第10話 世界の解体

10-1

(前回までのあらすじ)

 ダークフォースの大規模侵攻を受け、シャインシティは炎上する。研究所襲撃を生き延び、強敵スモッグダークを撃破したスパイナー。その前に現れたのは、宿敵である守護騎士プロスの姿だった__


「強くなったな、解体戦士スパイナーよ」

 西洋の騎士を思わせるスマートなメタリックブルーの装甲と、巨大で機械が剥き出しになった右腕。その姿、見間違える筈もない。ダークフォース三大幹部の1人と、スパイナーは再び合間見えていた。


 敵と睨み合いを続けながら、コウジは冷静に己のコンディションを確認する。先ほどまで全身を侵食していた毒ガスの症状は、今では大幅に緩和されている。マインドヘルムの中和機能のお陰か、それともスモッグダークが倒された影響か。いずれにせよ確実なのは、ベストとはいえない体調でやり過ごせるほど敵は甘くないということだ。それでも、やらねばならない。ダークフォース殲滅の上で、この対決は避けては通れないのだから。


 スパイナーが無言で右腕をスパナアームに換装すると、プロスも右腕を変形させる。無骨な機械塊が組み上がり、マシンガンのような形状の超振動刃・レシプロソードへと瞬く間に変化した。


「守護騎士プロス。貴様の野望、ここで解体する!」

 スパイナーの叫びを合図に、2人の戦士は互いの得物を構えながら駆け寄り、激突した。

 ぶつかり合い、火花を散らす二つの重金属。以前と同様に膠着状態になったのも束の間、プロスはレシプロソードを振動させて敵の体勢を崩しにかかる。唸りを上げるブレードソー。だが、スパイナーも以前のままの強さではない。スパナアームを構えたまま一歩も引かず、更には押し合いに打ち勝って敵の間合いに踏み込む。プロスが一歩後退すると、即座にアームをドライバーへと換装、至近距離で相手を突き崩しにかかる。


 だがプロスは左手を最小限に動かして穂先をずらし、そのままドライバーアームを掴んで引き寄せようとする。今度はスパイナーが後ろに飛び下がり、アームをネイルガンへと換装。それを見るや否やプロスが右腕を変形させ、三角形の盾のような形態にすると飛来した釘弾を防ぐ。


 __強い。ここまでの攻防は僅か数秒の出来事だったが、敵の技量を推し量るには十分だった。こちらの換装ラッシュの全てを正面から受け止め、冷静に対処するその実力。以前の戦闘では本気を出していなかったこともはっきりと分かる。だが、俺の実力だって昔とは違う。ここで必ず倒してみせる__!



 2人が再び睨み合いに入り、互いの動きを窺っていたその時。スパイナーの背後で、微かな風切音が響く。

「!」

 一足先にその音に気付いたプロスは、突然スパイナーに向けて突進。コウジがタックルを回避した次の瞬間、2人が立っていた場所に球体が着弾し爆発を起こす。

「やはりカンディルか。余計な真似を」

「何!?」

 確かに今の爆発は見たことがある。参謀カンディルの爆弾だろう。しかし、こいつは参謀の攻撃から俺を庇った__?


「好きで貴様を助けた訳ではない。あの卑劣な男に、決闘を邪魔されたくなかっただけだ」

「……なあプロス」

 以前から勘付いてはいたが、この男は他のダークフォースの連中とは少し違う所がある。つまり戦闘ではなく、対話が可能かもしれない。その直感に従い、スパイナーは構えを解き、敵へと呼びかけた。

「お前はどうしてダークフォースに従っているんだ?無駄な破壊行為はしないし、不意打ちも好まない。お前が破壊を楽しんでいるとは思えない。なら、どうしてその力を、人々を守ることに使おうとしないんだ?」


「何のために……戦っているか……だと?」

 しかしその問いは、結果としてプロスの逆鱗に触れたようだった。守護騎士は声を荒げ、解体戦士に問い返す。

「ならば貴様はどうなのだスパイナー!人々を守るなどと嘯いているが、それは貴様の本質ではない。その力の根源は所詮、抑えきれない破壊の衝動に過ぎないっ!我らダークフォースと何ら変わりないものだ。それでも尚、どうして街を守ろうとする?」


「な……」

 コウジは言葉を詰まらせる。今の問いに、反論はいくらでも思いつく。しかし彼の口から出てきたのは、思い浮かべたのとは全く違う言葉だった。

「確かに俺の力は、結局のところ相手を破壊するものでしかない。だが、大いなる破壊の力はいずれ必ず俺自身を強くしてくれる。そして、その力を人々を守ることに使えば、その力は更に何倍にも増幅していく。そんな気がするんだ」


 一体どこから出てきたのか、コウジ本人にも分からない謎の思想。だがプロスは、その言葉に衝撃を受けたように見えた。

「き、貴様、まさか……紛い物ではないのか__?」

 そう言い残すと、プロスは高く跳び上がり戦線を離脱。そのままどこかへと走り去ってしまう。


「ど、どういうことだ?」

 訳の分からぬままその場に取り残されたスパイナー。だがその混乱が解ける間もなく、彼の通信装置から着信音が鳴った。

『もしもし旦那、無事か?』

 それは、コウジの知り合いである情報屋・間寺からのものだった。

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