8. テストの日は早く帰れがち
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「黒田って白石さんと仲良いの?」
唐突な質問にオレは一瞬動揺した。
いや、今も動揺している。
だがそれを態度に出してはいけないので平静を装って考える時間を稼ぐためにありきたりな返事をすることにした。
「どうしてそう思った?」
「だってさ?先週なんか昼休みに2人でどっか行ってたじゃん?」
「確かに、今まで接点ないと思ってたけどあれは驚いたね」
「別に仲良くなくても業務連絡とかでそういうこともあるだろ」
苦しいか?
だが、ここで何も言わないとこいつら、特に蒼井は勝手にご都合解釈するだろう。
女子のそういうネットワークは怖いからな。
気づいたら学校中に勘違いが広まってしまうこともある。
そうなったら学校での面倒事が増えてしまう可能性が高い。
というか確実に増える。
オレは平穏に過ごしたいのだ。
それだけは阻止しなければならない。
案の定オレの言い訳は弱かったようで、蒼井は言葉を続ける。
「でも今日だって、昼休みや放課後にこっちの方見てたよ?」
「それはオレじゃなくてお前らを見てたのかもしれないだろ。裕人はイケメンだからな」
「ちょ、やめてよ」
「裕人がイケメンなのは当たり前じゃない。でもあの子からそういう嫉妬のような視線は感じなかったわ」
なるほど、そういったしがらみに慣れているだけあるな。
自信をもって否定している。
だがここで引き下がるわけにはいかない。
「じゃああれだ。オレじゃなくてお前と仲良くなりたかったんじゃないか?同じ女子だしな。それに、白石がどう思ってるかなんて本人にしか分からないことだ。オレたちであれこれ言っても仕方ないだろう」
「真の言う通りだね。白石さんがどう考えているかなんて僕たちが決めることじゃないよ」
「裕人がそう言うなら…」
裕人の援護もあったおかげで、蒼井は何か言いたげではあったが渋々引き下がってくれた。
だがそのまま互いを熱い眼差しで見つめ合うのはやめて欲しい。
イチャつくなら帰ってくれないか?
オレの念は通じないようなので、オレはわざと咳払いする。
「とにかく、この話はここでおしまいだ。白石にも失礼だしな」
そう言ってオレは話を締めくくる。
納得こそいってないだろうが、これ以上言い合っても話は進まない。
それに、蒼井は確証のないことを言いふらすやつではないのでグレーゾーンでも時間さえ稼げればこちらのものというものだ。
そういった考えから多少強引だとしても話を終わらせるのを優先した。
その後は何事もなく勉強会は進み、無事に終えることが出来た。
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一週間と二日が経過し、中間テストも最後の科目を終えた。
我々の高校では、1年生の中間テストは現代文、古典、コミュニケーション英語、英語表現、数学I、数学A、現代社会、生物基礎、物理基礎の9科目行われる。
1日3科目の3日間という日程だ。
これが期末テストだと追加で保健、情報、家庭科が行われ、12科目となる。
順位や得点が貼り出されることは無いということだが、下手に高い得点を取ると授業中の指名が増えるなどの面倒くさいことが起こるかもしれない。
そのため、今回は全科目80点くらいを取る事にした。
来年とかだったらこの点数も充分高いのだが、今回は初回ということもあり平均点もそれなりには高いと考えこのくらいにした。
恐らく学年30〜50位くらいとそれなりに良い成績と言えるだろう。
これなら万が一漏れても、少し頭の良い陰キャという見え方で収まる。
我ながら素晴らしいアイデアだ。
周りの生徒もテストが終わった解放感で心なしかみんな嬉しそうに感じる。
高校生初のテストだからなおさらだろう。
友人同士で答え合わせしている者や、部活動が再開することを喜んでいる者もいる。
やれ、「数学の最終問題が意味不明だった」など
「あれ出来るやつ学年にいないだろ」など
テスト後のあるあるな話がチラホラ聞こえてくる。
人により程度の差はあれどほとんどの生徒がプラスの感情を持っている。
全てではなくほとんどなのは、オレとしてはテストの方が早く帰れるため明日からまた夕方まであるというのがしんどいだけだ。
オレ以外にも同じ考えのやつは一定数存在するだろう。
とりあえず今月最後の午前帰宅を満喫することにして、オレは家路につこうと席を立った。
裕人と蒼井は今日から部活動が再開ということで部室の方に向かっていったため、誰に挨拶するでもなくそのまま家に向かった。
マンションについてエントランスを通り抜け、エレベーターのボタンを押し、降りてくるのを待つ。
ブーブブッ
ポケットでスマホが通知を知らせるバイブレーションをした。
L○NEだ。
オレにL○NEを送ってくるやつなんて限られている。
そして、その限られたやつらは部活中で送ってくるわけがない。
普段なら家に着いてから確認するというものだ。
が、流石に気になる。
スマホを開いて差出人と中身を確認する。
美優『本日家に伺っても大丈夫でしょうか』
黒田真『嫌です』
オレは考えると同時に送信していた。
これでよし。
貴重な半休、オレは自堕落に過ごすんだ。
オレの部屋があるフロアに到着し、エレベーターから降りる。
部屋の方に視線を向けると、見知った顔がいた。
あちらもオレのことを認識した様で、笑顔を浮かべてくる。
スマホを握りしめながら。
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