初めての太陽、初めての森、初めての湖

「さて、もう此処に用は無いし、外に出ましょうか」

「「ムシュ(ムキュ)?(外?)」」


それは、食事を終えてのんびりしていた時、アラクネお母さんは突然そんな事を言ってきた。よく分かってない僕と妹は首を傾げて頭に?しか浮かばない。


「あなた達はここで生まれ、まだここしか知らないけれど、世界は大きくて広いのよ。それに……ここより食べ物に困らないわ」


アラクネお母さんの最後の一言で、僕と妹は目を合わせ、目を輝かせてついて行く意思を示した。


「ムシュムシュ!(僕達お母さんについてく!)」

「ムキュ!(うん!)」

「フフフッ……コホン、それじゃあ、こんな暗い場所からさっさと出ましょうか」


アラクネお母さんは、顔をほんのり朱くして嬉しそうに微笑む?と、何故か咳払いをして僕達を抱き上げると、背中というかお尻の上に僕達を乗せ、「落ちないようにね?」と言って、軽く糸で僕達を胴体と繋げ、全速力で外に向かった。


移動中、割りと揺れは安定していたけど、速度が僕達と全然違くて、景色……はあまり変わらなかったけど、凄く速いのだけは分かった。だって、餌を見つけて持って行こうと思っても、全然違う場所に糸が飛んでっちゃうし、気付いたら、外は凄く明るくて、色んな色で溢れていたから。


ただ、僕達が居た場所から出ても、アラクネお母さんはなかなか止まらず、坂の上の方へと足を進め、上の空間のキラキラして直視出来ないあの光を反射する広い液体のある開けた場所に出て、ようやくアラクネお母さんは止まった。


「暫くはここを仮拠点にしましょう。あなた達に教える事は、沢山有りますからね」

「「ムシュ(ムキュ)(はーい)」」


そして、僕達は回りの物も使って巣を作り始める。勿論、捕縛用の罠や獲物がかかったり、巣に近づいてきた存在を僕達に知らせる作りもやっておく。何か僕の作業を見て、お母さんが目を見張って、それから褒めてくれた!妹は少し拗ねたようだけど、巣作りを一緒に頑張ったのはわかってるので僕が妹を褒めた。


「とりあえず、今日はもう寝て、明日は周りを探索しながら色々教えるわね」

「「ムシュ(ムキュ)(はーい)」」


そして、僕達は頑張って作った仮拠点の中に入り、3匹仲良く寝た。なんだか暖かい温もりに包まれた感じで、凄く安心してぐっすり眠れた。

そして翌日、特に罠に獲物はかかっておらず、目の前の液体が水という物で、これくらい大きい水の溜まったのを湖というらしい。そして、湖に流れる水は川、上の空間は空、そして眩しいのが太陽、夜という空が暗くなると太陽の代わりに月、というのが現れる事、周りの草や木という植物も一通り、簡単に分かりやすくアラクネお母さんに教えて貰った。


そして、僕達がどういう名で呼ばれ、餌の名前も教えて貰った。僕と妹は蜘蛛型の魔物、お母さんはアラクネという蜘蛛型魔物の上位に君臨する存在らしい。


と、そんな時に湖から、口が長くて大きく、鱗に覆われた巨大な蜥蜴に近いようで違うような餌が出てきた。アラクネお母さん曰く、ワニという存在で魔物ではないらしいが、肉食で凶暴な奴だと教わった。ただ、3匹でワニを糸で動けなくして、柔らかそうな場所に毒を撃ちこんだら痙攣して、僕達のご飯に早変わりしたけどね。


「あなた達は賢くて、そんなに手がかからなくて楽ね~」

「ムシュ?(そうなの?)」

「ムキュ!(やった!)」

「フフフ、良い子良い子」


アラクネお母さんは、よく僕達を褒めて頭を撫でてくれる。すると、ほんわかして凄く温かい。そんななかで、明日は何をするか?明後日は何をしようか?と楽しく話して、実践していく。


そんな中で、僕の興味は湖の中である。近くは底が見えるけど、少しすると底が見えない。アラクネお母さん曰く、段々底が深くなっているらしい。そして、水中では息が出来ないし、そのままでは潜れないし、湖の中にワニより大きな口の魚というのが居れば丸のみされる場合も有るから近づかないように。と注意を受けている。


「ムシュムシュ~(さーて、今日は何が取れるかな~)」


そう言って、僕は石を幾つも絡めた蜘蛛の糸を空に向けてバッと投げ、上手く操って糸を展開さて、湖に蜘蛛糸を落とす。


「ムキュムキュ~(お母さん、お兄ちゃんがまた変な事してる~)」

「んー……アレは一応は狩りなのよ?ほら、糸だけじゃ最初は水に浮いてしまうでしょう?だから、石を重りにして早く水の中に沈むようにしてるのよ。でも……あの子は特別なのでしょう。人間という、知恵がやたら働く生き物みたいな奴等と考え方が近いかもしれないわね。魔力も貴女より高いし、知恵もある。色々教えてもらいなさい?大丈夫。兄妹仲良く、ね?」

「ムキュ!(分かった!)」


そんな母と妹の微笑ましい会話だが、2匹は狩りをして帰ってきたばかりであり、妹とお母さんの背には餌が糸で拘束されて乗ってる。


で、僕は巣の守りをしつつ、漁をしているわけ。何故かって?もちろん、暇だしごはんは多い方が良いに決まっているから!いや、おやつ程度のは遠くに糸を出して、手繰り寄せるだけでも割りと取れるよ?でも、どうせなら大量に取りたいし、お腹いっぱいになりたいから、試行錯誤の結果、今のやり方にたどり着いたわけ。っと、さっきより重いかも……これは大量の予感!

と、思ったら大量と言えば大量なんだけど、でっかい魚が獲れた!しかもすっごい暴れる!慌てて僕はでかい魚に噛みついて毒を流し込み、息の根を止める。


「これは……お肉は焼けば日保ちするらしいから焼いちゃいましょう。お魚は直ぐ食べないと腐るからお魚を先に食べてね?私は少し離れてお肉焼いちゃうから。ただ、お魚を全部は一気に食べないでね?私も食べたいから」

「ムシュッ!(分かった!)」

「ムキュゥ(お兄ちゃんのバーカ)」

「ムシュッ!?(何でっ!?)」

「はいはい、喧嘩しないの。仲良く、ね?」

「「ムシュ(ムキュ)(はーい)」」


そして、アラクネお母さんは蜘蛛の兄妹から少し離れ、焚き火(キャンプファイア)を作って、肉をその火(炎)の中に投げていき、これで終わりと、でかい魚を食べに向かう。


そこでは、仲良くでかい魚を食べる蜘蛛の兄妹。だが、アラクネお母さんも食事に参戦したため、大きな魚はあっという間に骨だけになり、一緒に打ち上げられた魚達も湖に帰る事なく食べられた。


翌日、焚き火(キャンプファイア)跡に皆で行くと、そこには表面が真っ黒に焦げた肉が出来上がっていた。アラクネお母さんが真っ黒い部分は苦くて美味しくない。と器用に焦げた所だけ排除して僕達は焼けた?お肉を食べた。美味しかったけど、僕達蜘蛛は火が苦手だ。弱点と言っても良い。なので、今度からは焼いたお肉は無しの方向にした。


で、今はお母さんと一緒に3匹で森に入り、獲物を探している。昨日、僕が漁でやらかしたので留守番は無しの方向になったのだ。まぁ、罠は設置しましたよ?もちろん。


「なぁ?」

「分かってる。アレは……蜘蛛だな。しかも広範囲に糸が張られてる……もう少し探りたいが……」

「情報を持ち帰る前に死ぬ確率が高いな。撤退しよう」


アラクネお母さんと蜘蛛達とは別の場所、洞窟から少し登った場所にて、何人かの武装した人間が遠くにある仮の巣(罠)の状態を見つけ、周囲を警戒しつつ、その場を後にした。もちろん、蜘蛛達は気づかない。気づいたとすれば……それは。


「逃がすと思った?ダメだよ人間。アレ等は僕の楽しい楽しい観察対象なんだから。ここから先に進むなら山の主……は今さっき狩られたから……うん、君達人間風情が邪神と呼ぶ僕が相手になるよ?って聞いてないか。……仕方ない、たまには神らしい事でもしようかな」


冒険者と呼ばれる職業の人間達、あぁ、さっき僕の観察対象の痕跡を見つけて、それを持ち帰ろうとした者達は原型を留めておらず、無惨な状態で山の糧になった。いや、僕は何もしてないよ?ただ、山の主が殺られて逃げてきた魔物に狩られただけ。まぁ、僕に攻撃するほど彼等は馬鹿じゃない。アイツが生んだ人間よりはね。


「ムシューッ!!(ムキューッ!!)(でっかいお肉だーっ!!)」


僕達は今しがた倒したでかい獣、アラクネお母さん曰く、ここら辺の主、を倒してはしゃいでいた。1日で食べきれるかな?とか主なんて倒したらここら辺だと敵無しだね!とか楽しく話ながら主だった巨大猪を食べる。


「……意外と成長早いのね。少し寂しいけれど、ここに巣を作りましょうか」


と、食事中にアラクネお母さんが言ったので、僕達は食事を中断し、アラクネお母さんの指示の元、更にお肉を狩ってから隙間が無い位、綿密に過密に巣を作った。多分、外から見ると巣というより卵?アラクネお母さん曰く、繭、のようにそれはもう頑丈に作った。まぁ、多分、火が有ったら燃えちゃうかもしれないけれど。

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