12.残酷模試

キーンコーンカーンコーン

「はい、それじゃあ自己採点が終わったものから帰っていいぞ〜」


担任の解放の声によりクラスに活気が生じた。

模試の出来を話す者やこの後や明日の予定について話す者など様々な声が多方向から聞こえてくる。


梅雨に入りジメジメしてきた翌週末。

紫条と勝負することになった模試が終わった。


下校時刻まで自己採点を進め、終わらなかった者は終わるまで居残りというものだ。


オレは速やかに終わったため席を立とうとする。

「お疲れ、真。やっぱ駿○全国模試は難しいね」

「どうしよう祐人…全然出来なかったんだけど…」

祐人と蒼井も例に漏れず模試の結果について話してくる。

この2人も出来は芳しくないようだ。

「まぁこの模試ばかりは仕方ないさ。巷では駿○残酷模試とか言われてるわけだし」


「でも真は出来たんだよね?」

「そうなの!?この裏切り者〜!」

蒼井よ。別に出来ない協定を結んだわけじゃないだろう。


「まぁそこそこだな」

祐人の質問にオレは正直に答える。


こいつらにはオレの学力はバレてるし別にそれを理由に面倒事を持ち込んでは来ない(テスト期間は別として)。

ここで嘘をつく理由もない。


オレの返答に対し祐人は少しだけ意外そうな顔をした。

「今回は真面目に解いたんだね。てっきり…」

続きを話そうとする祐人を目で制す。

「ごめん、ついうっかり」

そして意図をくみ取って即謝罪。

さすが親友だ。教室で離さないで欲しいというオレの考えをすぐ理解してくれる。


「悪い、この後少し用事があるんだ。続きはまた今度話そう」

オレはそう言って席を立つ。


「用事?黒田が?」

蒼井が意外そうに言う。

口には出さないが祐人も表情では同じ感じだ。


オレに用事があるのがそんなに珍しいか。

まぁ、用事=めんどくさいから断る のオレに用事があるとは思わないのも不思議ではないのか。

普通に失礼だが。


「たまにはそういうこともあるんだよ。じゃあな」

オレは少し強引に話を切り上げ教室を出た。


少しだけ歩くスピードを上げて地学室に向かう。

待ち人をあまり長く待たせるのも気が引けるというものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガラッ


「悪い、待たせたか?」

地学室の扉を開けると既に1人の生徒が座っていた。


「いえ、私も今来たところよ」

紫条英梨だ。


結果が出るまで待っても良かったのだがあちらから今日、自己採点で比較すると言われたためこうして落ち合った。


「それじゃあ早速だが、合計点で比較ということでいいか?」

「もちろん、それじゃあせぇので言いましょう。せぇの…」

「580点」「540点よ」

2つの声が重なった。

それにしても540/600かあの模試で9割も取れるのは普通にすごくないか。

それを口に出したら嫌味だが。


「私の負けね」

オレの結果を聞いた紫条がエラくすんなりと負けを認めた。

「潔いな。自分で言うのもアレだが、この得点が嘘だとは思わないのか?」

「そんなの後でバレるのだから嘘をつく理由がないでしょう。それに、あなたの実力ならそれくらい取ってもおかしくない。さらに言えば記述ということを考慮して低めに見積もってるでしょう?」

紫条は自身の見解を述べる。

ちなみに低めに見積ってるのも合っている。

国語や英語の論述は部分的に引かれていてもおかしくないからな。

流石だ。


「それじゃあ、オレの勝ちということで、「友達」になってくれるということでいいな?」

字面だけ見るとコミュニケーションが苦手で友達がいないやつのように聞こえるが、条件はそうだったはず。

「ええ、これからよろしくね」

紫条も嫌な顔ひとつせず笑顔で了承する。


「そこでなんだが、ひとつ友達として頼まれてくれないか?」

「いいわよ。と言いたいところだけどあまりにもなものは無理よ」

「大丈夫だ。ひとつ頼まれごとを引き受けて欲しくてな」

「頼み?」

「あぁ、実は…」

オレは頼み事を紫条に話す。


「──ええ、わかったわ。その時はやってみるわね」

「ありがとう。お礼にと言っちゃなんだが、今度お前の父親に挨拶するというのはどうだろうか」

「それは報酬?それとも「友達」として?」

「もちろん後者だ」

「それなら是非。「友達」として家に招待するわ」

「あぁ、よろしく頼む」

オレが了承すると、紫条も満足気に微笑んだ。


その後、オレたちは連絡先を交換しあって解散とした。


今回の勝負は模試としてはオレの勝ちだし紫条と知り合えてさらに得をしたと言える。


だが、真の勝者は紫条だろう。

紫条英梨は恐らく、「友達」が欲しかった。

それも対等で、下心のない、さらに言えば親に紹介できるレベルの「友達」だ。


仕事を頼んで報酬を渡すのは「友達」とは言えない。言わばビジネスパートナーだ。仕事上の関係を友達と言うやつはあまりいないだろう。

だが、友達の頼みを聞いて、手伝い、それに対するお礼が生じるのは友達同士でもよくある話だ。


しかも、家柄や賢さなどからほとんどの場合紫条が上で他のやつが下という上下関係ができてしまうことは往々にしてあると思われる。

しかし、初対面の時に脅すなどしてオレを動かしても良かったのにそうしなかったことでオレから立場が上の人という認識を振り払った。

人を恐怖で動かすことも立派な人心掌握だ。3流ということは無い。にもかかわらず紫条はそう言ってオレを脅さなかった。

切れ者の紫条が言うには少し不自然だったのだ。


そして今回オレが勝つことによって、スペックや家柄こそ劣るが、こと勉強においては優れているという状況が出来上がった。

言わば勝っているところもあるし負けているところもある、対等に見えなくもない状況だ。

この時、紫条にも立場があるためあちらも全力を尽くす必要がある。

紫条自身も学力においては他より抜きんでているためこの条件を作り出すのは難しいのだろう。

だが、全力の紫条英梨よりも学力的に優れている人はほとんど居ないため父親に紹介するに値する者である証明にもなる。


下心については、勝った時の「友達」になるの部分を下心のあるように変えたり、「友達」を利用して下心が見えることをすれば即不合格だったに違いない。

極端な話「勝ったらデートに行く」とか、「金銭をせびる」とかだ。


紫条英梨は社長令嬢で美少女。男だろうと女だろうと下心のあるやつが多くお近づきになろうとしたことだろう。

下心のあるやつの表情、態度などはお見通しというわけだ。


こうしてオレは紫条英梨のお眼鏡にかなったというわけだ。


紫条は恵まれた容姿、家柄、知能を携えているわけだが、こうまでしないと「友達」を作ることが出来ないのは正直同情してしまうな。


まぁこうして1イベントが終わりオレも新しく友人が出来たということで一件落着と言っていいのではないだろうか。


とりあえず明日は何もせずにゆっくりしよう。

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