10-2

 燃え盛るシャインシティの裏路地にて、コウジは間寺と合流を果たす。

「ふう、旦那が来てくれて助かったぜ。俺達だけじゃどうしようもなかったからな」

「いや、こちらこそ礼を言う。ありがとう、博士を助けてくれて」

 そう、間寺と一緒に瓦礫の影で身を潜めていたのは、我らが空戸博士だった。衣服はかなり汚れているが、怪我などはしていないようだ。

「博士、良かった。無事だったんですね」

「ああ。戦闘員に撃たれそうになった所を、間一髪彼に助けられた。間寺君は君の協力者だそうだね」

「俺もダークフォースから逃げてるうちに偶然通りかかったんだよ。さっさと街から脱出したかったんだが、この辺は奴らの監視が厳しくてな。一か八かあんたに連絡してみたってわけだ」

「なるほど。ところで博士、ユキエは無事ですか?ホログラムの映像では「先に逃した」って言ってましたが」

「おお、あれを見ていたか。逃したのは本当だが、残念ながら連絡は未だに取れないままだ。無事に脱出していることを祈るしかない」

「そうですか……」

「なあお二方。お話中に悪いが、そろそろ移動しないか?」


 コウジと博士、そして間寺。3人はシティ東端へと歩みを進めていた。周囲を徘徊していたネジーはスパイナーによって蹴散らされ、他の怪人の気配も感じられない。

 どうにか博士達を無事に脱出させられそうだ。安堵したコウジは、ここで初めて気付く。2人の間に漂う、奇妙な空気感に。


 歩きながらコウジに軽口を叩く余裕のある間寺とは対照的に、博士はずっと黙りこくっていた。それだけでなく、時折間寺の方を盗み見ると、警戒としか思えない視線を向けているのだ。どうしてそれほどまでに警戒しているのだろう。訝しむコウジだったが、やがて思い出した。いつぞやの間寺との会話で、彼が博士に疑惑の目を向けていたことを。それなら、博士の方が情報屋に不信を抱いていてもおかしくはない。……ただ気になるのは、その割には間寺の態度に警戒の色が全く見られないことだが。


「__そういえば旦那」

 3人の一番前を歩く間寺が、突如として口を開く。

「何だ」

「結局、あれは見つかったのか?ダークフォースの基地はさ」

「……いや、まだだ」

「そうか。まあこんな状況じゃあ探してる余裕も無いよな。もっと早い段階で協力してくれれば、見つかったかもしれないのに。なあ博士?」

「…………」

 3人の間に気まずい沈黙が下りる。しかし間寺はその空気を気にせず、前を向いたまま話を続ける。


「しかし、街も酷い有様になっちまったよな。あのメテオリオンと将軍の決戦の時でさえ、こんなには荒れなかった。……懐かしいよな、メテオリオン。あの人が最期に見せた行動はヒーローの鑑だった。博士もそう思うよな?」

「……」

 メテオリオンのことを又聞きでしか知らないコウジは、今の言葉の意味をはっきり理解することはできない。だが話の流れや博士の様子から、間寺が博士に揺さぶりをかけようとしてるのは推測できた。


「おい間寺、それくらいに……」

「そうか?じゃあ話を変えるか。さっきあんた達が話してたホログラム映像の件なんだが__確か博士は最後に、何か重要な事実を伝えようとしてたよな。いい機会だし、ここで言ってみたらどうだ?」

「………………」

 更なる沈黙。博士の方を見ると、その顔色はかなり青ざめている。すっかり忘れていたが、博士が何か重大な情報を隠しているのなら、当然コウジも興味はある。だが、こんなに顔を青くするような情報とは一体何なのか。


「なあ博士」

 間寺は最後まで後ろを振り返らず、言い切った。

「いい加減、こいつに明かしたらどうだ?」

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