13-3

「行くぞっ!」

 スパイナーが右腕をスパナアームに換装して走り出し、カンディルとの距離を詰める。迎え撃つカンディルは無数のカンテラボムを掌から投射する。広間全体に広がった爆弾は次々と着弾し、空間全体が爆煙に覆い隠されるが、次の瞬間にはカンディルの眼前に銀のスパナが迫っていた。この程度の爆風では、スパイナーの速度を緩めることなど不可能!


「ぐごぁっ」

 スパナアームの一撃に殴り飛ばされるカンディルだが、空中でどうにか体勢を立て直し着地する。

「な、中々やりますね。ではこうです!」

 参謀の頭部から伸びる7つのカラフルなカンテラ。その内の2つが一瞬発光する。すると次の瞬間、カンディルから2つの影が飛び出てきた。いずれも参謀と全く同じ姿で、幻覚能力によるものなのは明らかだ。3体に分身したカンディルは、スパイナーを取り囲むように立つと掌を構える。


「さて、どれが本物でしょうね?」

 3体の参謀が、スパイナーを包囲する形でカンテラボムの弾幕を張る。全てを避けるのは不可能な距離。しかしスパイナーは、三方から迫り来る爆弾を見ても全く動揺の色を見せなかった。

「アームチェンジ」

 右腕をネイルガンアームに換装したスパイナーがその場で一回転する。直後、参謀の1人がバランスを崩した。それを確認するなり、解体戦士はその個体が放った爆弾を避ける位置に移動して攻撃を回避する。


「ば、馬鹿な!?」

 解体戦士が一瞬のうちに狙い撃った3発の弾丸が、3体の参謀の脚部にそれぞれ命中。本物のみがバランスを崩したのである。彼の動きはそれに止まらなかった。参謀が体勢を立て直す暇を与えず、高速で彼に接近。再換装したドライバーアームを至近距離で投げつける。


「ぐぎあぁぁ!」

 辛うじて体を折り曲げ、串刺しは免れたものの、装甲の端を貫いたドライバーに引っ張られてカンディルは壁面へと叩きつけられる。無様に壁からずり落ちる参謀。解体戦士として数々の戦いを積み上げた結果、スパイナーの戦闘技術はカンディルとは比較にならないレベルにまで成長していた。


「どうした、まさかこの程度で幹部を名乗ってるのか?プロスは勿論、バンリャや掃除野郎の方がよっぽど強かったぜ」

「お……のれ……調子に乗るなぁ!ファンタスコープ!」

 スパイナーの挑発を受け、カンディルは肩を震わせながら立ち上がり、叫ぶ。次の瞬間、7つのカンテラが一斉に光を放ち、スパイナーの周囲に突如として壁が出現した。いや、彼の周囲だけではない。広間全体に壁が張り巡らされ、巨大な迷宮のような様相になっている。これぞ、カンディルの幻覚能力「ファンタスコープ」の真骨頂。もっとも、この壁は結局のところ幻覚に過ぎず、足止めの効果は無い。だが、敵の視界を奪うという点においては十分すぎるほどの効果を発揮した。


「ぐっ……」

 再び広間を飛び交う無数のカンテラボム。その無差別爆撃を避けきることができず、スパイナーは全身に被弾し、爆発のダメージを負う。更にその爆風が引き金となって発生した爆発の連鎖に巻き込まれ、身動きが取れなくなっていく。


「フハハハハッ!さっきの余裕はどうしました?」

 カンディルは高笑いを上げながら、両腕を上方へと伸ばす。

「貴方は特別に、この技で葬ってさしあげましょう。かつてのハルマ将軍の秘奥義、ハルマゲドンクラッシュでね!」


 突如として轟音と共に、広間全体を覆うほどの大きさをした円盤状の物体が上空に出現した。かつて、将軍が隠し持っていた最強の技。直径数百mに及ぶ巨大な戦鎚状のエネルギー塊を召喚し、あらゆる物体を圧砕するという、まさしくダークフォース最強の破壊力を持つ秘奥義。メテオリオン戦ではその危険性を見抜かれ、速攻で勝負を決められたために不発に終わったが、戦闘直後に密かに割り込んで止めを刺した事で、カンディルは奇跡的な確率を制してこの能力を手に入れていた。自分がダークフォース最強になった事を決定付けたと言ってもいい力。披露する機会が無くなったと思っていた隠し玉をこのタイミングで使う事になるのは意外だったが、将軍の座を阻む最後の敵を倒す技としては、この上なく相応しい。


 乱立する幻影の壁を、散乱する小型爆弾を、そして集中砲火を浴びる解体戦士を。破滅の戦鎚は、広間内の全てを呑み込むように降下を続け、やがて大音響と共に床へと激突した。同時に発生した爆風も相まって、崩壊寸前レベルの大激震に襲われる大広間。スパイナーにこの惨劇から逃れる術が無いのは明らかだった。

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