知る由も無いのである。
何にせよ、若者の遊びスポットを知らないような奴が、こんな髪の色の違う集団の真ん中に入るのはもってのほかだ。俺はとりあえず集団の背後につくことにする。
「マジテンアゲっしょ!」
「淳司はしゃぎすぎ」
前方で騒がしい会話が繰り広げられる中、そんなところに陰の者が入る余地などあるわけもない。
移動する間やる事が無いのでとりあえずぐるりと周囲を見回してみる。
大通りを通る車の量はそれなりだが大渋滞ではない。また人もそれなりに見受けられるが、人込みと言うわけでもない。
「とりあえず異常は無さそうか……」
我が故郷の景色はいつも通りなんちゃって都市という感じだ。まぁ所詮近畿の真ん中に位置してはいても、周りの県の方が都会な県だからな。とは言え、千三百年前には日の本の中心だったわけで、自らを古都などと名乗るなんちゃって古都、某京なんとか県より歴史が深いこの土地は割と嫌いではない。
ところでうちの県民は京なんとか府に対して負けを認めているというような話をテレビでやっていたが、それは大きな間違いである。そいつらはもはや奈良県民ではない。牙を無くした腑抜けだ。京都の回し者だ。真の県民たる我々は断固京都を古都とは認めんッ!
鹿と刮目せよ、観光客が少なくても飯がまずくても地味な寺が多くても、我々の町の方が優れているのだとなぁ! とりあえずまずはリニアぜってぇ誘致して見返すから震えて眠れ。
などと考えているうちにラウワンへと到着していた。
しまった、街並みを見ていたらつい郷土愛が暴走気味に……。
「てか大丈夫チュン兄?」
「え、何が」
淳司君が出し抜けに振り返って来るのでつい聞き返す。
「いやさっきからずっと黙ってるっしょ? もしかして具合悪い系?」
「ああえっと、そういうわけじゃないんだが……」
「そっか。なら安心っしょ! 超絶楽しもうぜえ、チュン兄!」
淳司君が肩を組んでくる。
「分かったからやめろ鬱陶しい」
「え、ショック⁉」
淳司君がオーバーに驚いてくるが、ここ数年間常に俺の周りにはソーシャルディスタンスが保たれ続けてきたからな。あんまり密になるのは気が進まない。
とは言え、先ほどのようにだんまりしててもあまり印象が良く無いだろう。これからは極力会話には参加すべきだな。そこは反省だ。まぁ陰の者に参加できる会話なんてオタク系の話くらいしか……。うっ、頭が。
頭痛に苛まれつつラウワンのあるフロアまでやってくると、受付で変なバンドを付けさせられる。どうやらこれさえあれば中でスポーツやら何やら色々とし放題らしい。
回る鉄の棒を抜ければ、ついに会場入りだ。今まで入った事は無かったが、どうやら中にはゲームコーナーもあるようだ。俺としてはそっちへ行きたかったが、陽の者どもがそんなところに初手から行くわけがない。
「とりあえずバドやっとく⁉」
そう提案するのは淳司君だ。女子いるし割といい感じのチョイスなんじゃないだろうか。
そう思ったのは俺だけではなかったらしく、他の連中も反対する事なく頷く。
そのままバドミントンコーナーまで行くと、なかなか長い列ができていた。
「人多すぎっしょ!」
「初っ端から並ぶの面倒臭いし別の所行くか~」
光野先導の元、テキトーな会話を繰り広げながら会場内を練り歩く。
室内を抜け、屋上の方へ上がると、しばらく歩いていけば、辿り着いたのはバッディングコーナーだった。中のバドミントンコーナーに比べて閑散としている。奥まった場所にあるから目立たないのかもな。
「あそこ二つ空いてるくない?」
風見の視線の先を追えば、確かに空席のボックスが並んでいた。
閑散としていると言ってもまったく人がいないわけでは無いらしく、隣に続くネットケージからは不規則にかこかこーんと子気味の良い音が聞こえてくる。
一応一番向こう側まで行けばもう一つ空いているようだ。
「よし、待ってる人もいなさそうだし、とりま全部使わせてもらうか。誰から入る?」
光野が全員に目を向け尋ねてくるが、俺含めた全員後でいいという回答だ。美しきかな譲り合いの精神。これぞ我々日本人の詫び錆びですな。まぁ俺は先手切って悪目立ちするのが嫌なだけですけどね。
「それじゃ、じゃんけんするかー勝った奴らが先なー」
光野が言うので、各々臨戦態勢を取る。
掛け声とともに各々が腕を出すと、光野と俺がチョキ、他はパーだった。
勝ってしまったか。まぁじゃんけんなら仕方ない。とりあえず交代制にするならできるだけ早く回した方がいいか。
「よーし、決まりだな」
「だな。じゃあ俺は先にあっち側行っとくぞ」
「え?」
光野が何やら間の抜けた声を出すと、怪訝な眼差しを向けて来る。それどころか他の連中までこちらを変な眼差しで見つめてくる始末。え、何なの……。
「……えっと、他の三人はじゃんけんしないのか? もう一個空きあるはずだが」
沈黙に耐えきれず口を開くが、他の連中は顔を見合わせると、やがて光野が噴き出した。
「ぷっ、やっぱ謙信公最高だわ……ははっ」
それを皮切りに何やら辺りが生暖かい空気に包まれる。え、笑われるような事言った俺?
「チュン兄マジかー」
「あはは、流石雀野君だ……」
淳司君と柊木が立て続けにぬるい笑みを向けてくる。唯一風見だけは後ろを向いていたがその肩は震えているようだ。
マジなんなんなのこいつら! もしかして新手のいじめか⁉ だとすれば大成功だ。なんか知らないけど凄い恥ずかしいからな今!
「と、とにかく行くからな」
「あ、ちょチュン兄!」
淳司君が呼び止めるのを振り切りさっさと一番奥のレーンへと行く。
まったく、近頃のいじめはどこまで進化しているんだ! そりゃ殴ったり蹴られたり下駄箱にゴミ入れられてたりするよりは実害無いけどね⁉ これはこれで効くんですわ!
行き場の無いこの感じを振り払うべくケージの中に入ると、俺はバッドを思い切り振るのだった。
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