13-4*
「アディオス、スパイナー……今度こそお疲れ様でした」
戦鎚が消滅し、広間全体に充満していた爆煙が薄れていく様を見ながら、カンディルは感慨深げに呟く。煙の中から浮かび上がるのは、激突の衝撃でボロボロになった床石と爆弾の破片が交じり合った瓦礫の砂漠。この何処かに、無残に潰されたスパイナーの残骸もあるはずだ。
カンディルは瓦礫の中からスパイナーの姿を探そうとした__が、見つからない。
「!?……一体何処に」
あの攻撃を受けて、無事でいられるわけがない。それに、逃れるような時間も場所も無かったはずだ。……いや、一箇所だけある。奴が地下から出現した時に開けた大穴だ。あの幻影と爆発の中、穴の場所を探り当てるのも至難の業だが__
参謀の視線は大穴に集中し、その結果、頭上に迫り来る影の存在に気付くのが遅れた。一瞬の後、カンディルの頭部を掠めるように走る紫電の一閃。一拍遅れてスパイナーが着地すると、同時に7つのカンテラが一斉に地面に落下し、砕け散った。
「なっ」
唖然とするカンディルが、スパイナーに視線を移す。その右腕は、今まで付けていたどのアームとも違う、しかし見覚えのある武器へと換装されていた。機関銃のような外見と、銃口から伸びる鋸状の刃。更に左手には、黒い円盤状のエネルギー盾を構えている。間違いない、あれは……
「レシプロソードにレシプロシールド……ですか。まさか貴方が守護騎士の能力を奪っていたとは。なんと悪運が強い」
「奪ったんじゃない、あいつから託されたんだ。運任せに能力を奪ってきたお前と違ってな」
空間を歪ませ、どんな攻撃でも一度は回避できるレシプロシールド。それはダークフォース構成員の能力の中で、ハルマゲドンクラッシュに対抗できる唯一の存在だった。スパイナーはこの力でエネルギー塊をすり抜けて上方に飛び、レシプロソードによる一閃でカンディルの帽子から伸びるカンテラを全て切り落としたのである。
これで幻覚能力は使えなくなったが、まだ打つ手はある。その場から離れようとして、カンディルは気付いた。自分の体が全く動かせなくなっている事に。
「ば……馬鹿な……」
カンディルは知らなかった事だが、ハルマゲドンクラッシュを使用した後、使用者の体には尋常ではない負担がかかる。ハルマ将軍並みのパワーの持ち主でなければ、まともに使いこなせる技ではない。参謀としての自己の能力への過信が、結果として最悪の隙を招いたのである。
「どうやら、ここまでのようだな」
気付けばスパイナーの右腕は、最初の換装形態へと戻っていた。破壊闘士の時代から解体戦士としての活動に到るまで彼の相棒であり続けた、スパナアームへと。そしてスパイナーは、上空へ伸ばしたスパナアームを軸にして全身を回転させ始める。そして、回転により発生した全トルクを推進力に変え、竜巻のような勢いでカンディルへと突進した!
「スパイラルブレイク!!!」
加速するスパナの先端が機械怪人の装甲を貫き、内部のコアへと突き刺さる。彼が回転を止め、スパナを引き抜くと同時に、真っ赤なエネルギーコアは粉々に砕け散った。
「こ、この私が……将軍目前で、駒などに倒されるというのですか…………!嘘だ、嘘だ嘘だ、嘘だああぁぁぁぁっ!!」
参謀カンディルは、断末魔と共に大爆発を起こした。その爆炎は広間中に燃え広がり、やがて別の部屋にも引火して新たな爆発を引き起こす。スパイナーが地上へ脱出するため走り出した背後で、ダークフォース本拠地全体が炎上し、ゆっくりと崩れ落ちていく。機械結社ダークフォースの、本当の最期だった。
(エピローグに続く)
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