15.生徒会長×メガネ=真面目

未だ梅雨だというのになぜか雨が降らない7月に入った。

そしてそれと同時にクラスマッチが開幕する。


「…それでは、各人ケガや熱中症には気を付けて正々堂々とスポーツマンシップに則って頑張ってください。最後に生徒会長から一言お願いします」

現在は開会式の最中だ。生徒会の誰かが前方で司会としてまわしている。


「あ、あ~…。こほん…、生徒会長の緑川俊介みどりかわしゅんすけだ。茶園ちゃぞの副会長が言った通り、体調には気を付けてほしい。例年通り各競技、優勝賞品として購買、学食で使える商品券が用意されているので是非頑張ってほしい」

現生徒会長の緑川先輩は眼鏡をかけた真面目そうなタイプのイケメンだ。めっちゃ頭よさそう。

というか浅野といい祐人といい、うちの高校はイケメンが多くないだろうか。

乙女ゲーの世界だったか。


特に何事もなく開会式は終了するかのように思われたが会長は一呼吸おき、

「だが、サッカーに出場する男子諸君よ。申し訳ないが優勝は我が3年F組がいただかせてもらう!ぜひ足掻いてみたまえ!それでは、これにてクラスマッチの開幕とする!」

真面目そうな雰囲気とは一転、宣戦布告ともとれるというかそうとしか思えない一言を全員に投下した。


1年生はほとんどがポカンと絶句しているが、上級生は笑いながら「ふざけんな~」「調子乗んな~」といった野次が飛んでいる。

おそらくこういう人だったのだろう。

よく見ると、サッカー部の人だけは1年生でもそんなに驚いていないようだった。

こういう1面があるから生徒会長として人望が築かれているのだろう。


「すげえな、あの生徒会長。クールそうな顔してめちゃめちゃ盛り上げるじゃん」

「な。まあ勝つのは俺たちなんだけどねん」


加藤もオレと同意見のようだ。

福島はいつも通り軽い調子だ。

1ヶ月にも満たない練習にも関わらず、勝利を確信しているようだ。


確かに隣のクラスとの練習試合では一回も負けていないが、隣はサッカー部がいないのだし油断するには早計ではないだろうか。


「それじゃあ僕たちのキックオフは10時からで前の試合のハーフタイムでコートを使ったアップができるからそれまでは軽く動けるようにしといてくれれば自由に過ごしていいから」

祐人がチームメイトにそう声をかけ、第1試合から観戦したり、友達と教室に戻ったり、同じクラスの他競技の応援に行ったりと各々が行動を取り始める。


クラスマッチは各学年8クラス、24チームが出ていて、1グループ4チームの6グループ存在し、各グループ1位のみが決勝トーナメントに上がるという形式だ。

今日は予選を全試合消化するため、各チーム3試合の過密日程だ。


「黒田君はどうするんだい?」

そうオレに問いかけてきたのは浅野だった。

一緒に練習するようになって、浅野とは話す機会が格段に増えた。

なんならたまに昼食も一緒に摂ることもある(祐人を介してだが)くらいだ。


「そうだな。明日当たるかもしれないチームは見ておきたいから、今日はずっと観戦するつもりだ」


どのチームが強いのか、そして順当に行けば明日の決勝トーナメント1回戦で当たる予定の2年生チームの偵察は確実にしておきたい。


祐人に嫌がらせをしているという先輩のチームだ。

相手チームの戦術こそ想像がつくが、個人の実力までは分からないからな。


「流石だね。の本領発揮ってところかな?」

「軍師と呼ぶのはやめてくれ」

浅野の一言を即座に否定する。

もう終わった話だし、単純に恥ずかしいのだ。

厨二病みたいじゃないか。


「ごめんごめん。でも本当に楽しみなんだ、あの黒田真と同じコートに立てることがさ」

浅野は嫌な顔ひとつせずに非を認める。

なんならこれからの試合が楽しみで気にもしていないようだ。


「あんまり期待しすぎないでくれよ。しかもオレは1試合目は出ないし、今日は手を抜くつもりだ」


明日のためにも手の内は少しでも隠しておきたい。

サッカー部で実力がわれている祐人や浅野は今更だが、サッカー経験者がもう1人いるとわかれば警戒されてしまう。


蒼井からの案件の成功率を少しでも上げておくためにも手は尽くしたい。


それに、2日間も頑張るのは正直しんどい。


オレは1日休めて明日の勝率も上がる。

ウィンウィンと言うやつじゃないだろうか。


「そうだったね。それじゃ、明日のためにも今日は頑張らせてもらうよ」

浅野はそう言って他のクラスメイトのところに行った。

人気者というものも大変だな。


会話に交ざっている浅野たちを後目に、オレは試合観戦に集中することにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お疲れ、さすがに大活躍だったな」

「あはは、ありがと。まぁ相手はサッカー部がいないし、文化部が多かったしね」


1試合目、祐人や浅野を中心として得点を重ね、7-0という相手が可哀想なくらいの結果となった。


ひとりで4得点を上げた祐人は慢心もせずに謙虚だ。


ちなみにオレはこの試合には出ていない。ベンチに座りつつ同時に行われた試合を観ていた。特に脅威じゃなかったため途中からやめたが。


「今日はあと2試合あるんだ。しっかり休んでくれよ」

「真もあんまり気を張りすぎないでね。元々は僕の問題なんだから」


試合後で疲れてるにも関わらず、祐人はオレの労いもしてくれる。

これが人間力の差だろうか。


心配してくれてるように、祐人は蒼井がオレに依頼したことを知っている。

というか案件を成功させるためには祐人の協力は必須だと言える。

同じくサッカー部で問題を認知している浅野も同様だ。

チームの中心ともいえるこの2人の協力が得られたからオレはこんな風に試合の出場を操作できているわけだ。


「いや、オレとしても親友がそういう状況に置かれているのは腹が立つからな。祐人がその気じゃなくても叩きのめさせてもらう」


そう、親友が嫌がらせにあっているというのだ。

怒りの感情が全くないわけないだろう。

祐人や蒼井のためというのもあるが正直半分くらいはオレのためともいえる。


「…ありがとね」

「そういうことは勝ってから言ってくれ」


結局は勝ってこそのことだ。

今のところは何もしていないのと同義である。


「とりあえず残り2試合は負担をかけるから、頼むぞ」


オレは祐人にそう言い、トイレに行くと付け加えて場を離れることとした。




この日、チームは無事に3勝し、明日の決勝トーナメントに出場することが確定した。

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