6-3

スパイナーは冷静に状況を把握しつつ、床に伏せて頭を抱えるユキエの元に駆け寄る。

「大丈夫か?」

「……うん」

どうやら怪我などはしていないようだ。続いて彼は体育館内を見渡す。幸い室内に残っていたのは数人程度で、瓦礫や熱による被害を受けた人もいないようだ。とはいえ、ここにいる限り攻撃されるリスクは残っている。早く彼らを避難させなくては。


周囲の状況確認を終え、コウジは再び後方を振り返る。ビルの場所は特定した。そして、敵の狙いは間違いなく俺だ。となれば__

彼が思考する間にも、マインドヘルムはコウジを狙わんとする新たな射線を捉えていた。弾道を見極めたスパイナーは、スパナアームであっさりと弾き飛ばす。今度の弾丸は爆発せず、地面に叩き落とされただけだった。


「なるほど」

スパイナーはユキエを狙撃から守れる位置に移動すると、館内の人々に呼びかける。

「早く逃げろ!攻撃は俺が食い止める!」

裏口から逃げる市民を見守りつつ、コウジは敵の動向にも注意を払う。レーザーは相変わらず自分に向いている。予想通り、敵の狙撃には何秒間かのインターバルがあるようだ。そして、俺が標的である以上、離れた場所の連中を狙撃する事はないだろう。その間に標的を見失ったら元も子もない。つまり、無関係の市民が巻き込まれる心配は少ない……ユキエを除けば。


ビルの屋上で再び黄色い光が点滅する。それを視認したコウジは咄嗟にユキエを抱きかかえ、大きく右方に跳んだ。

「!」

一瞬の後、2人が立っていた床が爆音と共に吹き飛ぶ。スパイナーは着地し、妹を抱えたまま走り出す。今ので更に確信できた。敵は2種類の弾を使い分けている。尖った形の金属片と、その金属片に爆薬を付けた弾丸だ。違いを見極める方法は、狙撃時に黄色い発光があるかどうか。


体育館から駆け出ると、コウジは一旦ユキエを下ろし、再度飛来する金属片を叩き落とした。爆発せずに地面に突き刺さったそれを引き抜き、改めて観察する。平たい頭部と尖った尾部を持つその物体は、やはり巨大な釘か画鋲を思わせる。そして、この形状の物を高速で射出する工具といえば、あれに違いない。彼は確信する。敵の武器は、遠距離狙撃用に改造したネイルガン。であれば敵の名前は、おそらくネイルガンダーク……!


コウジは地面に膝をつく妹の元に歩み寄り、屈んで目線を合わせる。

「ユキエ、ごめんな。お前には関係ないのに、戦いに巻き込んじまって」

「ううん、気にしないで」

ユキエは気丈に微笑んだ。

「お兄ちゃんはみんなの為に戦ってくれてるんだから。わたしだって、このぐらい平気だよ」

「そうか」

ユキエの健気さに、思わず目頭が熱くなる。妹がここまで覚悟を決めているんだ。兄として、必ず妹を守り抜き、奴の所に到達する!コウジはユキエを再び抱え上げ、ビルの屋上を険しい目で見据える。


敵がいるビルは、今彼らがいる体育センターから2本道路を挟んだ先。その間にあるブロックには真新しい立方体の低層ビルが建っているが、敷地の半分は石畳の広場になっていた。奴の元に行くには、間違いなくそこを突っ切るのが最短。視界が広いので、敵の攻撃も充分に見切れるだろう。

だが見晴らしが良いということは、相手からもこちらの動きが丸分かりになるということ。敵の裏をかくのが難しくなるが、それでもいいのか?立ち止まりながら思考するスパイナーのモニターに、再び赤い光点が映し出される。そうだ、悩んでいる暇はない!スパイナーは高くジャンプして釘の弾丸を回避し、そのまま全速力で走り出す。


車の往来が激しい道路を一足で跳び越え、スパイナーは広場へと突入。そのまま足を緩めることなく駆け抜けようとするが、間も無くビルの屋上で黄色い光が点滅する。

来た!解体戦士は速度を落とし、右腕をスパナアームに換装。妹を抱えたままの状態で、爆薬に対処するのは今まで以上に難しい。だが、やるしかない。マインドヘルムが飛来する弾丸の姿を瞬時に捉え、高速で分析を開始した。釘の頭部、すなわち弾丸としては尾部の所に発光する物体が取り付けられている。この部分が爆薬なのは間違いない。


ならばこうだ!スパイナーは右手のスパナアームを、襲い来る弾丸の先端部分のみを掠めるような角度で振り上げた。手応えあり。微かな金属音と共に、弾丸は上空に垂直に打ち上げられる。よし、成功だ。爆薬の落下を待たず、スパイナーは再び加速を開始した。


空高く打ち上げられた釘弾は、スパイナーの背後で静かに落下を続ける。その様を見ていたのは、彼に抱えられていたユキエだけだった。

「え?あれって……」

彼女の呟きをバックに、弾丸は地面に激突し爆発を起こす。


一方中層ビルの屋上では、ネイルガンダークも爆発の様子を観測していた。なるほど、余計な荷物を抱えてる割には、上手く避けている。だが、これはどうESCAPEする……?

彼は長銃身の狙撃用ネイルガンを再び構え、攻撃体勢に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る