8-3
空戸博士の研究所は、ツェッペリンダークの襲撃地と同じくシャインシティ中央部にある。スパイナーの脚力をもってすれば、到着までにさほど時間はかからない。だが今のコウジにとっては、その移動時間は永遠とも思える長さだった。
敵の襲撃は自分を誘き寄せる陽動に過ぎず、真の目的は研究所を破壊することだったのではないか。彼の中で、その疑惑が徐々に膨らんでいく。このような事態に備えて、スパイナーの詳細及び研究所の場所を含めた情報は一般に公開してはいない。だが、ダークフォースは変身前のコウジはおろか、妹のユキエまでもターゲットにしてきた事がある。となれば、研究所の情報を掴んでいたとしても不思議ではない。とにかく、事態が彼の恐れている通りであれば……彼はそれ以上余計な思考をせず、移動に集中した。
ようやく研究所まで辿り着いた時、コウジは自分の予感が的中した事実を暗澹たる思いで受け止めた。研究所は激しい炎に包まれ、原型を保っているのかも定かではない。ユキエは、そして博士は無事なのか!?今にも火中に飛び込もうとするスパイナーを遮るように、入り口から巨大な影が姿を現す。
「遅かったなあスパイナァー!」
「ダークフォース……!」
3mを越す巨体。黄土色の素体に、焦げ茶色の分厚い装甲。その姿は筋骨隆々の大男、というよりもゴリラを思わせる。機械である事をアピールするためか胴体のあちこちにボルトが突き刺さっており、両手は一見するとクレーンゲームのアームのようだったが、よく見ると付いているのは万力で、あらゆる物を挟んで押し潰せそうなほどのパワーを感じさせる。両手以外にも全身に只ならぬ暴力的威圧感を漂わせており、明らかに並の怪人ではない。ということは恐らく__
「貴様、ダークフォースの幹部だな」
「いかにも。俺様こそがダークフォース歴代最強の破壊闘士!バンリャなり!」
「ここにいた人達はどうした?」
「そんな雑魚のことは知らあん。ネジー共にやられて、そこらでくたばってるんじゃないのかあ?」
「何だと?」
「そんな事より、俺様の狙いはお前だスパイナァー!破壊闘士の座は誰にも渡さぁん!」
そう言うなり、バンリャはスパイナーに殴りかかる。
「ブルァァァァァァァァ!」
両手の万力を力任せに叩きつけるバンリャ。その打撃をスパナアームでガードする度に、スパイナーの全身にビリビリとした衝撃が走る。なんという馬鹿力!カウンターで敵のボディにスパナを打ち込むも、まるで効いている様子がない。その手応えのなさは、先ほどのツェッペリンダーク戦を軽く上回っていた。
「くっ……」
反撃の糸口が掴めず、防戦一方となるスパイナー。次第に壁際へと追い込まれていく彼の脳内では焦りが渦巻いていたが、完全に冷静さを失ったわけではなかった。敵の攻撃は強力ではあるが単調。本来であれば対処もできた筈だ。しかし、連戦でマインドエネルギーを消耗している上に敵が幹部級では、相手と状況が悪すぎた。とうとうマインドアーマーに万力拳をぶち込まれ、スパイナーは吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
「ブルァァァ、所詮この程度か。やはり俺様の方が破壊闘士にふさわしい!」
コウジの前に立ちはだかったバンリャが両腕を大きく広げる。両腕が回転しながら変形し、一つの巨大な万力となった。
「これで終わりだあ!万力圧破ぁ!」
挟み込む全てを粉砕する、地獄の大顎がスパイナーに迫る。このままでは仕留められるのは確実。だが、破壊闘士の豪腕に捕らえられる直前、スパイナーは辛うじて上体を起こした。渾身の力で右腕を振るい、スパナアームのロックを外してアームを相手の顔面へと飛ばす。
「ブルァ!?」
バンリャの動きが一時止まる。身軽になったスパイナーは、その隙を突いて壁際から転がるように脱出、そのまま燃え盛る研究所へと飛び込んだ。今はあいつの相手をしている余裕はない。1秒でも早く、ユキエ達の安否を確認したいのだ。敵から逃亡するような形になったのは悔しいが、優先順位を見失ってはいけない。
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