12-3

 解体戦士と守護騎士、二人の英雄が激突する。最初にぶつかった時と同様、鍔迫り合いは傍目には完全に互角。しかし当事者であるスパイナーは、以前とは違う手応えを感じていた。かつては底知れなかったプロスの力。だが今では、自分の力が敵と拮抗しているのを感じる。たとえ電脳世界の話であったとしても、今までの戦闘を通して彼の戦闘能力は大きく成長していたのである。


 とはいえ、プロスの本気はこんなものではない。彼の右腕に装備されたレシプロソードの恐ろしさは、スパイナーも嫌という程思い知らされている。敵の次の手を予測し、先手を打って対処する__!


 レシプロソードが振動を始める直前、スパイナーは素早く跳び退がり、スパナアームをドライバーアームへと換装。振り下ろされた超振動刃の剣先を、ドライバーアームを使って逸らした。プロスは前進を止めず、ブレードソーで何度も斬り掛かるが、その度にスパイナーは斬撃をドライバーアームで捌いていく。戦場に火花が散り、金属音が響き渡る。


 仮にレシプロソードをスパナアームで受けていたら、アーム自体が破損する危険性もある。その意味では、ドライバーアームによって剣撃を逸らす戦術は悪くない。

 しかし__スパイナーは戦闘を続けながら思考する。困ったことに、この状態で反撃に移るビジョンが見えない。敵の追撃は激しく、先程からずっと後退を強いられている。恐らくプロスの狙いは、畳み掛けるような攻撃で俺にアームチェンジする隙を与えないこと。そして忌々しいことに、あと数mで公園の片隅、整備用具が置いてある小屋の壁際にまで追いやられる。このままでは詰みだ。どうする__?


 壁際まであと2mほどの距離まで追い込まれた所で、スパイナーは勝負に出た。体を反らしてレシプロソードを回避し、そのまま背後に大きく跳躍。

「何っ?」

 空中で体を捻り、右腕のドライバーアームを壁に突き刺してそのまま射出。反動で得た推進力で、スパイナーはプロスへ飛び蹴りを叩き込む。


「うおりゃあ!」

 胴体に衝撃をまともに受け、後方へと吹っ飛ぶプロス。着地したスパイナーはすかさず右腕を換装し、敵を確実に仕留めるべくネイルガンアームを連射する。しかしプロスは着地寸前に高速回転し、周囲に砂煙を大きく巻き上げた。煙の中に3発の釘弾が突入し、数秒遅れて爆発音が鳴り響く。


 スパイナーは砂煙を注視する。奥の手であるレシプロシールドを使えば、奴は攻撃を無傷で突破できる。しかし、使えるのは戦闘中一度きり。こちらの不意をつくタイミングで使うと考えれば、視界が遮られた今使用した可能性もあるが、果たして……?


 __スパイナーの予想よりも一瞬早く、煙の中から守護騎士が飛び出す。その右腕は三角形の盾状に変化していた。スパイナーはアームをスパナへと再換装し、突進してくるプロスへそのまま投げつける。だが、飛んでいった巨大スパナは守護騎士の盾に容易く弾かれてしまう。


 盾を構えて突進するプロスの勢いは止まらない。片や、スパイナーに残されたアームはネイルガンのみ。近距離戦は圧倒的に不利だ。このまま距離が縮まれば、今度こそ決着がついてしまう……スパイナーの運命もここまでなのか?


 __だがスパイナーもまた、奥の手を隠していた。スパナを投げた事で身軽になり、更に敵の動きが一瞬鈍った事で生じた僅かな時間を生かし、解体戦士は再び後方へと跳躍する。背後にあるのは以前と同じ小屋。その壁面には、先程射出したドライバーアームが突き刺さっていた。彼はそれを引き抜き、槍のように構えて守護騎士へと走り出す。


 レシプロソードを敵の首筋に突き立てるべく突進する守護騎士と、ドライバーアームで敵のコアを貫こうと迎え撃つ解体戦士。この勝負、先に攻撃を当てた方の勝利となる。決着の刻は、あと数秒まで迫っていた。

 そして残る問題は、プロスがレシプロシールドを先程使っていたかどうか。仮に温存されており、次の瞬間に使用されたら、スパイナーに待つのは確実な死。

 果たして、勝負の行方は__?

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