5-2

コウジが向かったのは、シャインシティ西部のベイエリア埠頭。その奥に広がる閑散としたコンテナ倉庫の片隅で、一人の男が彼を待ち構えていた。その男の名は、新聞記者にして情報屋としての顔も持つ男・間寺正志。コウジがこの場所に彼を呼び出したのは、以前から気になっていたある情報を探るためである。


眩しい日差しが照りつける中、間寺はいかにも暑そうに携帯扇風機を回していたが、コウジが来ると笑顔で出迎えた。

「よう旦那、待ってたぜ。最近は暑くてたまらないよな。これは取材で貰った新型の扇風機なんだが中々快適だぜ。旦那にも一つ贈呈しようか?」

「無駄話はいいから本題に入るぞ。今俺が知りたい情報はただ一つ。ダークフォース基地の場所を知ってるか?」

「……ダークフォースの、本拠地の場所ってことか?」

「ああ。博士の話だと、メテオリオンは独自にダークフォース基地を見つけて乗り込んでいったらしい。博士にも場所は明かさなかったそうだが、あんたならその場所を知ってるんじゃないか?シャインシティ随一の情報屋なんだろ?」


間寺は困惑と警戒が入り混じったような顔をしていたが、やがて落ち着きを取り戻した。

「なるほど、あんたの言いたいことは分かった。俺がメテオリオンに基地の情報を教えたって言いたいんだな。もっともな推測だ。だがその、何と言ったらいいか、俺は知らないんだよ。基地の場所なんて」


「……本当か?」

「やっぱり疑われてるよなあ。まあ無理もないが、俺の話も聞いてくれよ。基地の在りかなんて最重要機密、部外者に分かるわけないんだ。俺が知ってるのは、あくまで外部に漏れた情報に過ぎない。そんな情報を知ってるなら、それはきっと組織の内通者だ」

「じゃあお前は、メテオリオンの情報源はダークフォースの内部だって言うのか?」

「まあな。仮に俺よりも情報通な奴がいたとすれば悔しい限りだが、そんな奴はとっくに組織に消されてるだろうさ。もう一つの可能性としては__いや、やめておこう」


間寺は思わせぶりに口を噤む。

「信用を得たいなら、言いたいことははっきり言ったらどうだ?」

「参ったな、こんな事言ったらますます怪しまれるかもしれないが……まあいいか」

彼は軽く息を吸うと、口を開いた。

「俺が疑ってるのは、あんたの後見人の空戸博士だ」

「何だと!?」

「まあ落ち着けよ。俺も空戸博士も、それぞれ別個にメテオリオンを支援していた。互いに素性を知らないのは当然だ。それを踏まえて聞いて欲しいんだが、博士はお前に隠し事をしている可能性が高い」


「どういう意味だ?」

「例えばそうだな、メテオリオンのパワーの源については知っているか?」

「パワーの源?そりゃ俺と同じように、マインドエネルギーで動かすマインドアーマーを装備して戦ってたんじゃないか」

「いや違う。メテオリオンはメテオエナジーを宿して生身で戦う戦士だった。その正体は宇宙人だなんだと言われていたが、少なくとも空戸博士の発明とは無関係だったのは間違いない」


「そ、そんなこと博士は一言も」

「無論、言わなかったのはただの偶然かもしれない。だが、博士がメテオリオンに発明品を提供してなかったとすると、一体どうやって支援してたんだろうな?」

「いや、それは」

「ついでにこれは憶測だが、あんたがダークフォース基地を探したいって言った時、博士は遠回しに反対しなかったか?……その表情、やっぱりそうなんだな。何もやましい事が無ければ、普通は協力するか、そうでなくとも手がかりの一つくらいはくれるだろうに」

「……」

「こうして考えると、やっぱり怪しく思えて来ないか?俺と同等くらいには、な」


畳み掛けるような間寺の主張に、コウジは反論しようとするが言葉が出てこない。敵の基地を探すと言った時の博士の反応が、突きつけられた推測と恐ろしいほど合致していたからだ。更に言えば、メテオリオンについての先程の会話。思い返してみると、博士は核心に及ぶ前にうまく話を逸らそうとしてはいなかったか?既にコウジの心の中では、博士への疑念が膨らみ始めていた。


そんなコウジの内面を見透かしたように、間寺は言葉を重ねる。

「ま、今言ったことは根拠のない妄想のようなもんだ。だが、俺が博士を怪しむ気持ちも少しは分かったと思う。その上で、どう判断するかはあんた次第さ」


コウジは口を開こうとする。だがその矢先、周囲に電子音が鳴り響いた。彼が手首に常時装着している、小型通信装置に着信があったのだ。

「はい」

「ダークフォース怪人が出現した。座標を送るから急行してくれ!」

「……了解!」

コウジは手短に博士に応答すると、間寺を一瞥しながらベイエリア外部へと走り出した。

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