4-4*

「右腕を新たな装備に換装できる」という情報が博士からもたらされたのは、コウジが研究所に帰還してすぐのことだった。先の戦いで思い悩むコウジを励ますように、マインドアーマーのメンテナンスを終えた博士が自信満々に告げたのである。


「右腕を換装するって、スパナアーム以外の装備にできるってことですか?」

「うむ。換装システムは、元々スパイナーの変身機構に組み込まれていたものだ。君も知っての通り、スパイナーの右腕は、変身直後はマインドハンドと呼ばれる通常の腕の形をしているが、換装システムを使うことで瞬時にスパナアームへと置換される。しかし、換装先はスパナアームに固定されているわけではない。新たなアームが完成した今、スパイナーは戦闘ごとに適切な装備を選択して戦うことができるようになったのだ!」


博士がスイッチを押すと、壁のスクリーンに巨大な物体の姿が映る。それは細長く先端が尖った、どこかで見覚えのある形をしていた。

「こ、これは……」

「ドライバーアーム。以前君がへし折ったドライバーダークの腕、あれを解析して新たなアームを開発したというわけだ。このアームはスパナよりも攻撃範囲は狭いが、一点突破力・貫通力では優っている。スパナが通じないような頑丈な相手でも、このアームの攻撃なら通る可能性がある」

なるほど、確かにドライバーダークの腕はマインドアーマーをも貫通しうる威力を持っていた。その力が使えるなら、あの頑強なフライパン鎧が相手でも勝機があるかもしれない。


「コウジ君、ドライバーアームを思い浮かべながら右腕を換装してみたまえ」

「はい!」

コウジは言われた通り、右腕に力を込めて意識を集中させる。一瞬の後、彼の右腕はスクリーンに写っていたのと全く同じドライバーアームが装着されていた。


右腕を上下させてみる。外見の割にそこまで重くもなく、動かすのに問題はなさそうだ。少しの時間訓練を積めば、スパナアーム同様に使いこなせるだろう__しかし残念ながら、悠長に練習をしている時間は彼には残されていなかった。というのも、直後に研究所全体に警報音が鳴り響いたからである。

「ダークフォース反応あり!フライパンダークの奴、もう出直して来たのか?」

「仕方ない、ぶっつけ本番で行くか。博士、行ってきます!」


スパイナーが現場に駆けつけると、そこにはやはりフライパンダークの姿があった。

「ファッファッファ!逃げずにここまで来たのは褒めてやろう。だが、もはや貴様の必殺技はわしには通じぬ。プロス殿の平穏のために、大人しくここでスクラップになれい!」

そう豪語するフライパンダークの背中に、棒のような物が見える。日本刀でも背負っているのかと思いきや、よく見るとそれはフライパンの柄だった。なるほど、腹部と背部、両方にフライパン鎧を装着してきたというわけか。確かにこれならスパイラルブレイクは通じまい。だが__


「そいつはどうかな?」

スパイナーはフライパンダークに向かって走り出し、同時にマインドヘルムで敵のスキャンを開始。更に接近し、敵のフライ返し剣による攻撃をスパナアームで迎え撃つ。

「フン、またその単調な戦法か!通じないというのにご苦労なことだ」

「……」

フライパンダークの挑発を黙殺し、戦いながらスキャンを続けるスパイナー。敵の分厚いフライパン鎧のお陰で時間を取らされたが……遂に、マインドヘルムの内側に敵のコアの位置が映し出される!


「見えたっ」

素早く背後に跳び下がったスパイナーは、右腕に力を込めて叫ぶ。

「アームチェンジ!」

次の瞬間、彼の右腕はドライバーアームへと置き換わり、その鋭い穂先が敵の胴体をぴったりと狙っていた。

「な、何ぃ!?それは、ドライバーダークの……」

狼狽するフライパンダークを尻目に、スパイナーはドライバーアームのロックを解除し、かつてドライバーダークが使ったように高速で回転させ始める。その状態で狙いを定め、敵のコアに向けて一気に突き出す!


「くらえ、スティンガーブレイク!」

正義の槍はまっすぐ直線を描きながら伸び、鉄壁のフライパン鎧をあっさりと貫通。そのまま機械怪人のコアを貫いた。


「ガファッ」

アームを引き抜かれた後、コアを砕かれたスパイナーダークはオイルを吐きながらその場に崩折れる。

「わしを調理するとは、見事なり……だが、プロス殿はもっと手強いぞ……!」

フライパンダークはそう言い残すと爆散した。


スパイナーは夕陽に照らされながら戦場を後にする。新たな力、ドライバーアームのお陰で今回は敵を打ち倒すことができた。だが敵の遺言通り、守護騎士プロスの強さは依然として底が見えない。それでも、あいつとは近いうちに必ず決着をつけることになるだろう。彼は不思議とそれを確信していた。



同時刻、ダークフォース基地内。

「フライパンダークが、倒されてしまいましたねぇ」

「……それがどうした。奴はスパイナーより弱かった。それだけだ」

参謀の嫌味ったらしい問いかけを一顧だにせず、プロスは大広間を後にする。クールに振舞っているが、内心では怒りに燃えているのが手に取るように分かる。全く、面白い男だ。

「それでは、もう少し遊んでみますか」

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