8-2
ネジー軍団は数の暴力でスパイナーを押さえ込むべく、集団で解体戦士へと飛びかかる。まもなくネジの山に埋もれ、身動きがとれなくなるスパイナー。そこに、ツェッペリンダークが銃口を向ける。戦闘員ごと敵を吹き飛ばす。たとえ自我を失っても、ダークフォースの冷酷な本能は容赦がなかった。
スパイナーに向けて火を吹く砲門。だがその弾が届く直前、ネジ山の一部が内側から吹き飛ばされ、砲弾に激突して爆発した。
「ネジー……」
右腕をスパナアームへ換装させたスパイナーが、フルスイングでネジー達を弾き飛ばしたのだ。敵の砲撃に合わせ、ネジーを的確に飛ばして生きた防壁としていくスパイナー。屋上に残されたネジー達は、何度でも立ち上がってスパイナーに向かってくる。そのゾンビのような動きは、ツェッペリンダークの暴走が伝播したかのようだ。
屋上のネジーが残り少なくなってきた頃、均衡状態は崩れた。ネジーの防壁で跳ね返された砲弾がエンブレムに衝突し、飛行船が大きく傾いたのだ。その衝撃でチャフが途切れたのか、通信機も一時的に復活する。
『おお、やっと繋がったか!無事かコウジ?』
「はい!」
『ならば良い。奴の弱点を解析しておいた。敵の正面下部に、人型のような構造体が見えるか?』
「ありますね。気にはなっていました」
『あれがツェッペリンダークの、改造前の本体だ。現在は身体機能の殆どを拡張機体に依存しているが、コアや電子頭脳は未だに本体内部にある。つまり、あそこを破壊すれば奴は機能を停止する』
「了解です。そこを狙い撃ちます!」
『頼んだぞスパイナー。健闘を__ギガガガガガガガ』
チャフが復活したのか、怪音と共に通信が切断される。だが、ここまで分かれば充分だ。スパイナーは敵に向き直った。姿勢を戻したツェッペリンダークの正面には、確かに小さな人型のオブジェが確認できる。奴が動きを止めていてくれれば、スナイパーブレイクで撃ち抜くのは難しくないのだが__
スパイナーは背後に下がると右腕をネイルガンアームに換装、そのまま飛行船の先端へと照準を合わせ、エネルギーチャージを開始する。敵がその場を動く気配がないのは、狙い撃つのに好都合だ。……当然、向こうも同じ事を考えているに違いないが。
スパイナーとツェッペリンダークが互いに銃口を向け合う。この状況では先に撃った方が圧倒的有利だ。そして、今までの戦闘を見る限り、こちらのエネルギー充填時間よりも敵の砲撃間隔時間の方が明らかに短い。彼自身もそれは理解していた。現に今、スパイナーのチャージが終わらないうちに、敵の大砲が次々と火を吹き始めた。
解体戦士を粉砕せんと迫り来る砲弾。スパイナーは身動きの取れぬまま、砲撃によって解体されてしまうのか?
その時、彼らの間に割って入った者達がいた。そう、屋上に残っていた数体のネジー達が、尚もスパイナーを押し留めんと行進を続けていたのだ。戦闘員のゾンビめいた動きは司令塔と全くリンクしておらず、結果として味方の攻撃の邪魔にしかならなかった。
「「ネジジー!!」」
砲撃からスパイナーを庇う形で爆散するネジー達。同時にツェッペリンダークは弾を打ち尽くし、再装填を余儀なくされる。それは、チャージが完了するのに充分な時間だった。
「その野望、ここで解体する!」
マインドヘルム内のモニターは、人型構造体の心臓部に正確に照準を合わせていた。
「スナイパーブレイク!」
高速で射出された釘弾は、空中を最短距離で直進し、標的を貫通した。その一撃は内部に残っていたエネルギーコアを完全に粉砕、人型構造体は爆発炎上する。巨大飛行船は少しの間静止すると、やがて誘爆により各所から爆炎が上がり、そのまま高度を落として墜落していった。
「ブオオォォー……」
「……」
暴走怪人兵器・ツェッペリンダークの最期を見届けた後、変身を解除したコウジは通信機を再び起動させる。敵が撃墜されたことで、通信不良も解消されたはずだ。
「博士、聞こえますか?」
「……」
「博士!」
しかし、反応は無かった。先ほどとは違い、異音すらも聞こえてこない完全な沈黙。つまり電波障害などではなく、向こうの通信機が起動してないということか?……そういえば、最後の通信が途切れた時にも僅かな違和感があった。途切れる直前のあの怪音。思い返してみると、あれは電波不良の音とは少し違っていたような気がする。どちらかというと、何かの破壊音に近かったような__
「……まさか」
ある可能性に思い至り、コウジの顔が青ざめていく。彼は踵を返し、研究所の方角に向かって全速力で走り出した。
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