3-3*
スパイナーは前方を睨み続ける。やがて煙は薄れ、背後の光景が徐々に見えてくる。公園入り口に立てられたアーチの真上に直立する影。既に日没を迎え、急速に空を覆っていく青白い光に照らされ、その姿が浮かび上がる。
ほぼ全身を覆う、西洋のプレートアーマーを思わせるスマートなメタリックブルーの装甲。胸当ての部分には、ダークフォースのエンブレムが刻印されている。全体的に怪人というよりヒーローと言った方が近いような外見だが、右腕のみ内部の機械が剥き出しになっていて、見る者にアンバランスな印象を与えていた。
「貴様もダークフォースの一員か?」
スパイナーの問いかけに、敵は無感情な声で答える。
「始めましてと言っておこう、解体戦士スパイナーよ。私はプロス、ダークフォースの守護騎士を務めている」
プロスはアーチから飛び降り、スパイナーと対峙する。
「既に3体の怪人が貴様に敗れている。これ以上の浪費を避けるためにも、貴様はここで私が倒す」
「ふざけるな、何が浪費だ!人々の笑顔を奪うダークフォースの悪行を、俺は絶対に許さない!」
「無知というのは哀れなものだ。来い、すぐに楽にしてやる」
プロスが右腕を振ると、剥き出しになっている機械部品が変形を開始する。間もなく右腕は巨大な機関銃のような外見となり、銃口の先からはノコギリ状の刃がせり出してきた。
「いざ!」
プロスの掛け声を合図に2人は一気に間合いを詰め、互いの得物を相手に叩き込む。武器へと姿を変えた互いの右腕がぶつかり合い、火花を散らす。得物を使った鍔迫り合い。押し合いは膠着状態となり、傍目には2人の動きは止まっていた。
スパイナーは右腕のスパナアームに全ての力を集中させていた。その出力はかつてのペンチダーク戦時よりも遥かに高く、スペック上の限界ラインに迫っていたが、それでも押し切ることはできない。平然としているように見えるが、プロスのパワーは恐るべきものだった。
「……なるほど、では次だ」
プロスの無感情な言葉に反応するように、彼の武装した右腕が振動を始める。いや、よく見ると、先端の鋸刃部分が高速で上下に往復運動を始め、その振動がプロスの右腕全体、更には敵のスパナアームにまで伝わっていたのである。
「超振動刃、レシプロソード!」
プロスは高速で振動するブレードソーを巨大スパナへと押しつける。耳障りな金属音が周囲一帯に広がり、同時にスパナアームを激しい衝撃が襲う。
「ぐっ……」
衝撃に耐えられず、背後に転がって距離を取るスパイナー。アームの中央部を見ると亀裂が走っている。回避がもう数秒遅れていれば、アームが破損していた可能性すらある。
だが、アーム自体はまだ使用可能だ。今、敵はブレードを振り下ろしており懐はガラ空き。エネルギー消費は激しいが、このまま至近距離で決める!
「スパイラルブレイク!」
一か八か、スパイナーは突進しながら必殺技を繰り出す。目の前に迫る敵の胴体。この距離なら、確実にヒットする筈だ!
……だが一瞬後、その目論見は覆されることとなる。
彼らの戦闘を俯瞰して見ていた者がいたとすれば、スパイナーの攻撃が当たる寸前、プロスの左手に変化が起きていたのを確認できただろう。彼の左掌を中心に空間に振動が発生し、その振動の狭間から円盤状のエネルギー壁が姿を現す。そしてプロスは突っ込んでくるスパイナーに向けて、エネルギー壁を円盾のように構えた。
そしてスパイナーと円盾が接触した瞬間、彼の全身は盾の中に吸い込まれるように消滅し、直後にプロスの背後に出現し落下した。
「な……何だと……?」
自分の状況が理解できぬまま、地面に転がるスパイナー。プロスはその首筋にレシプロソードを突きつける。
「レシプロシールドを見破れぬとは……所詮は偽物か」
「に、偽物だと……?」
「もう喋るな。さらばだ、解体戦士よ」
プロスは振動させたブレードソーをスパイナーの首筋に向かって振り下ろす。
寸分の狂いもなく、相手を確実に仕留めるよう計算された守護騎士の刃。だがその刃がスパイナーを切り裂く寸前、プロスの視界の片隅にある人影が写り込み、彼の動きは止まった。
「あ、貴方は……」
「!?」
一瞬の機を逃さず、プロスから距離をとって立ち上がるスパイナー。何が起きているのか分からないが、絶体絶命の状態から逃れることができたようだ。再びプロスに向けて得物を構えるスパイナーだが、敵は明らかに戦意を薄れさせていた。
「一旦仕切り直しにする。命拾いしたなスパイナー」
そう言い放つと、プロスは素早く身を翻す。スパイナーが追いかける暇もなく、彼のシルエットは薄紫色に染まり始めた夜空の片隅へと消えた。
「守護騎士プロス……」
敵の姿が消えたのを確認した後、コウジは変身を解く。
ダークフォースの幹部格だけあって、その実力は恐ろしいものだった。謎のトラブルがなければ、先程の戦いで彼の命はあっさりと潰えていた可能性が高い。あいつともう一度激突する日までに、より一層鍛錬を積まなければ。
コウジはシャインシティの夜空を眺めながら、そう誓った。
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