第3話 凍えるほどにあなたをください

 ノゾミは上半身はいつもの見慣れた女子の制服を着ていた。視線を下げると馬。なぜ女子がケンタウルスなんだよ、心の中でススムは突っ込む。しかも優しくて無口な子が。


 その後ろからマモルが水もないのにドルフィン泳法で付き添ってくれた。女子におんぶされる初経験と、乗馬が同時なんてとススムは揺れる背中の上で他人事のように思った。あったかい。



「心配ないわ、2人は授業に戻りなさい。ちょっと熱があるね」



 先生はススムのおでこに手を当て冷気を出す。2人が手を振っていなくなる。



「なにかあったの」


「先生、俺熱で頭おかしくなったのかもしれないです」


「ふうん?よかったら先生に話してみて」



 ここの保健室の先生はサボりの子にも優しい。あったかいココアが運ばれてきた。



「みんな急に変わってて、俺だけなにもない、普通の人で。先生も今朝までそうだったよね?」


「この氷?生まれつきよ。世界と自分を比べるようになったってことよ、大人の第一歩ね」


「そうじゃなくて」


「ススムくんは、魔王を倒した勇者と同じ、無力の持ち主よ」


「先生?」


「…あら魔王の話、歴史で習うでしょ?」



 そういうと先生は戸棚から歴史の教科書を出して、ススムの前へ。おそるおそるページをめくる。猿のような毛むくじゃらが魔法を使い、猿と魚が混じった者も仲良く暮らしている。そのうち両者は戦争し、悪魔や神獣との闘いのため和解していく。まるで教科書がファンタジーに乗っ取られたようだった。

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