子蜘蛛達が異常個体な件について

ダンジョンからアラネアお母さんが出て、直ぐ目に入ったのは息子蜘蛛ではなく、息子蜘蛛が入口近くまで投げた丸々と大きな巨大蜘蛛糸玉だった。


「……これは?」


あまりな光景に、呆けてしまった。しかし、ちゃんと見れば、蜘蛛糸の塊であり、中に、というより絡まっている動植物も見える。アラネアお母さんは仕方なく、糸をほどき始め、無事な魔物と多少傷ついている魔物、死んでいる、または重症な魔物に分け、とりあえず無事な魔物を洞窟に逃げて行くように誘導した。


「ムシュ!?(お母さんどう!?)」


だいぶ捌けたところで、アラネアお母さんの所に息子蜘蛛が到着した。


「確かに量は集まったけど……。ほら、食糧にする方が多いでしょ?なるべく無事なのが多い方が良いわ。まあ、娘用に確保したと言えば分からなくもないけど…。とりあえず、軽症の魔物は丁度良いので、回復系の魔法や薬草を使った治療方法を学ぶのに役立てましょうか」

「ムシュゥ(はーい)」

「所で、進化の兆候みたいなのは有る?ちょっと眠いとかだるいとか」

「ムシュ?ムシュムシュ(ん-?そういうのはないかなぁ)」

「そう?なら良いんだけど」

「ムシュ?(どうかしたの?)」

「いえ、結構魔核や強い魔物の肉を食べたから、そろそろ来るかと思ったんだけど……」

「ムシュゥ…ムシュムシュ(うーん…まだ進化までは足りない感じはするかなぁ)」

「そう……。まぁ、準備はしておきましょう」


話は終わりという感じで、重傷の魔物の治療を息子蜘蛛と一緒に行う。魔法による治療だ。こればかりは、自分で自分を傷つけて練習するより、失敗しても良い餌でやる方が楽なのだ。


「じゃあ、治療が終わったら洞窟に誘導でまたお願いね?」

「ムシュッ!(分かった!)」

「ただし、遊ぶのは良いけどあまり目立つというか、糸玉にして遊ぶのは控えてね?」

「ムシュゥ(はーい)」


 アラクネお母さんは息子蜘蛛に軽く指示を出したら、洞窟の中に入って拡張工事やらすみ分けやら作業を始めるために洞窟に入って行った。息子蜘蛛はアラクネお母さんを見送った後も治療を行い洞窟に行くように誘導して、今度はどう捕獲して持っていくかを考える。


一方、妹蜘蛛はというと、巣に戻ってお昼寝をしていた。満腹になって眠くなったのだ。しかし、純粋な眠気であって、気だるさは無く、こちらも進化の兆候というものは、まだ出てきていないように見えた。


 


 それから数日後、ダンジョンに向けて十数人の人間が近付いて来ていた。その人間達は国に属する軍人とは違い、バラバラの装備で武装しており、周囲を警戒しながら進んでいた。その一見、道のように見えて進んでいる場所が息子蜘蛛が糸玉を引きずった後とも知らずに。


「……おかしい」

「あ?何がだよ?」

「何かあったか?」

「森に入って来た時よりも、獣や魔物にあまりに遭遇しない」

「気のせいだろ」

「言われてみれば、鳥や虫の声もあんまりしないですね」

「……全員、警戒を上げろ。多分、ここから縄張り範囲だろう」

「いや、でも獣臭もあまりしないですぜ?」

「それどころか、目撃証言の有ったオークを1体もまだ見てないな」

「魔法撃ち放題?」

「戦闘にもなってねぇのに撃とうとすんな」

「所でいきなり現れた道を進んでるけど大丈夫なのか?」

「ごちゃごちゃ騒ぐな。オークでも道を作ってた事もあっただろ」

「……?……あっちの方角が騒がしいけどどうする?」

「巣の駆除が優先だからな。この道を作ったのがオーク共ならこのまま進めば問題ないだろ」

「それもそうか」

「うおっ!?なんだこれ?」

「あ?……糸か?」


 しかし、そんな警戒態勢での行進のなか先頭の1人の顔に何かがかかり、それを取って見るとそれは少し粘着力がある白い糸のようなもので、周りをよく見回してみると木の枝が不自然に折れていたり、そういう木にも糸が着いているのがいくつか確認出来た。だが、そんななか集団の真ん中を横から突風が走り抜け、気づいたらそこに居た仲間の姿はなくなっていた。


「「「は?」」」

「え?」

「てっ敵襲!」

「やられた奴は無事かっ!?」

「っ!?ヤバい!何か大きいのがこっちに来てる!」

「そいつがやったんじゃないのか!?」

「いや、音的には後ろからだ!横じゃない!」

「おいおい、オークの奴ら魔物の飼育もしてやがったのかっ!?」

「ゴブリンとかが狼を飼うってのは聞いたことも見たこともあるが、オークは聞いたことないぞ!」

「うをっ!?森で火系の魔法を撃つんじゃねぇ!しかもこっちは味方……」

「バカ野郎!敵の攻撃だ!」

「いやいや今のはどう見てもフレイムランスだろ!?魔物が使う魔法じゃないだろ!」

「知るか!現実を受け入れろ」

「え?……蜘蛛?」

「バカが!突っ込んでくるぞ!横に避けろ!!」

「でけぇ……なかなか見ない大きさだな」

「クイーン級の子供か何かだろ。というか、今ので半分消えた、k?」

「おいおい、じょうdn……」

「に、逃げn……」

「……」


 人間達が最後に見たのは、バラバラになっていく仲間か自分の姿だった。娘蜘蛛が後ろから集団に突っ込んだ後、息子蜘蛛が風の刃を賽の目状に展開して集団に向けて飛ばした結果である。しかし、人間達を食べた後、急に眠くなった2匹は洞窟の前までなんとか戻り、眠りについてしまった。

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