第14話 あくまで因果(?)から逃れるために仕方がなくだ
倉庫で一悶着あった後、学校から俺が通っている道場へと直行し、つつがなく稽古を終えた帰り道。
信号待ちをしていると、ため息が漏れる。
まったく今日は散々な目に遭った。本当に最悪だ。
そう、ついさっき思い出してしまったのだ。
今日は俺の推しラノベの新刊の日だったという事実をッ!
本屋の空気が好きな俺はネット通販を好まない。よって新刊が出た場合直接本屋行く必要があるのだが、今日は倉庫での一件のせいで本屋に寄り損ねた。
今はもう九時を回り、近くの本屋は既に閉まっている。購入は諦めた方がいいだろう。
読みたかったな、俺は青春ラブコメがしたい!の三巻。いや別に青春を求める主人公に感情移入してるわけじゃないけどね? 俺自身は青春なんてどうでもいいと思ってるからな。あくまでストーリー面が面白いから推してるだけだ。本当なんだからね!
信号が青になったので足を進めると、駅前にある歓楽街へと足を踏み入れる。
歓楽街と言っても、この地域は少し行っただけで古墳があるようななんちゃって都市だ。歓楽街の規模は小さくちょっと歩いただけで市役所が出現するし、店もせいぜい飲み屋さんが並んでいるくらいのもので特に面白味はない。
それでも何故ここを通るのかと言えば、それは単に家まで近道だからである。
しかしそれでもやはり浮くな。何せこんな飲み屋ばかりの通りに学生服で歩いてるんだからな。普通こんなところに学生がほっつき歩いているわけがない。
現に、周りを見渡せばどこにも学生服の姿なんて……。
「ん?」
視線が、通りの一角で留まる。視界の先に学生服を姿を捉えたからだ。しかも同じ高校の制服じゃないかあれ? ていうかあの金髪、淳司君では?
目を凝らしてみると俯きがちで分かりづらいが、やはり淳司君に間違いなさそうだ。一体こんなところで何をしているのだろうか。
なんとなく気になり眺めていると、淳司君の前からガラの悪そうな三人組が歩いてくる。しかし淳司君は気付いた様子もなくそのまま歩いていった。
その中の一人に肩が当たると、淳司君は肩を掴まれ何か言われているようだ。
やがて淳司君は男に肩を回されると、どこかへ誘導される。
おい大丈夫かよあれ……一応付いていってみるか。
三人組はやがて人気のない裏路地に入ると、淳司君を壁際に追い込む。
「さっきからお前舐めてるよね?」
身長高めのサングラスをかけた男が淳司君に迫る。後ろの二名はその姿を見ながらウェイウェイ囃し立てていた。見たところ大学生くらいだろうか。酒も入っていそうだ。顔が紅い。
「い、いや勘弁してくださいよ……前向いてなかったのはほんと、俺の不注意なんで。すみません」
「はーいうっそぉ! 絶対反省してないよね君ぃ?」
「はい⁉ いやそんな事ないっすよ!」
「え、なんてぇ? きこえなぁい」
「だから!」
淳司君が言い募ろうと声を上げると、グラサンの男が壁にあったらトタンを蹴り上げる。
「うっせぇなちょっと黙れよ」
グラサンの男が言うと、男たちがケタケタと下卑た笑い声を上げる。
「そんな……」
淳司君が消え入りそうな声を発する。今にも泣きだしてしまいそうだ。
まったく、今淳司君は何を考えてるんだろうな。理不尽とでも思っているのだろうか? だとすれば随分と滑稽な奴だ。今日まさに理不尽な仕打ちを別の誰かさんにして来たくせに。
因果応報と言う言葉が日本には存在するが、今この状況がまさにそれだろう。
その言葉通りならきっとここで淳司君はこの男たちに痛い目に遭わされるに違いない。何故なら因果は巡る。三人がかりで俺を痛めつけようとしたんだから、それがその身に返って来るのも当然と言えるだろう。
……とは言え。因果応報と言う言葉を信仰するのであれば、むしろ痛めつけたのは俺の方なわけで。まぁなんというか、ここで淳司君を因果に組み込んでしまえば自ずと俺もその因果に組み込まれて近いうちに痛い目見るかもしれないわけだ。
俺がそれを回避するのであれば淳司君をどうにかその因果から解放してついでに俺自身の因果も解き放ってですね。まぁ別に淳司君がどうなろうと俺の知った事ではないんだけどね? 俺的には因果に痛い目合わされるのは嫌だし、ここはとりあえず俺が今後因果に呑まれないためにも何かしら行動を起こすべきだろう。何はともあれとりあえず警察だな。それがいい。
「あーもういいわー。ヤキ入れてやるから有り難く思えよ~!」
110番通報をしようと携帯を取り出すと、グラサンが拳を鳴らし始める。
いやこれ呼んでる間に淳司君の身が危なそうだな。日本の警察は優秀だしすぐ来てくれるだろうが、流石に瞬間移動はできないだろう。その間に淳司君が痛い目を見る事があればそれは俺が因果に組み込まれてしまう事と同義だ。それは避けなくてはならない。あくまで俺のためにな。
うーむ、気は進まないがとりあえず声かけてみるか……。
「あのすみません、何してるんですかね?」
「あ? 誰お前」
グラサンが苛立たし気に言って来る。いや怖いんですけど。もうちょっとスマイルしてくれませんかね……。あとこの場所酒臭い。こいつら相当飲んでるなこれ。
「雀野……?」
淳司君が俺の名前を呼ぶ。おいやめてくれないかなマジで。できれば無関係な第三者としてこの現場に割って入りたかったのに。
「ほーん、雀野っていうの? もしかしてこいつのダチ?」
「あーいやそういうわけではないんですけどね……」
むしろ敵対関係というかなんというか。
「ま、なんでもいいけど、邪魔しないでくれっかなぁ? 俺ら今からこいつに礼儀ってもんを教えようと思ってんの」
「礼儀、ですか。具体的にはどんな風にですかね?」
とりあえず時間稼ぎをしつつ隙があれば警察に通報しよう。
「そんなの決まってるじゃん?」
転瞬、グラサンの男が淳司君に振り返ると、拳を振り上げる。
いや急すぎない⁉ これだから酔っぱらいは! こいつ絶対正常な判断出来てないだろ!
「こうすんの!」
淳司君に拳が入りそうだったので、すかさず間に割って入る。
腕で受けると、腕に僅かな痺れが残る。いや普通に痛いな。まぁ変な受け方したし当たり前か。
「は?」
男は間の抜けた声を漏らすと、グラサンが傾く。
やるなら今しかない。
俺はすかさずスマホを取り出し110番をコールする。
「おい、こいつ警察呼ぼうとしてるぞ!」
誰かが声を張る。くそ、誰だ勘の良い大人は!
「なっ……てめ、させるか!」
グラサンが携帯かすめ取ろうとしてくるので避けるが、勢い余って携帯を地面に落としてしまった。
それを見たグラサンは勝ち誇ったような笑みを浮かべると、膝を打ち込んでくるので手で対応する。クソッ、なんでこうなるんだよ!
心中で悪態を吐きつつ、飛んでくる拳を避ける。
同時に、後ろにいた他の二人もとびかかって来た。一人は防ぐが、もう一人どうやら淳司君を狙っていたらしい。ああくそ、もう知らん!
グラサンの鳩尾に蹴りをお見舞いし、抑えてた一人に素手を打ち込むと、最後の一人を肘で殴り倒す。
もうやけくそだった。
気付けば目の前には三人の男たちが手をついたりうずくまったりしている。
あーあー……どうすんだよこれ……。でも急すぎて守る余裕なかったんだよな。後ろにこいつもいるし。
「えっと、悪いけど一緒に逃げてくれる?」
声をかけると、呆然としていた淳司君だが我に返ったように無言で何度も頷く。
すかさず携帯を拾い、淳司君の腕を引っ張り路地裏から脱出する。
――どうか泥酔状態で全部忘れてくれてますように!
そう祈りながら、とにかく現場から離れるべく駆け抜けた。
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