第13話 勝利への凱旋
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その機械怪人は、始めて自我を持った時から狂熱的な野心と出世欲に取り憑かれていた。加えて、周囲の同僚達が全て愚鈍に見えるほど優秀な頭脳にも恵まれ、自分こそが頂点に立つに相応しいと信じて疑わなかった。
だがその反面、生来の戦闘能力は低く、特殊能力も小規模な幻覚能力のみ。明らかに諜報向きの資質であり、本人の望みとは裏腹に、工作員としての任務に埋没する日々が続いた。
だがある時、パワハラ常習者だった諜報部隊長を事故に見せかけて暗殺した時から、彼の運命は大きく変転する。その機械怪人、ボムダークの持っていた爆弾生成能力を、知らぬ間に受け継いでいたのだ。彼が図らずも発見した、ダークフォース怪人の知られざる法則。機械怪人が機械怪人に止めを刺した時、一定確率でその能力を奪い取れるという事実を把握し、錆び付いていた計画は再び動き出すこととなる。
彼はボムダークの後釜として諜報部隊長に成り上がり、爆破能力を駆使して成果を挙げ続けた。その裏では幻覚能力で相当数の機械怪人を暗殺していたが、能力の継承はごく低確率で発生するらしく、新たな能力の会得には至らなかった。
それでも爆破・幻覚の両能力を伸ばし続けた彼は、いつしかダークフォースのトップ層、参謀にも手が届く立場へと至った。だが、ここからの成り上がりはそう簡単にはいかない。参謀ケルブ、守護騎士プロス、破壊闘士スパイナーの三大幹部。そして、頂点に君臨するハルマ将軍。いずれも今の彼ではとても太刀打ちできる相手ではない。そこで彼は、自分の計画に一つの駒を加える事にした。当時ダークフォースを窮地に陥れていたヒーロー、流星戦士メテオリオンを。
幻覚能力で当時シャインシティにいた男の姿を写し取り、情報屋としてメテオリオンに接触。仲間の情報を売ることで流星戦士の信頼を得ると共に、彼にとって邪魔な相手を次々と排除させていった。
そして、メテオリオンがダークフォース本部に乗り込んだあの日。あれは、彼にとっても正念場だった。守護騎士プロスがいないタイミングで情報を流したのも、戦力調整のためだった。プロスが後の不安要素として残ってしまうが、より強大な将軍の排除が最優先なため止むを得ない。苦労の甲斐あり、見事にメテオリオンはケルブとスパイナーを撃破。そして目論見通り、彼が隠れて見ている中で将軍と相打ちになった。こうして彼は参謀に昇格。残された弊害は、新たに破壊闘士に昇格したバンリャ、及びプロスの2人のみとなった。
彼にとって理想の展開となったダークフォース基地襲撃事件だが、一つだけ予想外の現象も発生した。そう、メテオスプラウトの作用による、シミュレーションシステム内での解体戦士スパイナーの誕生だ。しかし、この第二の英雄すらも、彼にとっては新たなる駒でしか無かった。自分の代わりに守護騎士や破壊闘士の派閥を削ってくれる暴力装置。組織内に協力者などいない彼にとっては、この上なく便利な存在だった。とはいえ、彼としてもスパイナーに協力は惜しまなかったつもりだ。情報屋として色々な情報を提供したし、早々とプロスが出陣してきた時には助けてやったりもした。もっとも、正義の傀儡人形となったスパイナーを間近で見て楽しむ趣向が無かった訳ではないが。まあ何にせよ、この結果は流石に計算外だった。奴がここまで強くなっていたとは__
「彼」すなわち参謀カンディルは、「守護騎士プロス 敗北・死亡」の赤文字を感嘆の眼で眺めていた。戦闘データが全てリセットされた状態から経験を積み上げ、一度心が折れても復活し、遂に守護騎士超えを果たすとは。奴が現実世界に存在したなら、間違いなくプロス以上の脅威となっていただろう。
スパイナー、今まで本当によく働いてくれた。全ての仕事が完了した以上、奴の存在価値はもはや無い。電脳空間と共に、永遠に消え去ってもらうことにしよう。
__そう。プロスの死亡により、ダークフォースの最高責任者は自動的にカンディルに決定した。たった今、全ての権限が彼に移動した所だ。ボタン一つで、ダークフォース基地の全システムはシャットダウンし、再構築される。彼が支配する新しい秩序、新しいダークフォースの時代が始まるのだ。さらば、古き体制よ__
カンディルは再起動ボタンに手を伸ばした。
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