僕達、進化しました! さよなら……仮拠点
ドーム状の繭を作っている時、たまに僕や妹からピシッ、ピシッ、と変な音が聞こえると共に、僕達(僕と妹)は眠たくなって来ていた。そして、途中からはアラクネお母さんが繭を作り、僕達は眠りについてしまった。
「……進化の繭、進化の兆候。餌は十分。後は……私がこの子達を外敵から守るだけ。息子は知能と魔力が高い。娘は……糸の扱いと毒が普通よりも強い。多分、この子達は普通の蜘蛛に進化しない。娘は……多分、最終的には私と同じ、息子は……一体どんな進化をするのか……本には何も載ってない。フフッ、人間の子育てしか載ってないから当然ね。……でも、多分、この本よりは成長してるかしら?……まだまだ知識と本が必要ね。どこに有るのかしら?人間の住む街というコロニー?……面倒くさい」
アラクネお母さんは、寝てしまった2匹の可愛い子蜘蛛を仲良く並べ、蜘蛛糸で布団というのを真似て作って、2匹に掛け、繭から出て外敵を待ち構えながら考察していた。
だが、一度だけ自分の前に現れ、助言をくれた自身より格上の存在が、再び目の前に現れた。
「……あなたは」
「お困りのようだね。念願の子育てで」
「うん。そう」
「新しい本を君にあげる。ちゃんと一回は君が読んで、理解してから教えなよ?じゃないとちゃんと学習出来ないからさ」
「……ありがとう。どうして、魔物に手を貸すの?人間が崇める神という存在は、私達魔物を嫌ってたはず」
「ははは、それは僕達からすると人間が勝手に言ってるだけだよ。そして、僕は君が……いや、今は君達という存在が面白くて、ただ楽しく観察してるだけ。ただ、今回のはちょっとしたお節介、まぁ、手助けだね。2回目だけども、多分これ以上はしないよ?じゃないと僕は、僕より上の存在に怒られるからね。じゃあ……子育て頑張ってね」
「何から何まで……本当にありがとう」
アラクネお母さんは、多分、神と呼ばれる存在、彼女に頭を下げ、彼女が落とした数冊の本を大事に大事に抱き上げた。そして、それを満足げに見て、彼女は何処かへと消えた。残ったのは、再び頭を下げたアラクネお母さんだけである。
そして、アラクネお母さんは彼女から貰った本を読みながら、近づく外敵から子供達を防衛し、子供達が進化を終え、脱皮し、ご飯を食べるまで時間を潰した。
最低限、人間の言葉や文字は分かる。本には当たり前に知っている魔素やら魔力やらの話、そして、あまり良く分からない魔法という人間が使う技、技術という物。それ等を読みながら時折実践し、幾つか自分でも出来たので、それから更に、教える事が出来るように学習と修練に時間の多くを費やしながら、たまに来る外敵(ご飯)を補食し、子供達が繭から出てくるのを待った。
息子達が進化を始めて7日目。
「……遅い。進化ってこれくらいかかってたのかしら?いや、遅すぎる……ちょっと様子見を」
「ムキュ~(お腹空いた~)」
どうやら娘は進化が終わったようだ。
「おはよう。ご飯は沢山有るから遠慮せずに食べ……」
「ムキュッ!?ムキュ~(本当っ!?お母さん大好き~)」
娘は勢い良く貯めた餌に飛び付いたが……アラクネお母さんはそんな娘を興味深く観察していた。
「……普通の進化よりは一回り小さいけど、私が知らない蜘蛛ね。ただ、進化にちょっと時間がかかってるのは何故かしら?」
「ケフッ、ムキュ~(はぁ、食べた食べた)」
「……ちょっと狩りをしましょう。お兄ちゃんがまだ進化しきってないから、起きた時はあなたが起きた時みたいにお腹が減ってるから」
「ムキュ?……キュ(ふぇ?……あ)」
娘は空腹を満たす為に貯めてた餌を一気に大量に……いや、全て食べてしまった。これでは息子が目覚めた瞬間、餌が無い状態になってしまう。
なので、いつ進化から目覚めるか分からない息子の為に、急いで餌を貯めないといけない。が、ここで悩ましいのが娘の力を見るために一緒に狩りをするか、狩りと繭の防衛で分かれるかだ。……少しだけなら大丈夫かな?
「ム、ムキュ?(お、お母さん?)」
「ん?あぁ、怒ってないよ。ちょっと2人で餌を貯めながらむす……お兄ちゃんを守ろうか」
「ムキュッ!(うん!)」
いけないいけない。考えてたら娘を不安にさせてたようだ。うん、ほんの少し位なら大丈夫だし、バカな獣や魔獣は繭に引っ掛かって動けなくなるし、知恵のある者も人間も近くには居ないから問題ないだろう。
だから、最初は繭に捕まった餌を回収する事から始め、湖であの子がやっていた方法で餌を確保し、たまに2人で狩りに出て餌を確保しながらご飯にする。
そうして、母と娘でのんびりと数日たったある日、とうとう進化を経て繭から息子も出てきた。
「ムシュー(お腹空いたー)」
「ムキュ!(お兄ちゃんが起きた!)」
「餌は沢山あるからゆっくり食べなさい。って貴女はさっき食べたばかりでしょ?」
「ムキュッ!(そこに餌が有るから!)」
「それはお兄ちゃんの分って言ったでしょ?食べたいなら狩りなさい。と、言いたいけど……お兄ちゃんがそれを食べきったら移動しましょうか。近場に餌が殆ど居なくなったからね」
「ムキュッ!ムキュムキュ~(やった!お兄ちゃん早く食べきって~)」
「ムシュッ!?ムシュムシュ(無茶言わないでっ!?ほんの少しなら食べて良いから)」
「ムキュッ!?ムキュー(本当っ!?お兄ちゃん好きー)」
「……ふふふ」
まぁ、お兄ちゃんだからね!というか妹よ……僕よりでかくなってない?って一番大きい餌を食べ始めたっ!?僕、ほんの少しって言ったよねっ!?さては始めから狙ってた?……次に分ける時は手渡そう。うん。絶対。
さて、僕のお腹は一杯になったけど……うん、餌が余りそうになった瞬間、妹が全部食べちゃったね。前からよく食べてたけどさぁ、何処に入るの?というか入ってるの?不思議だなぁ、同じ蜘蛛なのに。
「それじゃあ行きましょうか。行きたい方向とかある?」
「ムシュ!(湖の奥の方!)」
「ムキュ!(あっち!)」
「……じゃあ、湖を回って奥に進んでからそっちに行きましょうか」
うん、僕がほぼ直進、妹はどういう訳かわからないけど右の方、んで、アラクネお母さんが僕達の意見を取り入れて進路を決定!次なる餌場を求めて張り切って行こー!
アラクネお母さん達が去って数日後、繭のだった物の近くに武装した人間の集団が来て、周囲を警戒しながら糸をなんとか回収し始め、採取不可能な糸は周りの木を切り倒して火が広がらないようにしてから燃やされた。
「にしても上質な糸だが……巣の主はどこに行ったんだろうな?」
「知るかよ。ただ、厄介な魔物だってのは分かるけどな」
「あぁ……大量の骨だらけだったからな。道中はまだマシだったが、まさか巣の中にあれだけあるとは、な」
「国がこの巣の主を討伐する気なら、戦争するレベルの人手が居るよな……」
「まぁ、でも……国境は超えてくれてる事を祈ろう。被害が出てからじゃヤバいだろ」
「だな。抜け殻的に進化したのは2匹だが……前の洞窟といい、普通の蜘蛛の魔物とは考えない方が良いだろう」
その後、人間達は周辺を探索し、数日後収穫した物を持って帰っていった。
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