14.彼女持ちだろうとモテるやつはモテる

あくる日のLHR。

来たるクラスマッチに向けて各人の出場競技を決める時間がとられている。


「はいそれじゃあ、男子は窓側、女子は廊下側に集まってそれぞれ出る競技を決めてくれ〜。終わったらそのまま解散な〜」


担任の橙堂信二とうどうしんじ先生がいつものごとく気怠げに生徒たちに呼びかける。


この橙堂教諭は古典の教師だが、何故かいつも白衣を着ている。

本人曰く服装にこだわったり考えたりするのが面倒だかららしい。

そのポリシーは見習いたいが、授業中の違和感は慣れるまで凄まじいものだった。

しかしながら授業はわかりやすく面白いため生徒人気は低くない。

にも関わらず35歳にして独身なのはズボラな性格が故にということだろうか。

今度さりげなく聞いてみようか。


そんなこんなでクラスマッチの競技決めが行われることになった。


「それじゃあまずは、サッカーに出たい人は僕のところにバレーボールに出たい人は……」

「俺のもとに来てくれ」

取り仕切る祐人に続いて口を開いたのはバレー部の男子だった。

バレー部だけあって背も高く肩周りが鍛えられているのがわかる。


他の男子たちは指示に従って各々好きな方に集まっていた。

クラスの男子は18人。

サッカーはクラスマッチ仕様で8人制、バレーは普通に6人ということで控え要員も存在する形だ。

サッカー10、バレー8かサッカー11、バレー7になれば良いという感じだ。


オレはサッカーに出る予定なので祐人の近くに行った。

全員が別れたところで

「それじゃあサッカーはこの10人、バレーボールがそっちの8人ということでいいかな?」

「異論な〜し」

「絶対優勝しよーぜ!」

祐人の確認に対してなのか、ただテンションが高いのか、各々が口を開く。


とにもかくにもチーム分けはスムーズに決まり、オレがサッカーのチームに入るという第1の関門は呆気なく突破できたということだった。


「黒田は経験者なんだってな。頼りにしてるぜ」

ちょうど隣に立っていたクラスメイトの加藤清隆かとうきよたかに声をかけられる。

「一応、な。ただ祐人ほどは上手くないしあんまり期待はしないでくれ」

オレは謙遜という事実をもって無難に返答した。


「加藤は陸上部だったよな?」


「あぁ、だから球技はそんなに得意じゃないんだよな」


「本番まで1ヶ月近くあるし大多数は素人だ。そんなに気にすることじゃないだろ」


「そっ、それに赤城と浅野もいるわけだしそんなに難しく考えんなって」


オレの励ましに同調するように言ったのは野球部の福島将也ふくしままさや

口調からもわかるようにノリが軽めなヤツだ。


2人とも外で活動する運動部繋がりで祐人を介してだが会話程度はする仲ではある。


まぁ祐人無しだと関わりはほとんど無いのだが。

しかし、これから練習をしていく上で知り合いがいるというのはやりやすい。

サッカーというチームスポーツにおいては味方の特徴を把握しておくに越したことはない。


え?人付き合いは面倒じゃないのかって?

人付き合いは嫌いじゃないし、なんなら友達が少ないヤツの方が面倒事を押し付けられるだろ。

必要な処世術というやつだ。


そして、今福島が話題に出した浅野というのがもう1人のサッカー部だ。


「おいおぃ、そんなに頼らないでくれよ?そりゃぁ俺も頑張るけど、みんなで勝ってこそだろ?」


浅野秀俊あさのひでとし。祐人と同じサッカー部だが、オレはまだほとんど関わりは無い。

というか浅野は友達が多く、常にいろんな人と一緒にいるため関わる機会がほとんど無かったのだ。

顔もイケメンで分かりやすくモテるタイプだ。


「黒田君もよろしくな、頼りにしてるぜ?」

そう言って爽やかに手を差し出される。

イケメンは言動もイケメンというやつか。


「それじゃあ明日の体育からはバレー組は体育館、サッカー組はグラウンドで練習って形でよろしくね」

オレが浅野と握手をしていると、祐人が男子全体に向けて締めの言葉をかけ、解散となった。


────────────────────

「黒田くんはサッカーに出られるんですね」


放課後、当然のように白石がオレの家に来ていた。

まだ4回目とかなのにも関わらず、リラックスできているようだ。


変に緊張されても困るし構わないのだが、仮にも女子が一人暮らしの男の家に行くのに抵抗がないのはどうなのだろうかと感じてしまう。


同じマンションでマンション内の出来事なため学校の他の人に見られることは無いからオレとしては面倒事にはならないのでいいのだが。

いつか変な男に騙されないかだけが心配である。


まぁ白石は賢いからそうならない確率が高いが。


そんなことを考えつつ質問に答える。


「ああ。そっちはバスケだったか?」


女子はバスケ、テニスといった競技が候補に上がっている。

テニスは個人戦だと時間が足りないので団体戦の形で3ゲーム先取といった短縮された形となっている。

バスケも前後半が短めに設定されてるようだ。


「はい。そういえば同じチームに蒼井さんがいるのですが、黒田くんは仲が良かったですよね?」


そう、蒼井も同じくバスケを選んでいた。

蒼井は白石のことを好ましく思ってなさそう(というか関わりがほとんどない)だから違う競技を選ぶと思っていたんだが。今度蒼井に聞いてみるか。


「まぁ中学からの付き合いだしな」


「それでしたら蒼井さんについて教えてくださいませんか?せっかく同じチームなのにあまり関わりがないのでどう接すれば良いのか困ってまして」


今回の用件はこれか。

白石のいい所は用もないのにうちに来るということをしないことだ。

オレが元気な時なら構わないが疲れてる時に用もなく来られるのは普通に迷惑なのだ。


「蒼井は普通にいいやつだぞ。多少口調は荒いかもしれないが人の陰口などは言わないし、義理堅い。ノリもいいから素のままで接して大丈夫だろ」


自分で言うのもあれだが、こんなオレにでも友人として接してくれるのだ。

蒼井という人間は普通に懐が深い。

親友の彼女としてなんの文句もない、自慢の友人と言える。

まぁ本人には言わないが。


「そうですか。それなら安心です。そういえば聞こえてきたのですが黒田くんはサッカー経験者なのですね」


「まぁ…な。だが、祐人や浅野みたいに上手ってわけではないからな。引退しているわけだし、加えてブランクもあるんだ。初心者に毛が生えた程度に思ってくれ」


「浅野くんはわかりませんが、赤城くんは相当上手だそうですね。1年生にして唯一レギュラーだとか騒がれてました」

蒼井という彼女がいるにもかかわらずやはり女子人気が高いため祐人の情報は出回るのだろう。


「それで、白石は何か部活とかやっていたのか?」


「いえ、部活には入ってませんでした。塾などが忙しかったので…」

オレの質問に少し言いよどみつつ答える。

もしかしたらあんまり詮索しない方がいいのかもしれないな。


話を変えるか。

「そうか。ところで、一昨日の模試はどうだった?祐人や蒼井はひどいできだったようだが」


「そうですね。正直わたしもできは良くなかったです。ですが、偏差値でいえば60付近くらいはあるかと思います」

駿〇模試の偏差値60なら非常に好成績といえるのではないだろうか。

うちの高校レベルなら、例年なら1位も目指せるレベル帯といえる。

まあ今年はいいとこ3位くらいだろうが。


「そのレベルなら問題ないだろ。大学も選べるんじゃないか?」


「そうですかね。それでも得点率が高くないことには変わりないので復習が大切です。ということで黒田くん、まずは国語から教えてください」

そういいながら白石は模試の問題冊子を取り出す。

今日は何の用で来たのかと思えば…。

どうやら模試の話をオレから引き出させるのが目的だったようだ。

自然な流れで教えを請うことに成功している。


これ以上話の転換先もなく、ここで断っても気まずいだけ。

新たに話題を考えるよりも勉強を教える方が楽だ。


「まずこの問題だが…」

オレは仕方なしに復習を手伝うことにした。



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