9-4*

毒ガスを突っ切り、スモッグダークへと殴りかかるスパイナー。その拳が機械怪人へ届く寸前、スモッグダークはコートの効果で全身を粒子化させ攻撃を躱す。黒い霧は一瞬でスパイナーの背後へ移動し、再び怪人の姿を形成する。しかしスパイナーもそれを予期し、背後を振り返ると同時に右手をスパナアームへと換装。こちらに球体状の毒ガスを放とうとするスモッグダークに向けて振り抜く。


再び身体を粒子化しようとするスモッグダーク。だがスパナアームは敵に当たることなく、その場で回転を開始した。

「スパナサイクロン!!」

霧の身体であっても回避を許さない暴風。スモッグダークは為す術なく風の急流に巻き込まれ、回転しながら近くのビルの外壁に叩きつけられる。

「ぐっ……中々やるでありますな」

上半身のみの状態で壁からずり落ちた後、スモッグダークは吐き捨てるように言うと上半身を粒子化させる。怪人の身体は全てが霧となり、視認できなくなった。


敵は奇襲を仕掛けてくるに違いない。一体どこから来る……?

スパイナーは全方位に油断なく注意を向け、スモッグダークの襲撃に備える。人の気配が消えた、荒廃した街並み。しかし戦場は緊張感に満ちている。そして、空を流れる巨大な雲が彼の頭上に影を落とした瞬間、戦局は動いた。


「!!」

突如、右腕に微かな衝撃が走る。見るとスパナアームの付け根、肘の部分に短剣のような物体が突き刺さっていた。更に視点を下げると、自分の影から生えてきた何かが影に引っ込むのが見えた。一瞬だけだったが間違いない、あれはスモッグダークの腕だ。恐らく奴は腕のみを地表に漂わせ、雲の影を伝ってスパイナーの影へと潜り込ませたのだ。その目的は、アームの回転を止める事。スパイナーはその場から跳躍しながら思考する。


スパナサイクロンを封じた今、敵はすぐに攻撃に移るはず。そう思うのとほぼ同時に、彼の視界は再び黒く塗り潰されていく。その隙間から、黒い霧が結集して怪人態となったスモッグダークの姿が見えた。再び全身を現した機械怪人は、懐からドラムマガジン付きのサブマシンガンを取り出して構える。

「食らうであります」


黒い機関銃が火を吹き、無数の銃弾が毒ガスのドームに閉じ込められたスパイナーを襲う。弾幕と毒ガスの二重の包囲網では、流石のスパイナーも身動きを取れまい。掃除屋は勝利を確信しつつも、攻撃の手を緩めることはなかった。だが次の瞬間、黒いドームの内側から何かが飛び出てきた。


「!?」

それはスモッグダークの銃に衝突し、真上に弾き飛ばす。彼は咄嗟に全身を粒子化させ、胴体を狙って放たれていた第二波、第三波の攻撃を回避する。

「なるほど、ネイルガンアームでありますか」

続く攻撃がないことを確認すると、スモッグダークは粒子化を解除し、銃をキャッチする。

「咄嗟の攻撃にしては悪くないが__一手遅かったでありますな。銃弾が当たった時点で、勝負は付いていたであります」


その言葉と同時に、毒ガスのドームが薄れていく。現れたのは苦しげに呻きながら地面に這いつくばるスパイナーの姿だった。

「特殊弾で毒の成分を体内に直接打ち込んだであります。まともに動くのも難しそうでありますな」

「き、貴様……」

「それでは、今度こそサヨナラであります」


再びマシンガンを構えるスモッグダーク。この銃「トンプDIEソン」には、毒ガスに侵食された相手を無理やり粒子化して吸引する機能が付いていた。今のスパイナーに、これを回避する術はない。解体戦士も遂に万事休すか__?


「……貴様が体を霧状に変えられる限り、迂闊に攻撃できないのは分かっていた」

這いつくばるスパイナーが突然呟きを発する。

「何をいきなり、遺言でありますか?」

「だから俺は、貴様が全身を現すタイミングを見極めていたんだ。幸いその時はすぐに訪れた。その銃で射撃体勢に入る時、貴様は実体化せざるを得ない。つまり今だ!」

「一体何を__!!」


スモッグダークは、ここで異変に気付く。いつの間にか自分の頭上に生じた影が、だんだん大きくなっていることに。先程掃除屋の体をすり抜けた釘弾は、実は標的に命中していた。根元を破壊された信号機のポールがゆっくりと手前側に倒れ、シャインシティ制式信号機がスモッグダークの頭上へと落下する。流石の機械怪人も、上空からの直撃に巻き込まれれば無事では済まない。

「グモッ……やったでありますな」


その場に膝をつくスモッグダーク。それを見るなり、スパイナーは残る体力を振り絞って立ち上がった。奴の動きが止まっている、これが最後のチャンスだ!

右腕をドライバーアームに換装し、全身を高速回転させながら彼は敵へと突進した。

「スティンガーブレイク!!」


回転が終わった時、ドライバーの穂先は敵のコアを確かに貫いていた。

「ま、まさか、吾輩が掃除されるとは__」

胸部に穴が開いたスモッグダークは、よろめきながら呟く。

「我ながらまだまだ甘かったでありますな。でも、貴方も人のことは言えないであります。背後から仕留めるチャンスは、いくらでもあったというのに……まあそんな所、吾輩は嫌いじゃなかったでありますが」


スモッグダークはそのまま仰向けに倒れ、機能を停止する。そしてスパイナーはゆっくりと背後を振り返る。敵の最期の言葉は、明らかに自分に向けられたものではない。ということは__


「強くなったな、解体戦士スパイナーよ」

ダークフォース幹部の1人、守護騎士プロスがそこにいた。

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