9-2
シャインシティ中央部。バンリャによって刻まれた大地の裂け目の底で、研究所は辛うじて建物としての形を保っていた。床と天井、そして壁が渾然となって積み上がった瓦礫の山の下で、コウジは目を覚ます。
「ここは……」
彼はすぐに周囲の状況を認識すると立ち上がる。マインドアーマーを装着していたおかげで怪我はなく、アーマー自体にも目立った損傷はなかった。ここはいつ崩落するか分からないため、一刻も早く脱出すべきだろう。だが、彼にはやるべきことが残っていた。マインドヘルムのモニターを暗視モードに切り替え、コウジは研究所内の探索を再開する。
この状況下では、ユキエや博士が研究所から脱出しているのを祈るしかない。せめて、彼らの行方を知るヒントになりそうな痕跡が何か残っていないか……コウジは敷地内を可能な限り探索したが、やはり手掛かりを得ることはできなかった。それでも希望を捨てきれず、彼は最後にセキュリティルームに向かう。研究所内には至る所に監視カメラが仕掛けられている。部屋の機能がダウンしていなければ、ここで録画された映像を確認できる筈だ。
セキュリティルームの扉は壊され、中は荷物が散乱していたが、壁際にある監視モニターと制御盤は未だ機能しているようだ。コウジはコンソールを素早く操作し、ここ数十分ほどの全監視カメラの記録映像を早回しで再生し始めた。壁中に並んだモニター上に、研究所に侵攻し、暴れ回り、博士の罠で破壊されていくネジー達の姿が次々と映し出される。こいつらの事はどうでもいい。ユキエや博士の姿は無いのか……?
複数の映像が早回しされ続ける中、隅にあった一つのモニターに人影らしきものが映ったのを、コウジは見逃さなかった。全ての映像を止め、隅にある映像だけを通常速度で再生し直す。そこに映っていたのは確かに小柄な人影。ユキエに違いない。走っている廊下は裏口にほど近く、どうやら彼女は脱出を敢行したようだ。それを見て安心しかけたコウジの心は、5秒後に凍りついた。ユキエを追いかけるように画面奥からネジー軍団が襲来、扉に辿り着こうとする彼女を背後から銃撃したのだ。ユキエは足を止め、悲鳴を上げたように見えるが、同時に銃弾が監視カメラの方にも飛来。画面は暗転して途切れ、彼女の運命を知る事はできなかった。
しばらくの間、コウジは暗澹たる気持ちで真っ暗なモニターを眺め続けた。あの距離から銃撃を受けて、無事でいられるはずがない。__いや待て。裏口付近は既に調べてあるが、銃撃の跡はともかく、血痕などが存在しなかったのは事実だ。となると、やはりユキエは無事に逃げられたのか……?考えても答えが出る事はなく、コウジは地上に戻ることにした。
一方の地上、シャインシティ中央部繁華街。ツェッペリンダークの襲撃から一夜明けた後も、街に人々の姿は戻らず、非常に閑散としていた。ビルとビルに挟まれた無人の街道の内側に、突如として黒い霧が流れ込んでくる。霧は瞬く間に建物の隙間という隙間を漆黒へと塗り替えていく。道路沿いに並んでいた街路樹は、黒い霧に巻かれると急速に葉を落として萎縮し、そのまま枯れていった。仮に路上に生きた人間が残っていたなら、霧を吸い込んだ瞬間に悶絶し、間も無く絶命したことだろう。
「この一帯も人間の気配はなし。当然スパイナーもいないでありますか」
霧をかき分けるようにして街道の中央を進むは、ダークフォースの掃除屋であるスモッグダーク。周囲に充満する霧状の物質は、彼の着用する猛毒害套「スモッグコート」からばら撒かれた毒ガスである。このガスは有毒作用の他、空気中に拡散することで周囲の状況を探知できるソナーのような機能が備わっていた。スモッグダークはこれを活用し、シティを端から探査しスパイナーの居場所を燻り出そうとしていた。
「もうすぐ例の研究所に到着でありますな。それにしても__」
スモッグダークは背後を振り返り、同行者に声をかける。
「守護騎士プロス。貴方が着いてくるとは意外であります」
そう、彼に同行した幹部はプロスであった。先程から無言で、スモッグダークの「掃除」を見守っている。掃除屋も、守護騎士の真意を測りかねていた。
「やはり、無差別攻撃は気にくわないでありますか?」
「……いや。貴様のやり方に口を出すつもりはない。当然貴様とスパイナーとの戦闘に割り込む意思もない。私が先に見つけた場合は別だが」
「相変わらず、ダークフォースとは思えないほどクソ真面目でありますなあ。そんな調子では、破壊闘士や参謀に将軍の座を掠め取られるでありますよ」
「奴らにそんな隙は与えない」
「どうでありますかな。さて、そろそろ移動するでありますか」
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