3-2

10分後。コウジは空戸研究所にて、博士に報告を行なっていた。


「残念ながらドライバーダークは取り逃しましたが、奴の最大の武器であるアームは破壊しました。戦力は半減以下になっている筈です」

「うむ、よくやった。だが油断は禁物だ。ダークフォース怪人の厄介な所は、体の一部が損傷しても修復・改善が可能な点だ。更には敵との戦闘データをインストールし、戦術をアップデートしてくることもある。勿論これには時間がかかるので、強化などせず速攻で奇襲をかけてくることも考えられるが、いずれにせよ奴は、君へのリベンジを企てている可能性が高い。引き続き警戒すべきだろう」

「はい。そこでなんですが」


コウジは自分の計画を切り出した。

「これからシャインシティ全域のパトロールに行ってきたいと思います。ドライバーダークがいつまた襲ってくるか分からないし、他にも確認したいことがあるので」

「ほう、確認したいことというのは?」

「ダークフォースの基地の探索です。奴らの本拠地はこの街のどこかにあるはず。そこを特定すれば、こちらから攻め込めます」

「確かにその通りだが、気をつけてくれ」


博士は険しい顔で語る。

「かつてこの街を守った英雄メテオリオンも、最期は単身で奴らの基地に突入し、二度と戻っては来なかった。わしは当時から彼の協力者だったが、「本拠地を見つけた」という短い通信を最後に連絡がとれなくなったのだ。後に、彼が命を賭して送ったメッセージでその輝かしい戦果が明らかになったものの、敵本拠地の正確な場所を突き止めることはできなかった。君の探索を止めはしないが、怪しい場所を見つけても単身向かったりせず、まずはわしに連絡してほしい」

「はい、必ず」


「それからもう一つ。言うまでもないが、シャインシティは広大だ。実際、メテオリオン以外にも警察やわしを含む協力者によって基地捜索は何度も行われたが、結局彼以外に発見できた者はいなかった。あまり探索に固執せず、敵怪人の排除を最優先で行なってくれ」

「もちろん、被害防止が最優先なのは分かってますが、それでもやる価値はあると思っています。ダークフォース壊滅に少しでも近付ける可能性があるのなら」


「分かった。気をつけて行ってきてくれ」

「はい!それでは出かけてきます」

やる気に満ち溢れたコウジは早速研究所を後にし、パトロールに出発した。



玄場コウジは、博士への宣言通りシャインシティ全域のパトロールを開始した。シャインシティは大きく4つのエリアに別れている。ビル街や商業施設が立ち並ぶ中央部ことメインエリア。市民の過半数が住む東部の住宅エリア。先ほどの戦闘や、以前のハグルマダーク戦でも舞台となった北部の開発エリア。そして、海に面した西部のベイエリア。


コウジは時間をかけ、4つのエリアをゆっくりと見て歩く。どの地域にもダークフォースの影は見えなかったが、悪の組織の襲撃を恐れてか、人々の姿は殆ど確認できなかった。暦の上では今日は休日。以前なら、メインエリアや住宅エリアには親子連れをはじめとする人々が溢れ、平和な光景が広がっていたものだ。だが今は、外を出歩く人間など少数派。建物は小綺麗なのに街はガランとしている。街中から忽然と人々だけが消え去ったかのような、又はシャインシティとよく似た別の街に迷い込んでしまったかのような、漠然とした不安感が彼の心にさざ波を立てる。……いや、不吉な想像は止そう。コウジは不安感を振り払い、次のエリアに向かう。


3つのエリアの巡回を済ませたコウジは、最後に残ったベイエリアを訪れていた。彼が現在いるのは小さな海浜公園。視界の西側には茜色に染まった海と空が広がり、下降する太陽が今にも水平線に接しようとしていた。


公園内に人影は数えるほどしか存在せず、特に怪しい気配も感じられない。しかし油断は禁物だ。コウジはゆっくりと公園内を進む。

その途中、反対側から一人の男が彼の方に歩いてきた。男の足取りはおぼつかず、コウジとすれ違う時にぶつかりそうになる。

「す、すみません」

「……いえ」


コウジは男を一瞥する。ボサボサの髪にやつれた頬をした冴えない風貌の男で、着ているコートもボロボロ。だがその顔を見た瞬間、何故かコウジの心にざわめきのようなものが感じられた。彼の直感が、男に関する何かしらの警告を発している。彼からはダークフォース怪人特有の邪気は感じられないし、そもそも奴らに人間への変身能力など無いというのに。


ならばこの胸騒ぎは、一体何だ?男とすれ違った後も、コウジは歩きながら違和感の正体を分析しようとしていた。あの男、以前にも会ったことがある気がするが……彼は強化された頭脳をフル回転させ、記憶を巡らせる。

__そうだ、あの顔。コウジは不意に思い出す。一瞬だけだが、メインエリアや開発エリアでも目にしていた。ということは、あいつは俺を尾けてきている……?


コウジが振り返ろうとするより一瞬早く、背後からその男の叫び声が響いた。

「うわぁ、か、怪人だ!」

「!?」

コウジが振り向くと、視界に飛び込んできたのは尻餅をついた男と、それを飛び越えるようにして自分へ飛びかかってくるドライバーダークの姿だった。


「ドルルッ!スパイナー、死ねぇ!」

ドライバーダークは折れたままのドライバーアームを突き出してくる。不意打ちのタイミングは完璧だった。男が叫びを上げなければ、又はアームが万全であれば、怪人は容易くコウジを串刺しにしていただろう。だが、二重の幸運がコウジに対処するのに充分な時間を与えた。


「マインド・イン!」

彼は即座にスパイナーに変身すると、折れたアームの一撃を素早く躱し、カウンターで怪人の胴体にスパナを叩き込む。

「ドルァッ」

垂直に打ち上げられるドライバーダーク。そのまま降ってくる怪人の真下で、スパイナーは立ち位置を調整しながらスパナアームを回転させる。

「スパイラルブレイク!」

回転スパナの一撃が敵のコアを貫く。

「ドルッ!折れた串では……焼き鳥焼けぬ……」

ドライバーダークは空中で爆散した。


敵怪人が倒された後も、スパイナーはすぐには変身を解かなかった。というのも、彼の直感が未だに警告を発し続けていたからである。そして間もなく、爆発の煙の背後で何者かの気配がするのに彼は気づいた。


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