第4話


 小屋に帰る道中。アルメイリアに本日中に旅支度を整えるようにと取り決め。

 着替えもせずに――そのままの格好で王宮へ向かって行く。

 途中何度か呼び止められたが、「時期王となる私の顔を忘れたか! この無礼者が!」その度に珍しく気合の入った顔を向けられては、腰を抜かす家臣達。 

 そして、彼らは心で猛烈に抗議していた。


『いや! だって! 普通次期王様が農夫の格好とかありえないっしょ!』


 ただでさえ普段から農家の手伝いをしているファルトは無駄に堂に入っていて分かり辛い。

 と、いうより――農夫その者にしか見えなかったのだから。家臣を責めると言うのは酷であろう。

 ファルトが向かう先は、腹違いの弟であるガーストの居る部屋だった。

 首都を元デルタイリアへ移し、この国を兄以外の者に任せようと思っていた矢先に部下から兄の本音を聞き――てっきり、本当に夜逃げすると思っていただけに兄の来訪は少しばかり意外でもあり。やはり、ラゲッタの言った通りだったとも思っていた。

 ファルトが久しぶりに見た弟の部屋は、亡き王のそれと比べて全く遜色のないものであった。

 父に似て好色だとは知っていたが、よもや宮廷に仕える女性術師の大半が居るとは思わなかったのだ。宮廷に仕える以上。外交的要因も兼ねて審査されるため、容姿も相応の者が求められる。

 そして、アルメイリアもそれに準じて選ばれただけあって美人だった。 

 煌びやかな金髪と、透き通ったきらきらした空色の瞳。一目惚れだった。 

 直ぐに仲良くなりたくて、彼女を湖に誘って漁をやって見せては自慢げに話して聞かせた。

 その、ばかげた行動力。民と同じ席で談笑できる存在にアルメイリアも惹かれ今日に至っている。

 そして――今、ファルトが呆然と見つめているのは、それと対照的な光景だった。

 一応、来客があると聞いて服を羽織ってはいるが、彼女達が何を求めてココに居るのかは直ぐに察した。その様相が普段着ではなく、男を誘うものだったからだ。皆、あわよくば側室の座を得ようと躍起になっていた。男をその気にさせる香が焚かれ濃く漂っている。うっすらと煙る空間と、ほんのり香る甘い匂いは、ファルトの心音を少しばかり早めた。まだ日が沈んで間もない時間でありながらこれなのだから、きっと普段からこうだったのだろう。

 亡き王と同じ道を選んだということなのかもしれない。父は相手にする女性を一定の年齢で区切っていた。それは、おおむね20前後であり例外はなく。王妃とて同じ。覚えているのは追い出された母の後ろ姿だけだった。新たに王妃となった者に追い出され、追い出した女も同じく追い出された。

 それが弟であるガーストの母である。それを見続けたファルトは王のやり方がイヤになり。 

 自分が思うままの理想を追いかけ始め。弟は、真似ただけのこと。

 唯一違うとすれば、年齢に見境がないくらいだった。今年入ったニューフェイスから、上は30近い者も居る。それら10名が思い思いの化粧と格好で今夜の相手を強請っていたのだろう。

 その中心。天蓋付きの大きなベッドの上に王様気取りで寝転ぶ弟。ガーストがごろりと身体ごと兄に向ける。


「おやおや、これはお兄様ではありませんか。余りにも農夫の格好がお似合いなので、てっきり父が上げ過ぎた税金に腹を立てて直談判に来たのかと思っていまいましたよ」


 にやりと、不適な笑みで頬を刷り上げれば、「ああ、それは忘れていた。できれば、数年前のレベルに戻してもらえるとありがたい」兄であるファルトは、微風の様に受け流して返す。


「あはは。まるでそれではボクが王様みたいでは、ありませんか。それに、どちらにしろこの国の税金なんて微々たる物。有ろうと無かろうと対した問題にもなりませんよ」


 ファルトは手をぱたぱた左右に振って茶化し合いは止めようと提案する。


「いやいや。この状況を見る限り、お互い認めようじゃないか。どちらが王に相応しいか。宮廷に仕える者がこぞってお前に懐いているのが何よりの証拠ではないか。見ての通り私には農夫の方が性に似合っている。だから最後の挨拶に来たってわけさ」


 なるほどと、ガーストは軽く頷き。身体を起す素振りを見せれば――すかさずそれを促すように支える女達。良く躾けられていると感じた。きっと相当前からこの様な夜事が続いていたのだろう。

 ガーストは父に似て恰幅の良くなってきた身体に、白いガウンだけを羽織った格好でベッドから下りると酒とグラスの置かれた給仕用の台に手を伸ばし金色の呼び鈴を鳴らす。リーン・リーンと心地良い高音が響く。そして、元に戻す。本来なら、仕える女性達の仕事であろうに。

 いかにも意味ありげな行動。主が誰かを呼ぶ理由があるという事なのだろう。  


「実は、ボクも最近の兄様を見ていて、こう言い出す可能性を考えてもいましてね」

「そうか、すまんな気を使ってもらって」

「いや、礼には及びませんよ。むしろ王族だった者が農夫に成り下がるのですから相当の苦労をなさるでしょうし」


 ガーストは先程のラゲッタとの会話を思い返して噴出しそうに成るのを必死で堪えて続きを伝える。


「それに、お金は有って困るものではありませんから」

「うむ。言われてみればその通りだな。すまんな、民と慣れ親しんでおきながら。本当の意味で民と同じ生活をするという意味が分っていなかったのかもしれん」

「あはははは。気になさらないで下さい。王族なんてそんなものですよ」


 正直なところバカ笑いしないように堪えるのが辛かった。

 イヤでも先程ラゲッタとした会話の内容が頭で繰り返される。  

 兄の考えを知りラゲッタに相談してみれば、『でしたら先ずは金を多めに渡してみましょう』と言われ。

 その意味を問い掛ければ、『気風の良いところを見せておけば。弟に度々金をせびりに来る哀れな兄の姿が拝めるかと思いまして。それに、『金の使い方を知らない王族なんてそんなものですよ』と言われた。

 本来なら、アルメイリアを我が物にして兄の悔しがる顔を拝む予定だったのだが、それも否定され。

『なぜだ?』と問い掛ければラゲッタの提案を聞いて大笑いしてしまった。

『ガースト様は、今が、彼の最も幸せな時だとお思いなのですか? 自分なら、結婚し子が生まれ、その成長に夢を見ている時が彼の一番幸せと感じる時だと思います。ですから、それをお膳だでした上で我が策により奪う。もっとも、ファルト様には一切の手出しはさせませんがね。だって、そうでしょう。彼も殺してしまっては悔しがる顔が拝めないですからね』


 そして、面白い提案をしてくれた褒美に、いつも通り金を渡す。そして、以前から気になっていた一つの疑問を問い掛けてみた。ラゲッタは手に入れた金で女を買っているからだった。 

 はっきり言って女なら幾らでも調達できる。むしろ変な女と戯れて余計な病気をうつされでもしたら事である。そのての病気だって致命傷になる事だってあるのあから。

 しかし、ラゲッタはこう言った。


『いえ、女の用立ては不要でございます。女は自分で買う物ですから。自分は別に、女を抱きたいから金が欲しいのではありません。金にものを言わせて妻を寝取り。それまで彼女達が築き上げてきた家庭を崩壊させる事こそが我が人生最大の悦楽だからこそ金が欲しいのです』


 この、とことん自分を楽しませてくれる考えを持った男が待ち遠しかった。

 彼が、ここに金を持ってくることになっているからだ。金額も彼に一任した。 

 そして、戸を叩く音が聞こえると、手近にいた女に目配せをする。赤い薄布を纏った女が頷くと、ドアに向かって歩み寄る。途中、農夫の格好をした土臭い男を一睨みすることも忘れずに――

 個人的には、膨らんだ雪だるまみたいな男よりも健康的に日焼けしたファルトの方が好みだったからだ。

 低くく丸い鼻も、毛虫みたいにもっさりとしたぶっとい眉毛も嫌いだった。でも、側室の地位は欲しいからココにいるのだ。もし、この男が真剣に王座に就く事を考え前々から慎重に事を進めていたのなら。二つの国を兄弟で統治すると言う道もあったはずなのだ。そうすれば自分は彼の女に成れると夢見ていたのに、全く使えない男だったと知って愕然としていた。

 ガチャリと、ドアを開ければ全く汚れの無い純白の白衣を着た男が立っている。左側の顎にだけ髭の剃り残しがあった。


「それでは、失礼致します」


 ラゲッタは、ふらふらとよろめきながらも部屋に入ってくる。

 どさっと。灰色の大きな袋を赤い絨毯の上に置いて息を整える。自分の腕力を忘れて詰め込んだ金貨は思った以上に重かったからだ。その袋は本来武具を運ぶ際に使う物であり。上皮で作られた頑丈な物だった。


「ファルト様、どうぞお持ちください。それと、もし足りないようでしたらまたいつでもいらして下さいませ。望むままにこちらでご用意させて頂きますので」

「うむ、そうか。すまないなラゲッタ。正直なところ本当の意味で民に成る事の意味に気付けないでいたからな。その際はよろしく頼む」

「はい、それはありがたきお言葉。それで、なのですが馬車をご用意させて頂きましたのでそちらもお使いくださいませ」

「ああ、言われてみれば、そうか。うむ。歩いて移動するつもりだったので助かる。いや、ほんとにすまん。なにからなにまで本当に私は何も知らない男だったのだな」

「いえいえ、王族とは本来その様な事を考える必要のない人種ですので致し方ありません。それと、どちらに身を寄せるおつもりなのでしょうか?」

「うむ。そうだったな。別れの挨拶をしに来て行き先も告げ忘れるところだった。すまんガーストよ私はリュタリアに身を寄せるつもりだ。ココからは、かなり離れているが近くまで来る事があったら寄ってくれ歓迎する」

「あはははは。そうですか、それでは、もし、その日が来たら是非とも寄らせて頂きましょう」

「うむ。それまでに、全力で民の生活に慣れるとしよう。では、しばしの別れだ弟よ」


 ずっしりとする袋をファルトは簡単に持ち上げる。この手の力仕事は、お手のものである。


「では、兄様。お幸せに」


 ガーストは本心から、兄に幸せになって欲しいと言っていた。


「うむ。ガーストお前もな」


 ファルトが出て行った後――ガーストの顔が醜く歪む。 


『幸せに成ってもらわないと悔しがる顔が拝めませんからね』


 そして、声を押し殺す必要もなくなったガーストは、豪笑したのだった。

 リュタリアに行く事はラゲッタの読み通りであり、馬車の用意もしていない事も彼の読み通り。

 全くダメな兄が面白くてしかたなかったのだ。


「ガースト様。すみませんが、もしファルト様が野垂れ人でも私を恨まないで下さいませ……」

「んあ、それはどういう意味だ?」

「いえ、こうして話してみて思ったのですが…その…」

「いいから、言ってみろ!」

「はい、それでは、正直に申し上げます。あそこまで世間知らずとなると金が尽きた事に気付かずに餓死してしまうかと。つい、思っていまったのですから」

「あはははは! バカかお前は! それはそれで無様に餓死した姿を見て笑えばいいだけではないか!」

「あー! それは気付きませんでした! 確かにそれは、それで一見の価値はありますな!」


 そして、二人はバカ笑いをした。

 それを見た女達は、普段聡明に見える男も案外使えないものだと、心の中で嘲笑し――外見は、見劣りしても。一生遊んで暮せる生活を約束してくれる男の価値に思いを寄せて行った。









 少しばかりアホウ者を演じ続けてきただけでこの報酬。以前より少しづつ用意していた旅の支度は一式積まれ。危ぶまれた出立は、どちらかというとゆとりを持って完了していた。

 ファルト達が国を後にしたのは深夜だった。旧デルタイリアみたいにもっと街道を整備すべきだと強く感じながらも、がらがらと、音を立てる馬車。用意された馬は栗色で足も太く力強い。

 行商に来る商人達の馬と比べても遜色ない。今後は農地の開墾する際に大きな戦力となってくれるだろう。実に頼もしい。


「あはははは。全て予定通り上手く行った。いや予定以上か。金と馬をせびるつもりだったが。馬車まで用意してくれていたとは、顔も知らん暗部の者に礼を言いたいくらいだよ!」


 幾重にも張り巡らせた風の結界に触れる者が一人もいないのを感じ取ったファルトは笑って、本音を語っていた。


「あなたって、ホント、ずる賢いですよね~」


 アルメイリアは、呆れと喜び半分半分で応える。冗談抜きで女のために国を捨てるバカ王子が自分の隣で馬の手綱を握っているからだ。それにガーストだって本当は、からかわれていたのだと知ったらどれだけ怒ることか。宮廷の仕事も短い置手紙だけで同僚に押し付けてきた。

 ファルトがそれなりに話は通してきたと言った言葉を鵜呑みにして現在に至るが……それらの不安材料なんて忘れちまえよ! と言わんばかりにファルトは笑う。


「あははは! 私は、惚れた女のためならばこの程度の無茶は笑ってやって見せるよ! それにメイリーにプロポーズされた以上イヤでも気合が入るというものさ!」

「はいーー? いったいいつ私があなたに求愛したとおっしゃるのですか?」

「いや、しかと聞いたぞ! 『つまり、私を妻として娶ると言う事でよろしいのかしら?』と言っていたではないか! だからこそ私も喜んで受け取ったではないか!」

「あ……ごめんなさい……その、あれは、冗談です」


 ず~~~~ん、と音が聞こえそうなくらいファルトは落込んでしまった。

 さすがに悪いことをしたと思った。孤独感といらいらが折り重なっていたところに不用意だった心は適当なことを口走っていたからだ。


「え~~~と、でえすね。ですが、その…あなたと夫婦になりたいかと問われたなら…その…私は、喜んでなりたいといいますよ……」

「ふむ、なるほど。つまり、メイリーは自分からではなく、私から言って欲しかったということか?」


 ファルトの顔は、明らかに作った顔だと感じた。

 これは、何か策が用意してあるか。この展開を読んでいて、既に対応策が用意されているかのどちからである。出合った時だってそうだった。彼は、いつだって幾つもの顔を使い分けていた。その理由が生き延びるためだったから、仕方なしと思って諦めていた部分もあったが……

 それが、いざ自分に向けられると思うと、ちょっぴり面白くない。


「まぁ。そんな顔をするなよ。正直なところ、メイリーが聞かせてくれた老婆の話に憧れていたのさ」


 まだ見ぬリュタリアの地を透かし見る様に、ファルトは遠くを見詰める。遠方まで飛ばした風の触覚に触れる気配は特に無い。山賊達を警戒しているからだった。今まで隠してきた能力を存分に使って見せる。そんな自信に満ちた顔に、つい意地悪をしてしまいたくなるが、そんなことすれば、きっと後悔しそうなきがして、「ふんっ」拗ねて見せた。


『悔しがる顔なんて見せてあげませんから!』


 そして、やっぱり全てお見通しだったみたいな顔してファルトは微笑む。


「いいじゃないか。常に身内から命を狙われる存在にとって、何事も無い平穏な毎日を繰り返すだけの話は、理想郷みたいだったのさ。糸を紡いで服を作るのが得意な長女。畑仕事が好きで、作物を育てるのが得意な次女。そして、三女は料理が得意。それぞれが得意分野を生かして共同生活しているからこそ平穏なのさ。何事も起きないのではなく起さない事が大切だと私は感じた。だからこそ、この格好を用意し。旅の心得だって、きちんと聞いてきたではないか」


 灰色のローブを頭から被った姿は旅の商人から買ったもの。使い古された感じがいかにも旅慣れた者だと言っているみたいだ。その周到さをもっと別な事に使えばいいのに。なんて、つい思ってしまう。


「ふんっ! ただ一緒にお酒飲んできただけじゃないですか」

「いやいや。彼らにだって相応の謝礼は払っているのだからいいであろう」


 確かにファルトは、食事代をおごっていた。面白くないのは、その席で自分が妻として扱われていた事だ。それも、半年以上前の話である。王子の顔を知らない旅の商人は、すっかり騙されて色々な事を教えてくれた。自分も、容姿が山賊好みだから気をつけろと言われていて、ワザと土で顔を汚している。目深(まぶか)に被ったローブの下にもふくらみを持たせるためにパニエを仕込み太目の女性を演出している。正直ファルトの才能をそれなりに知っているので不要な気もしたが。

 言われるまま指示に従っていたらこうなっていた。


「それに、夢だったのさ。メイリーが生まれた国を見るのがさ」

「国ではなく、小さな農村ですけどね」

「そんな事はないさ。メイリーが知っている頃よりもだいぶ人も増えているそうだしな」

「ふ~~ん。これはまた随分とお詳しいことで」


 明らかに、だいぶ前からこう成る事を想定して下準備していたに違いなかった。


「あははは。まぁ、そう言うな。問題は山済みだが予定以上の金も入ったことだ。本格的に潅漑事業(かんがいじぎょう)を始めようと思う。近くに良い川が在るのと、イルフィール湖とは比べ物にならないほど大きな湖も在るからな。きちんと街道を整備すればそれなりの時間で行き来できるようになるはずだ」


 全くな話である。どうやらファルトは逃げると言っておきながら、自分の生まれ故郷を国にする気なのだ。今の話だって、漁をして得た魚を売って儲けるという魂胆が見え見えだった。


「ですが、深緑の森はどうするのですか? まさか焼き払うなんておっしゃりませんよね?」

「まさか! あれほどの防衛線を自ら捨てるなんて愚行もいいところじゃないか! あはははは!」


 この世界に置いて、もっとも恐れなければならない禁忌。魔物の巣窟。それが深緑の森と呼ばれる広大な森だった。それを、あっさり盾として使うと言っているのだから呆れ果ててしまう。

 実際、近くに魔物の住まう森が在るという理由からリュタリアは戦乱を免れている。

 下手に大きな軍勢を動かして魔物を刺激でもしたら愚の骨頂だからだ。

 しかし、リュタリアの民は知っていた。彼らの領域まで踏み入らなければ決して危険はないと。彼らは不用意な殺戮をしないと。それは、ファールドライドの山で見かけた狼や熊と同じこと。

 彼らに習って住み分けをすれば、なんら問題ないのである。


 そして1週間後――


 なんの問題も起こらずに、予定より2日遅れでファルト達はリュタリアの地へ到着していた。

 正確には、山賊のいるルートを察知して交わしたり、時間をずらして行動していたからである。

 途中何度か旅の者にあったが馬と馬車は立派なのに身形(みなり)が貧しい二人を見ては不用意に訳有り者には関わらないというルールに従って会釈をする程度で事無く終えていた。

 そもそも、元ファールドライド最強の炎術師。炎の魔女を従えているのだから山賊なんて真っ向勝負でもいいのに……である。大きな力に頼る者は、いずれその大きな力に食われる。だからファルトは、アルメイリアの力を使わずにこの旅を終える覚悟で挑んでいたのだ。全く髭をそらずに伸ばしたままのファルトをアルメイリアが見上げれば汚れた顔の奥で期待に満ち溢れた金色の目がきらきらと輝いていた。

 アルメイリアが帰郷した事は直ぐに領主へ知らされ。二人も挨拶がてら領主の下へ向かった。

 汚れたままでは申し訳ないからと風呂を借りて身支度を整える。

 そして、身奇麗に成った二人を見て領主達は息を飲んだ。

 アルメイリアは、すっかり大人の女性へと変わり赤を主体とした宮廷魔術師としての正装に身を包み。ファルトも王子としての格好で登場したからだ。ウエーブの掛かった短めのプラチナブロンド。日に焼けた肌は雄々しく。農作業で鍛え上げた身体つきは勇ましく、背も高い。先程伝令してくれた者の話とは段違いどころか全くの別人である。しかも、王族としての正装。普通ならこのような村では一生お目にかかれないモノである。白をベースにした青い装飾と金糸で国鳥の鷹を描いている。

 それは、風を操る術者が纏うことになっている衣装。この時点で怯むなと言っても無理な状況だった。

 そして、ファルトは自分達は勢力争いに負けて逃げてきたのだと伝えるだけでなく、この村の問題点を指摘し。金は有るから、自分達に任せて欲しいと願ったのだ。

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