13.待ち合わせの定番は喫茶店

模試の翌日の日曜日。

進学校を自称している我が高校では土曜日が模試で消費されたとしても月曜日は普通に授業が行われる。

6月ということもあり祝日は存在しない。そのため、単純に休日が他の月よりも少ない。

つまりは貴重な休日であるということだ。


そんな貴重な休日。

当然昼まで惰眠を貪り、家からは1歩も出ることなく一日を謳歌する。

そんな非の打ち所のない完璧なプランを立てたオレはそれを遂行すべく雨音をバックミュージックに布団に潜っていた。


否、潜っている予定だった。


しかし、何を間違ったのか今は喫茶店でコーヒーを飲んでいる。

バックミュージックはジャズっぽいオシャレな曲だ。


「で?急に呼び出して何の用だ」

オレは不機嫌さを隠そうともせず目の前に座る相手に問いかけた。


「悪かったわね、こんな雨の中来てもらって。でも、あんたの力が必要なのよ」


オレを呼び立てたのは蒼井だった。

祐人を介せずに会うことはあまりないが、祐人の誕生日プレゼントの相談などで何回か呼び出しをくらっているため驚くほどではない。

雨じゃなかったら悪びれもないのかと思うが、オレと蒼井の関係などそんなものである。


「言っておくが、祐人の誕生日もクリスマスももっと先のことだぞ」


「分かってるわよそんなこと」


そう、祐人の誕生日もクリスマスも半年以上先のことだ。

つまり、今回に関しては呼ばれた理由がわからん。

それを言外に伝えるためにテキトーなことを言ってみたが、素っ気ない返事が返ってくる。


一口カフェオレを飲んで蒼井は口を開く。

「率直に言うと、来月のクラスマッチでサッカーに出て祐人に力を貸してほしいの」


わが校ではクラスマッチという球技大会が毎年7月と3月に行われる。

7月の方は男子はサッカーかバレーボール、女子はバスケットボールかテニスと外競技が行われるようになっているらしい。3月の方は三年生がいないこともあり、室内競技やクイズといった文科系競技も行われる。球技大会ではなくクラスマッチという名前なのはその辺が理由だそうだ。

ちなみに原則全員参加だ。


「どうせ何かに出なきゃいけないし、サッカーに出るのは構わないが力を貸すって言うのはどういうことだ?」

祐人は1年生にしてサッカー部のレギュラーだ。正直同学年なら敵無しだろうし、オレが手を貸すとかないと思うんだが。

足を引っ張るならまだしも。


「実は、最近祐人部活内で先輩から嫌がらせを受けてるっぽいの。それで他の1年生達も直訴してくれて、最終的にクラスマッチでその先輩のクラスに勝てばやめてくれるって話で落ち着いたらしいわ。1、2年生の部員みんなの前で行われた話らしいから恐らく真実よ。ただ…」

「その先輩がめちゃくちゃ上手いのか?」

それならその約束も納得だが。


「いや、その先輩は祐人が入ってからレギュラー外されたそうよ。だけどクラスメイトにサッカー部がその先輩含めて4人もいるのよ。うちのクラスは祐人ともう1人しかいないでしょ?このままじゃ数の差で勝てないわ」

なるほどな。

嫌がらせはレギュラーを奪われた腹いせというやつだろう。

他の傍観してる2年達は同じ学年で1年間やってきた仲間の気持ちも分からなくはないとか同情とかで止められないのだろうな。


というか、うちはサッカー部が強いわけではないため部員もそんなに多くない。にもかかわらず4人もいるのは固まりすぎじゃないか?


そうなってくるとただ協力するだけじゃ難しいな。


「わかった。その頼み引き受ける。だが、一つだけ条件がある」

そう言ってオレはその条件を蒼井に話す。


蒼井は少し考えたあと、

「分かったわ。そうじゃないと練習もできないものね」

と、しぶしぶよりの感じだが承諾の返事をくれた。


かくいうオレも大抵のことなら「めんどうだ、自分で解決してくれ」と断るんだが、親友のためなら仕方がない。

ひと肌脱ごうじゃないか。


そうして蒼井と解散した後、オレは残りのコーヒーを飲み干しながら作戦を考えた。


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