10-4

 全ての始まりは、メテオリオンがダークフォース本部に攻め込んだあの日に遡る。参謀や破壊闘士を倒したメテオリオンは、ハルマ将軍と壮絶な死闘を演じた後に相打ちとなった。しかしこの時、参謀ケルブはまだ息絶えてはいなかったのだ。電算室へと移動したケルブは、自らの躯体が停止する前に自分の意識を戦闘シミュレーションプログラムの世界へと移動させた。


 ケルブは元々ハッキングを得意とする怪人であり、ダークフォース基地のコンピューターシステム全ての管理を担っていた。彼の開発した戦闘シミュレーションシステムは人間世界で言うバーチャルリアリティ技術が応用されており、機械生命体であるダークフォース怪人とVRの親和性は高かったため、完全な形のフルダイブ技術が実現を果たしていたのである。


 そして参謀は、同じく死にかけていた先代破壊闘士・スパイナーの意識も同様に仮想現実へと移行させた。こうして情報生命体となったケルブは人間体のアバターを被り、記憶を失った状態のスパイナーと共に電脳世界に潜伏することとなる。


 しかしここで、予想だにしない事態が起こった。メテオリオンが死に際に放った光の粒子・メテオスプラウトが電算室に降り注いだのだ。メテオエナジーによって正義の心に目覚めたケルブは、スパイナーに玄場コウジというアバターを用意し、自分を「スパイナーに変身する人間」だと思い込ませた。そして、記憶を失ったことで純粋な正義心のみを持つようになったスパイナーは、玄場コウジ/解体戦士スパイナーとしてダークフォース殲滅のために活動を開始したのである。


 基地の戦闘シミュレーションシステム内に突然現れた、先代破壊闘士と同じ姿をした謎の存在。スパイナーとの対決は、機械怪人達にとってもリスクのあるものだった。ケルブの作り上げたフルダイブ技術はあまりにも精度が高く、怪人の外観や能力、武装を忠実に再現する反面、ダメージのフィードバックも現実と同等であり、致死量のダメージを受けるとエネルギーコアが停止し、現実世界でも死に至る。だが殆どの機械怪人は、それを気にするほどの倫理観を持ち合わせていなかった。それどころかスパイナー討伐は、天敵のいなくなったシャインシティをほぼ制圧し目的を失いかけていた怪人達を熱中させる結果となる。新たに参謀に着任したカンディルの提案により、スパイナー討伐者が次の将軍になることが決まったのも、その傾向に拍車をかけた。


 こうして多くのダークフォース怪人が戦闘シミュレーターへと突撃し、敗れていった。仮想空間に君臨する正義の代行者・スパイナーによって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る