7-3
シャインシティ中央部、メインエリアの片隅に聳える巨大電波塔サンライズタワー。全高99mを誇る、シャインシティで最も高い建造物である。著名な建築家の手によるもので、正午に地上の広場から見上げると、塔の頂点で太陽が輝いて見えるように設計されている。その姿はシャインシティのシンボルであり、都市の名前の由来にもなっていた。
そんなサンライズタワーの先端近く、塔を取り巻く狭い足場の上に、スパイナーは佇んでいた。シャインシティ全景を見渡すことができるこの場所なら、プロペラダークの襲来をすぐに察知できる。だが現状、町のどこにも悪の気配は無かった。
不意に、周囲に着信音が鳴り響く。例の情報屋・間寺からの電話だ。コウジは彼に、参謀カンディルについての情報を集めるよう依頼していたのである。コウジは顔だけ変身解除し、電話に出る。
「もしもし、旦那か?」
「……俺だ。参謀についての情報か?」
「あー……それなんだが、残念ながらカンディルの情報は思ったより集まらなかった。最近頭角を現したみたいで、以前の動向についての情報が皆無なんだ。とりあえず分かっているのは、奴がカンテラボムと呼ばれる爆弾の使い手であることだけ。プロスのような特殊な能力は持っていないようだが」
「そうか」
確かにカンディルは、同胞に爆薬を提供していた。無尽蔵な爆破能力に加えて、あの卑劣な性格。特殊な能力は無いにしても、充分に厄介な敵と言える。
「悪いな、大した情報を提供できなくて。お詫びに今回のお代はチャラにしとくぜ。その代わりと言っちゃなんだが、もう1人の幹部「破壊闘士」についての情報を知りたくはないか?ちなみにこれは別料金だが」
「結局金取るのかよ……まあいい、ついでだから教えてくれ」
「ああ」
電話の向こうで間寺が資料を探すのを待つ間、突如としてコウジは異様な気配を感じ、周囲を見回す。だが360度、どこを見ても怪しい姿は無い。ここから見えないということは、すなわちシャインシティ全域に敵はいない筈なのに。最後にコウジは空を見上げ、電話越しに間寺にこう伝えた。
「悪い、急用ができた」
「え?」
「また後で連絡する」
困惑する間寺をよそにコウジは電話を切る。その視線は上空に向けられたままだ。彼の視線の先には、眩く輝く太陽の姿があった。時刻はちょうど正午近く。地上から見上げていればタワーと太陽が接しているように見えるだろうが、実際にタワー先端から眺めると、当然ながら太陽は遥か上空に見える。
そして今、太陽の表面は一箇所だけ黒く影になっていた。あれほどの大きさの黒点が発生すればシャインシティでもニュースになるはずだが、そんなニュースを聞いた覚えはない。つまり、あれは黒点ではない。
__コウジが睨む中、影が蠢いて人の形をとる。
「プルルルル!見つけたぜぇスパイナー」
「プロペラダーク……!」
プロペラダークが両腕を構えるのと同時にスパイナーは横に跳び、そのままタワーの斜面を滑降し始める。30mほど一気に下り、タワーの周囲に建っている高層ビル群が近付いてくるとその内の一つに飛び移り、屋上に着地を決めた。
だが一息つく暇もなく、スパイナーはその場で大ジャンプして隣のビルへ跳び移る。一瞬前まで彼が立っていた屋上は、機銃の雨によって削られていた。当然ながら、プロペラダークも高速でスパイナーを追跡していたのだ。
「プルルル!逃げられると思ったかぁ?」
プロペラダークの繰り出す銃弾や竜巻を避けながら、スパイナーはビルからビルへ跳び移り、時に壁面を下っていく。そして、彼の移動した軌跡を描くように壁や窓ガラスに弾痕が刻まれる。
「プルル、ちょこまかと……どこまで逃げる気だこの腰抜けめぇ!」
追跡を続けながら、挑発の言葉を投げるプロペラダーク。無論、スパイナーとしてもこのまま逃げ続けるつもりはない。ここまで移動してきたのは、敵の弾薬を消費させ、攻撃が当たりやすい位置まで誘導するためだ!
四方を高層ビルに囲まれた、一段低いビルの屋上に飛び込んだスパイナーは、意を決してその場で反転、プロペラダークに勝負を仕掛ける。
「スパナブーメラン!」
空中でスパナアームを思いっきり振るうスパイナー。その途中でロックが外れ、アームは彼の腕から離れて回転しながら怪人に迫り飛ぶ。
「プル!?」
プロペラダークは咄嗟に避けようとするが、この場所・距離では躱しきる余裕も時間もない。
決死の一撃が怪人を粉砕する__その寸前。プロペラダークが右手のプロペラを高速回転させ、そのまま射出した。プロペラは巨大スパナに突き刺さり、その軌道を少しだけ捻じ曲げる。結果、スパナは怪人に衝突するルートを逸れて屋上を飛び出し、そのまま地上へと落下していった。
「プルルルル、惜しかったなぁ!」
プロペラダークが高笑いを上げる。
「折角攻撃が届きそうだったのに、今のでお前は武器をなくした。俺っちにはまだプロペラが残ってる。つまり、お前の負けだぁ!」
怪人が左腕をスパイナーに向ける。悔しいが、奴の言う通りかもしれない。スパイナーの攻撃手段は基本的に近距離から中距離であり、相手が空中にいる場合は有効打に欠ける。今回の戦いで、コウジはそれを痛感していた。そして、奥の手のスパナブーメランも避けられてしまった。最早彼に打つ手は残っていないのか?
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