11-4*

 長い夜が明け、電脳都市に朝日が差し込む。白い光に包まれた街並みに、未だ生々しく残る侵略の傷痕。閑散とした空気も相まって、さながら廃墟のような雰囲気を漂わせている街の角、とある交差点の中央で、何かを待つように立ち続ける青年の姿があった。


 やがて、どこからか巨大で無骨なシルエットが現れ、青年の方へ大股で歩み寄って来る。

「そこにいたのかスパイナァー!今度こそ息の根を止めてやるっ!」

「……バンリャか」

 青年を一瞥した破壊闘士バンリャは、密かに驚いた。先程会った時とはまるで雰囲気が違う。氷のように落ち着きはらった表情とは裏腹に、その内側からは溶岩のごとく灼熱の闘争心が湧き出しているのを感じる。つい数時間前、あれほど取り乱していた男と同一人物とは思えない。


「運が悪かったな、破壊闘士。俺は今、お前らを一人残らず解体してやりたい気分なんだ」

「面白おい!ここではっきり分からせてやる。真の破壊闘士は、この俺様だあっ!ブルァァァァァァ!」

 雄叫びを上げながら、バンリャは拳を振り上げスパイナーに殴りかかる。その両腕は、既に巨大万力形態へと変形していた。地獄の大顎が左右からスパイナーの胴を挟み込み、猛烈な圧力を加えていく。解体戦士はこのまま為す術もなく圧殺されてしまうのか__?


「ブルァッ!?」

 突如、巨大万力が動きを止めた。見ると、スパイナーの両腕が左右それぞれの万力アームを受け止めている。バンリャが力を込めても、その状態から更に押し込むことはできない。破壊闘士の剛腕は、より華奢に見えるスパイナーの腕によって完全に動きを止められていたのである。それどころか、スパイナーが両腕を押し広げ始めると、巨大万力は逆に押し開かれていくではないか。


「ば、馬鹿な……一体こいつの、何処にそんな力がぁ」

 バンリャの抵抗も虚しく、スパイナーは万力アームを限界まで押し広げると、がら空きの胴体に回し蹴りを叩き込む。

「ブルォッ」

 後方に高速で吹っ飛び、ビルの壁面に激突するバンリャ。ダークフォース随一の怪力怪人が、一回り小さい敵にパワーで圧倒される。それは異様な光景だった。一方のスパイナーは冷静な表情を崩さず、壁に半分埋め込まれたバンリャの方へと走り出す。


「ブルァ……やりやがったなぁ!」

 バンリャもすぐに壁から脱出すると、迎撃体勢に入った。再び万力アームを構え、距離を詰めるスパイナーへと交互に降り下ろす。かのハルマ将軍の衝撃波にも迫る威力の連撃を、解体戦士は紙一重で次々と躱す。衝撃を受け止めた地面にヒビが入る中、スパイナーは空中に跳び上がり右腕を伸ばした。

「換装!スパナアーム!」

 彼の右腕は巨大な工具の形状へと置き換わる。スパイナーは体を一回転させながらスパナアームを振るい、破壊闘士を殴りつけた。

「ブルェッ」

 その衝撃で再び吹き飛び、地面に叩きつけられるバンリャ。スパイナーのパワーが破壊闘士を凌駕しているのは、もはや明白だった。


「どうした破壊闘士、この程度か?」

「頭ーに乗るなぁ!」

 しかしバンリャのスタミナもまた尋常ではない。スパイナーが接近する前に素早く起き上がり、万力アームで地面を直接連打する。轟音と共に地表が抉られ、その衝撃に大地が揺すられる。巻き込まれたスパイナーが体勢を崩した隙に、バンリャは再度距離をとる。


「真の破壊闘士はこの俺だー!万力怒裂土ォォッ!」

 両手が閉じた万力アームが振り下ろされ、発生した衝撃波が地面を引き裂いていく。その中でも一際巨大な衝撃波が、サメの背ビレのように地表を走りながらスパイナーへと迫る。


「!」

 それを視認するなりスパイナーはジャンプし、スパナアームを軸に全身を回転させ始める。必殺技・スパイラルブレイクによく似た体勢だが、彼はそのまま敵に突っ込むのではなく、横方向に回転しながら衝撃波へと自ら接近した。このまま激突すれば真っ二つに裂かれるかもしれないのに、何故そんな真似を……?


「な、何ぃ!?」

 一瞬後、バンリャは眼前の光景に我が目を疑っていた。超高速でこちらに突進してくる敵の姿。そう、スパイナーは衝撃波のギリギリ真上を通過することで、波乗りのごとく衝撃波を乗りこなし、そのエネルギーを利用して回転力を更に高めていたのである。瞬く間にバンリャの懐へと飛び込んだスパイナーは、回転によって生じた全エネルギーをスパナアームに乗せ、バンリャへと叩き込んだ。


「ブルァァァァァァ!!」

 攻撃がクリーンヒットし、上空10mほどの高さに垂直に打ち上げられるバンリャ。その真下で着地を決めたスパイナーは、冷静に右腕をネイルガンアームへと換装させ、その銃口を真上へと向けた。


「スナイパーブレイク」

 限界までチャージされ、上空へ高速で射出される釘の弾丸。その先端が、落下を始めた破壊闘士の躯体、そしてエネルギーコアを貫く。


「ブルァァァ……この俺様が……破壊……されただと……」

 ダークフォース最後の破壊闘士は、そう言い残して空中で大爆発を起こした。打ち上げ花火のように巨大な爆炎を背後に、スパイナーは戦場を後にする。まずは一人、片付けた。残る幹部は二人。守護騎士、そして参謀。


「見ていてくれユキエ。約束は、必ず果たす」

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