12-4*

 解体戦士と激闘を繰り広げながら、守護騎士プロスは在りし日のことを思い出していた。かつて、スパイナーが破壊闘士と呼ばれていた頃。思えばあの時も、このように力をぶつけあっていた__


 2体の機械怪人の影が交差する。刹那、激突する鋼の武装。片や巨大なスパナ、片や機関銃に似たシルエットの刃。両者の力量は全くの互角。互いに武力の強さを譲ることなく、火花と共に跳び離れ、再び激突する。


 戦場に花が咲くこと七度。突如として2人の周囲の風景が、四方を壁で囲まれた大部屋へと変化する。どうやらケルブの戦闘シミュレーションが終了したらしい。プロスとスパイナーは戦闘を中断し、武装を解除する。


「……今回も決着はつかずか」

「ああ。いつも悪いなプロス、特訓に付き合わせちまって」

 直前まで闘気を燃え上がらせていたとは思えない気軽さで、スパイナーが話しかけてくる。

「別に構わない。私も仮想現実との戦いには飽き飽きしていたところだ」


 そう言いながら、プロスは改めてスパイナーを見やる。この男は、歴代の破壊闘士の中でも際立って異端だった。大抵の場合において破壊闘士は粗暴な性格であり、現実世界で暴れることはあっても、戦闘シミュレーションで地道に鍛錬を重ねるなどという行為はまずしない。秩序を重んじる守護騎士職として、無闇な暴力行為に走らないスパイナーの姿は新鮮に映る一方で、疑問を禁じ得ないものでもあった。


「スパイナーよ。一つ質問をしてもいいか?」

「ん、何だ?」

「守護騎士の使命は、将軍を守り、組織に仇なす者を粛清する事だ。代々の守護騎士はそのために訓練を積み重ねてきたし、私もそうしている。一方で破壊闘士の任務は、ひとえに外敵の殲滅。故に破壊闘士に任命されるのは、破壊衝動を抑えられない者ばかりだと思っていた。しかしお前は無駄な破壊行為を行わず、地道に戦闘力を上げ続けているように見える。何か信念があってそうしているのか?」


「ま、確かにバンリャみたいな奴の方が破壊闘士っぽいかもしれないな。信念なんて大層なものはねえが、俺にも破壊衝動はある。それをある理由でコントロールしてるってだけの話だ」

「良ければ、その理由を教えてほしい」

「物好きな奴だな……破壊闘士の存在意義は破壊にある。だが、無闇に暴れまわるだけが破壊の本分じゃない。少なくとも俺はそう思ってる」


「世界に放たれた破壊のエネルギーは、いずれ増幅して使用者の元へ戻ってくる。そいつを受け止める事で、使用者自身も更に強化されていくわけだ。つまり破壊のエネルギーが強ければ強いほど、そいつは更に強くなれる。だから俺は、自分の戦闘力を上げ続けてるんだよ。最強の破壊者になるためにな」

「……」

「おいおい呆れてんのか?無理もないか」

「いや。聞き慣れないが、面白い理論だ。では破壊力を鍛えるため、もう一度手合わせするか?」

「おう、今度こそ倒してやるぜ」



 __破壊のエネルギーは使用者を更に強くする、か。ならば、その力を人々を守るために使えば、その想いの数だけエネルギーは倍化し、遥かな高みに達する事ができるのかもしれない。自分のため、狭い組織のために戦闘を繰り返す破壊闘士や守護騎士とは、比べ物にならないほどの高みに。


「__それならば、私が貴様に勝てるはずもなかったか」

 現在へと時は戻る。スパイナーの首筋に刃が突き立てられるまであと数cmの所で、プロスの動きは止まっていた。その胴体にはドライバーアームが突き刺さり、エネルギーコアにまで達している。


「貴様の読み通りだ……私はあの時レシプロシールドを使っていた。避けたのは最初の1発だけで、後は可動壁で無理矢理突破したが」

 そう、プロスは砂煙の中でレシプロシールドという手札を切っていた。しかし、ごく短時間の使用に止めることで時間的優位を確保し、スパイナーは敵が切り札を使ったかどうかの判断をギリギリまで迫られることになった。結果としてスパイナーの読みが当たったのは、二分の一の賭けに勝ったからに過ぎない。


 プロスはドライバーアームを引き抜くと、よろめきながらも自力で立ち上がった。

「見事だスパイナー。約束通り、情報を渡す」

 守護騎士が左腕の装置を操作すると、スパイナーの通信端末に何らかの情報が送信された。マインドヘルム内に表示された情報内容を見て、解体戦士は絶句する。

「!?……こ、これは」


「その情報があれば……貴様ならこの世界を脱出できる筈だ……」

「だがプロス、お前は__」

「私はここまでだ。それより急げ、私が消えたと知ればカンディルの奴はすぐに動く……ぼんやりしている暇はないぞ」

 話している間にも、プロスのコアからは赤い光が徐々に漏れ出してくる。


「__さらばだ。自分の信じた道を往け、我が友よ」

 そして、最後にそう言い遺し、プロスはゆっくりとその場に崩折れた。間もなくコアから放たれた赤い光が全身を包み込み、小規模な爆発が起こる。その跡には、何も残されていなかった。


「プロス……」

 再び静寂が戻った公園で、スパイナーが独り呟く。だが、感傷に浸る余裕は無かった。守護騎士の推測通り、カンディルが早々に動きだしたからだ。電脳都市の空が赤い警告メッセージで埋め尽くされる。その全てが、シミュレーションシステムの強制シャットダウンを予告していた。

 世界の崩壊が近づく中、スパイナーは赤く染まった空を見つめ続ける。その瞳に、迷いは微塵も無かった。


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