〇俺が周囲から注目されるわけ……
第21話 集合場所はあくまで駅の銅像前である
状況好転すべくつかみ取ったラウワン行きだが、正直な所猛烈に後悔している。
何故なら、俺みたいなド陰キャが陽キャ連中と遊ぶとか普通に考えたらムリゲーワロタ。
え、マジでどうすんの? 遊ぶって言っても何すんの? ていうかあんな一部に嫌われてるのに俺は遊べるの?
分からない。何もかもが分からない。ていうかゲーセン以外行った事ないしラウワンの実態が分からなすぎる。結局あそこってなんなの? アーケードゲーするところじゃなかったの? 噂によるとスポーツとかするらしいが、という事は服装は学校の体操着を着て行けばいいのだろうか?
辺りを見渡せば普段開けないクローゼットから引っ張り出した衣類が散乱している。
手あたり次第に手に取り鏡の前で合わせたりして見るも、どれもしっくりこない。当然だ、俺みたいな陰の者はどこへ行くにもジャージさえあれば全て解決だ。ていうかこれもうジャージで良くね? 動きやすいし、機能性抜群だよね!
「俺は初デート前の女子か」
手に持っていた衣類を投げ捨てる、
馬鹿馬鹿しい。あくまで今回の目的は遊びに行く事ではなく印象を良くする事。そしてもう一つは……まぁこっちは服装関係無いか。
携帯でラウワン、服装で検索。春はこのコーデで決まり! みたいな見てて嫌気がさすような文章を眺め、今ある手持ちでベストと思われる装いを選択する。
とりあえず黒い無地のズボンに白いシャツとその上から水色のやつを羽織って終了にした。
というわけで来たるべき日曜日。集合場所の駅の銅像前へと向かえば、実に普段の倍早く来てしまっていた。ギリギリ行って遅れるよりはマシだと思って早めに動いたらこれだ。つくづく俺の時間管理のタイトさには困っちゃうんだぜ。
とは言え、あまり早く来ているところを見られて何コイツ張り切ってんのなどと見当違いな事を思われるのは嫌なので、近くのコンビニでも行って暇を潰そう。
コンビニへ足を向けるため身を翻すと、その先から丁度見知った女子が歩いて来ていた。
「うーわ……」
つい声が漏れると、相手もこちらに気付いたのか心底嫌そうな顔をする。
赤髪にくるくるカールを施し、その顔には若干化粧がされているのかいつもより肌が白い。動きやすそうながらアクセなどを身に着け、随分とお洒落な雰囲気を漂わせるその女は俺を心底嫌っている風見瑠璃だった。
風見は渋々と言った様子で距離を置きつつこちらへ近づいてくると、嫌悪を滲ませて言う。
「なんでもういんの? マジありえねー」
俺に向けた言葉かどうかも怪しいくらい低い声だった。それはこっちのセリフなんですがね。 ほんとなんでこんな早く来てんの? おい何とか言えよ雀野堅心。何故お前は早く来ようと思った? こんな事になるならいつもの十五分前行動しておけばよかったんじゃないのか!
「あー……まぁ、こんにちは」
つい頭を抱えこんでしまいそうなのをなんとか堪え、心証を少しでもよくしようと挨拶をする。
だが、風見は酔っぱらったおっさんが道端で吐いている光景を見てしまったような眼差しを向けてくるだけで何も言おうとしない。
君さぁ! せめて挨拶くらいは返した方がいいと思うなぁ! 常識だよねぇ⁉ じょ・う・し・き。分かるー⁉
などとは当然言えるわけもなく、ただ視線を逸らす。
しばらく重苦しい沈黙に押しつぶされそうになっていると、風見がおもむろに口を開いた。
「なんかキモいからマイナス十点」
「え、マイナ?」
「なんかうざい。さらにマイナス十点」
えぇ……。なんかいきなり謎の減点されたんですけど。怖過ぎない?
「ちなみにそのマイナスって何の……」
恐る恐る尋ねると、風見がキッとこちらを睨んでくるので心臓がひっくり返りそうになる。この子眼力強いんだよ。しかも化粧してるからか余計迫力が増してんだよなぁ。
「今日一日、お前を採点する事にした」
「だから何の採点……」
「は? 黙れし。マイナス十五点」
「すみません」
威圧感につい謝罪してしまうが、これ俺悪くないよね? いきなり採点されたら誰だって聞きたくなるのは当然だよね? 何の採点か知らないが理不尽すぎやしませんか? そう考えるとちょっと腹立ってきたな。どうせ嫌われている身だ。この際色々試してどうすれば減点されないか試してやるんだからな!
「ちなみにその点数がゼロになったらどうなるんだ?」
さぁこれならどうだ。減点するか? さっき一回だけ俺が発言しても減点されなかったからな、きっと何かしら基準が……。
「お前を永遠に殺して葵に近づけないようにする」
「……」
いや怖っ。何が怖いって柊木に近づかせないために俺を殺し続けようとするその姿勢やら何やらまでが全部怖いわ。もう色々と試してやるとか絶対に言わないでおこっ!
だがちょっと待てよ。これはもしかしたら風見の最大限の譲歩なのではないだろうか。もし俺がこの試練をクリアできればストーカーじゃないと認めてくれる的な。
証拠に、今しっかりと柊木の名前を出してきていた。
つまりこの採点は柊木に関係がある事は想像に難くなく、その柊木と俺を取り巻く問題はストーカー問題だ。
だとすればこの子、意外と優しい?
……まぁこれまで浴びせられた心無い言葉を考えるとなかなかに俺の願望が強く反映されている気がするが。
とは言え、何故採点などしようという気になったのかは気になる。一応本当に俺がストーカーかどうなのか、考える余地ができたって事だもんな。
聞けばまた減点されてしまうような気もするが、もし答えてくれるならそれが現状を打破する何かしらの糸口になったりするかもしれない。ここは一つ、勇気を振り絞って尋ねてみるか。
「なんで採点なんてしてくれるつもりになったんだ?」
少し遠回りな言い方になってしまったが、もし何か思っての事ならば伝わるはず。
「根拠ないのは確かにそうだと思ったから」
減点宣言されるかと身構えていたが、存外あっさりと答えてくれた。
根拠がない、か。確か光野がそう言ってたんだっけか。
「なるほど」
俺が思うより、風見も話の通じない奴と言うわけでは……。
「うざ、マイナス五点」
「……」
ないわけがないな。これあれだな、光野みたいなイケ男が言ったからこそちょっと考えてみる気になっただけだな。今回はたまたまあいつがああ言ってくれたから良かったものの、これはまだまだ前途多難そうだ。
これからの事を考え憂鬱になっていると、また辺りが沈黙に支配される。
それでも気まずさが無いのは、風見がだいぶ俺と距離を置いたところまで離れてくれたおかげだろう。なんなら一人で立ち尽くしてるのと変わらないくらいだ。こういう時は嫌われていて心底良かったと思うね。
とりあえず暇つぶしがてらにソシャゲをぽちぽちし始めると、突然風見が声を上げる。
「ちょっと触んないで」
画面から目を離すと、視界の先で見覚えのあるサングラスと風見が何やら話していた。
え、いや待って? こんな事ってある? こいつら歓楽街で泥酔してた奴らだよね? 今回は二人しかいなさそうだが、たぶん間違いない。一応あの歓楽街のすぐ近くだしな、ここ。
「いいじゃ~ん、一人なんでしょ? 俺らと遊ぼうよ」
「絶対おもろいでぇ?」
「は、はあ? 無理だし。友達待ってるから、話しかけんな」
臆せず睨み返す風見だが、サングラスたちもまったく気にしてない様子だ。すげぇな。俺ならこんなの絶対ちびってるわ。だってマジ怖いもん、風見。
とは言え、いかに言葉のナイフが鋭くても単純な力の上では成人男性の方が勝るだろう。あいつらには風見の精神攻撃も効いてないみたいだし、このまま放置するのはまずいな。
それに、俺もあいつらがあの時の事を覚えてるか確かめておきたい。
「何やってるんですか。警察呼びますよ」
声をかけると、サングラスがまじまじと俺の顔を眺めてくる。
「お前どこかで……」
やはり覚えているのだろうか。だとすればちょっと厄介だが。
「まーいいや。関係ないのに首突っ込んでんじゃ」
胸倉を掴んでこようとしてくるので、腕を取り捻りあげる。
まぁ関係ない事は無いんだけど、あの位置関係じゃそう思われるのも無理ないか……。
「っつ……」
「もう一度言います。警察呼びますよ」
「わ、分かったよくそっ」
手を解放すると、流石にシラフでは暴力行為に走っては来なかった。
「でもなんだぁ? この例えようのない既視感は……」
「ほんまそれなー」
そんな事を言いながら男たちはこの場を立ち去って行った。あの様子じゃあの時の事は覚えてないようだ。少し安心した。
さて、とりあえず一難は去ったと言えるだろう。
とは言え、あまり風見の近くにいてはまた減点されて一難戻ってくるかもしれない。元の位置に戻ろうとすると、不意に風見が口を開いた。
「……プラス三十」
「え?」
つい目を向けると、そこには伏し目がちに視線を逸らし頬を染める風見の姿があった。なんかさっきより随分と雰囲気が柔らかく……。
「でも九十九点以下は、全然殺すから」
「う、うっす……」
睨みつけてきた。全然柔らかく無かった。
ていうか今しれっと凄い事言わなかったこの子? 九十九点以下で殺されるとかどんなテストだよ。完全に受からせる気ないよねそれ。
こりゃもう駄目そうだとげんなりしながら元の位置へ戻ると、風見も同じく銅像前までやってきた。
まぁ、集合場所ここだもんな。
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