第6話 必殺の一撃

6-1

ダークフォース基地の辺境、第二武器倉庫内。放置されて久しいこの場所に、密かに2体の機械怪人が集まっていた。1体はダークフォース三大幹部の1人である「参謀」。そしてもう1体は、黒の素体にカーキ色の野戦服のような装甲を装着した、どことなく陰気な雰囲気の漂う男だった。


「カンディル、何故呼んだ?出世争いなら、勝手にやってくれ。俺は、HIGH SCOREの更新で忙しい」

「ええ、貴方が将軍の座に無関心なのは分かっています。ですが、これを見れば考えが変わるかもしれません」

参謀は一枚の写真を男に手渡す。

「これは?」

「その人物がスパイナー、いや、玄場コウジの弱点です。すなわち、2人が一緒にいる場面を押さえれば、一方的に攻撃できるというわけです。……お好きでしょう?身動きできない相手を、遠距離から痛めつけるの」


男は写真を眺めながら、ニヤリと口角を上げる。

「NOTED(成る程)。これは、面白い」

「そうでしょう?それに今回の舞台は、貴方にとってホームグラウンドですよねぇ?」

「確かに。だが、奴に勝つには、FIRE(火力)が絶対的に足りない」

「分かっています。ささやかながら援助を用意しましたので、役立ててください。狩猟にね」


参謀は丸みを帯びた形の物体をどこからか取り出し、仄かに発光するそれを怪人に手渡す。

「これは……」

「貴方なら存分に活用できる筈です」

「かもしれない。だが、どうしてここまでCO-OP(協力)する?」

彼は怪訝な目つきで参謀を見る。

「フハ、CO-OPとは上手く言いましたねぇ!なに、怪しむことなどありませんよ。スパイナーを排除したい、それだけのことです。それでは、朗報をお待ちしてます」



シャインシティ中央部、市民体育センター。解体戦士スパイナーこと玄場コウジと妹のユキエは、2人でセンター内の体育館を訪れていた。


白いラインにより四角く区切られたコート。それを更に2つに分断するネットの向こう側に立ったユキエが、手を上げて兄に合図する。


「行くよお兄ちゃん。せーのっ!」

ユキエは羽根の付いた球、すなわちシャトルを空中に放り投げ、それを右手のラケットで打つ。シャトルは放物線を描き、ネットの向こう側へと飛んでいくが、床へと落下する前にコウジのラケットに危なげなく捕らえられ、反対側へと打ち返される。徐々にスピードを上げながら2人の間でシャトルの応酬が続くが、バックラインギリギリに落ちたシャトルをコウジが逃したことでラリーは終了した。

「やった!」


そう、彼らがやっているのはバドミントンである。その後も2人は一進一退の攻防を繰り広げたが、最終的にコウジのスマッシュショットによりシャトルがユキエの陣地に叩き込まれ、21点目を獲得したことで試合は終了した。

「ユキエ、お疲れ」

「もー、経験者でもないのにお兄ちゃん強すぎるよ!まだ本気出してないでしょ?」

「いや、そんなことはないぞ。ユキエも充分強かった。流石はシャイ3中のエース」

「だからエースじゃないってば!」


2人がここに遊びに来たのには理由がある。ユキエはシャイン第3中学の2年生で、バドミントン部に所属していた。だが、ダークフォースの侵略により中学は長期閉鎖となり、ユキエも自宅代わりの研究所内で自粛生活を余儀なくされていた。それを見かねたコウジが、気晴らしのために妹を連れ出したのである。


ダークフォースがこの施設を襲撃する可能性は低いし、万一攻め込まれたとしても逃走経路は把握済みだ。むしろ、試合の最中に別の場所を襲撃される方が不安だったが、幸いにしてそんな波乱もなく、久しぶりに妹と楽しいひと時を過ごすことができた。


「よし、それじゃそろそろ帰るか」

「うん!」

2人は荷物をまとめ、体育館を後にして管理棟に向かおうとしていた。だが出入り口の扉をくぐった瞬間、ある種の直感が稲妻のようにコウジの全身を駆け抜ける。同時に彼の聴覚は遠くの風切音を、視覚は微かな赤い光点を、それぞれ察知した。

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