13-2
スパイナー、いや玄場コウジは、赤い文字に埋め尽くされた空を見上げていた。その全てが警告している通り、彼のいる電脳世界を構成するあらゆるオブジェクトは大きく揺らぎ、崩壊を迎える準備をしている。世界の終焉は近い。だが、彼の表情に焦りは無かった。
ナットクリスタルを額に掲げる。このアイテムを使うのも、これが最後になるかもしれない。__そういえば以前、博士が言っていた。「本当の意味での変身とは、肉体だけでなく精神も、見えている世界までも変わるものだ」と。それを踏まえれば、この姿を捨てて新たなる世界に飛び出すこの瞬間こそ、本当の意味で「変身」を果たす時と言えるかもしれない。
「見ていてくれ、みんな」
崩壊を始める世界の中央で、彼は高らかに叫ぶ。
「マインド・イン!」
コウジの全身は光に包まれ、空高くへと飛翔する。赤い警告文字を突き破り、漆黒の電脳空間の更に向こう側へ。宇宙空間を貫く流星のように、光のごとき速さで、どこまでも真っ直ぐに。暗黒空間の極点、出口を示す小さな光へと……!
一方、参謀カンディルはダークフォース基地内の大広間へと戻った所だった。この広大な空間も、とうとう彼1人のものとなった。システムの再起動にはまだ多少の時間がかかるが、もはや彼の天下は揺らぐことがない。後は広間の最奥にある、空になった玉座へと座れば、正式に将軍へと就任する。万感の思いに浸りながら、彼が大広間を横切っていたその時。突如として床が、そして基地全体が大きく揺れはじめた。
「!?……これは……」
カンディルが驚愕している間にも、振動はどんどん強さを増していく。そして、その振動の発生源と思しき何かが、真下から広間へと近付いてくる……!
「うりゃぁっっ!」
轟音と共に床が破壊され、何かが地下から飛び出してきた。衝撃波と瓦礫を食らって吹っ飛ばされたカンディルが起き上がった時、その眼前には予想だにしない相手が立っていた。
「な、何故貴方がここにいる!?解体戦士スパイナー!」
そう、そこに居たのは紛れもなくスパイナーだった。電脳世界と共に消滅した筈の男が、どうやって体を取り戻し、現実世界に帰還した……?
「よう、久しぶりだな間寺」
スパイナーはそれには答えず、人間同士だった頃のようにカンディルへと話しかける。
「お前には感謝してるんだぜ。色々あったが、俺がここに辿り着けたのはお前が色々教えてくれたお陰でもあるからな。遂に来れたぜ、待望のダークフォース基地に。ま、今から俺が解体するんだが」
「そ、そうか……最初から肉体は破壊されていなかったのか!ケルブの奴、最後までそれを隠して……!」
「ご名答」
そう、ケルブと違い、スパイナーの躯体は損傷が激しかったものの破壊はされておらず、休眠状態のままケルブによって地下に秘匿されていた。言わばスパイナーは、自分でも気付かないまま長時間のフルダイブを続けていた状態だった。そして唯一その事実に気付いたプロスが保存されていた躯体を見つけ出し、再起動可能な状態にした上でスパイナーに情報を流したのである。
「プロスにも感謝している。俺がこうして復活できたのはあいつのお陰だ。いや、プロスだけじゃない。ユキエ、博士、そしてメテオリオン。誰か1人でも居なかったら、俺はここに立っていなかった。だから俺は、みんなのために戦う。ここで貴様を打ち倒す!」
「ハ、正義の駒にAIに裏切り者ですか。木偶人形の貴方に相応しい、なんとも頼もしい仲間たちですねぇ。しかも全員無様に死んでるときている。正直、どうして貴方がそんな奴らのために戦うのか理解できません」
「たとえ命が失われても、正義の意志は受け継がれていく!他人を利用することしか考えない貴様なんかに断ち切れると思うな!」
「……いいでしょう。駒のくせにプレイヤーに歯向かう、その思い上がった性根ごと叩き潰してあげましょう。私の将軍就任の門出としてね!」
「その野望、ここで解体する!」
__解体戦士スパイナーと参謀カンディル。真の最終決戦が幕を開けた。
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