4. 白石美優との出会い 結

すいません。長いです。

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そしてやってきた昼休み


授業があり、休み時間もそんなに長くなく、かつオレとそこまで仲良くないということで視線こそ感じたがクラスメイトからの追求はなかった。


昼休みが終わったあとに追求されるかも知れないが。

祐人達にしてもまるで見透かしているような顔をしてくるだけで直接聞いてくることはなかったが、勘違いを生んでいる可能性があるので後で話し合いが必要だ。


平穏に過ごしたいオレにとって行かないという選択肢はないため地学室に向かう。


もしも見物人がいた時にオレのせいではないことを証明するためにも早めにかつ尾行されないように注意を払って移動した。


案の定地学室に着くと、誰もいなかったため、適当な椅子に座って待っておく。


一応持ってきた昼食のパンを食べておこうか迷ったが、話し合いをしたいあちら側としてはオレが食事中だったら気を使わせてしまうかもしれない。


そのため、手持ち無沙汰に待つことにした。


そして、そんなに時間が経たないうちに白石はやってきた。


「お待たせしました」

手に保冷バッグのようなものを持って、少し申し訳なさそうにしながら入ってきた。


「オレも今来たところだから気にしないでくれ」

オレは当たり障りない回答で返す。


「それなら良かったです。それでは話を始めましょう」

白石はそう言いながらオレの前の席に座り、こちら側に椅子ごと反転させた。


近い…


机ひとつを挟んだ距離に顔があるため白石の整った顔立ちがオレの視界いっぱいに映る。

加えて、女子特有なのか白石だからなのか分からないが、フローラルな甘い香りが鼻腔をくすぐる。


正直オレは戸惑っていた。

そんなオレに気づいたのか白石はキョトンとしたような不思議そうな顔をしていた。


指摘してもいいが、話が長引くだけであちら側は気にしていないようなのでオレもいちいち口に出すのはやめた。


代わりに、

「ところで、お前以外に誰かこの教室には来ていないのか?着いてくるやつの1人や2人くらいいそうなもんだが」

と、素直な疑問を口にした。


白石ほどの美少女だ。

オレなんかと2人で何を話すのか気になるヤツは少なくないだろう。


それに男女で人目のつかない教室で2人きりときた。

心配な気持ちが湧いてきても仕方ない。


だが、今回は他に人がいてもらったらオレは困る。

もしも誰かがいるのならば話し合いはそこで終わりだ。


「それは大丈夫です。最初は心配で着いて来てくださろうとした方がいましたが、丁重にお断りさせて頂きました。もしも誰かいたらあなたは話して下さらないですよね」

白石はそう答えた。


どうやらオレの考えは想定済みだったようだ。


昨日から思ったが、こいつ頭良くね?


あんな単純な罠に引っかかるとは思えないのだが。

恐らく根が真面目で純粋なやつなんだろう。


とにかく、話し合いの第一関門は開けられたわけだ。


「そうか。それなら良かった。で、話ってなんだ?オレから話せることなんてないぞ」


オレは呼び出された側として当たり前の振る舞いをする。

まだ全てを理解したとは限らない。

解決した原因を一つ一つ潰している段階であることも充分に考えられる。


冷静になってきたオレの思考だが、一瞬でそれも覆される。


「ありがとうございました。あなたのおかげで無事に解決することができました」

白石は頭を下げてオレにお礼を言った。

美少女が急に頭を下げてきたため、オレはどうすればいいか分からなかった。


そのため、とりあえず誤魔化すことにした。


「なんの事だ?オレは何もしていないぞ」


そう言ってオレは冷静さを保とうとするが、二の句は出てこなかった。


白石がスマホを取り出し、オレに1つの画像を見せてきたのだ。


それは、スーパーでオレが撮った女子生徒が商品を白石のカバンに入れているところだった。


「これ、あなたが撮影したものですよね」

白石はオレの目を捉えて放さずに言う。


あの時あのアングルでこれを撮れたのはオレしかいない。


白石もそれを理解しているからこそオレに礼を言っているのだろう。


「あぁ…そうだ」

オレは否定する材料もないので素直に肯定する。


「ですが、不思議です。それならばなぜ昨日の時点でこの証拠を教えてくださらなかったんですか?犯行現場でこれを撮ったのなら昨日私に見せてくださっても良かったはずです」

白石は疑問を口にする。


これ以上の誤魔化しは通用しないだろう。

それに、オレに辿り着いたご褒美も兼ねて、さらにはオレの願望に応えてくれると信じて正直に話すことにした。


「正直まずは驚いた。その写真はどうやって手に入れたんだ?」


「今朝、長谷部さんが私に謝って来た時に自分がやった証拠としてこれを私と先生に見せてくださりました。その時に長谷部さんからいただきました」

白石は包み隠さずありのまま起こったことを言った。


確かに長谷部にはオレが撮ったことを言うなとしか伝えていない。

まさか写真からバレるとは。


「なるほど。それじゃあ疑問に答えよう。オレが昨日の時点でお前に話さなかったのは、言ってしまえばオレのためだ」

オレは簡潔に結論を述べる。


「と、いいますと?」

しかし白石にはピンときていないようだった。


「もしもオレが昨日の時点でお前にこの画像を渡していたとしよう。そうすればお前は直ぐさま先生に持っていくだろう。疑いをかけられてるのだから当然だ。だが、明らかに第三者の視点だ。誰が撮影したのか、あるいは誰からこの画像を入手したのか、先生はお前に問うはずだ。したらお前は正直にオレが撮ったと言うだろう?」

オレは1度白石に問いかける。


「それは当然です。嘘をつく理由なんてありませんから」

白石は当然のように言う。


「冤罪の罪は重い。もしもそんな風にお前が告発したら長谷部は良くて停学、下手すれば退学になった可能性がある」


「それはそうでしょう。私も停学になる予定でしたから」

犯罪というものは義務教育ではない高校生になると一気に重くなる。


「そこでオレは昨日の昼休み、お前との話の後だな。そこで長谷部に声をかけた。話した内容は「この画像を教師にチクられたくなかったら自首しろ。そうすれば停学は免れるだろう。あと、オレのことは誰にも言うな」という感じだ。流石に停学は怖かったのかすぐに了承してくれた」

その後職員室にも行き、先生にも掛け合った。

「もしも真犯人がいて自首してきたら処罰は軽くしてくれ」と。

自首したのに結果が違ったんじゃ長谷部の恨みを買うのはオレだ。

流石に復讐などは御免被りたい。


「だから長谷部さんは素直に自身が犯人であると言ったのですね」

と、納得したように言う。


オレは続ける。

「学年から停学者が出たらどうだ?学年中で噂になるだろう。そして、オレは画像提供者として先生に1度呼び出され、その現場を見た生徒が真実に辿り着く。さらにはお前に確認をとる生徒もいるだろう。そうなったらどうだ?オレは学年中で目立つ生徒になってしまう。白石を救った救世主か、はたまた長谷部を停学ないしは退学に追いやった非情な奴か。どちらにせよ目立ってしまうのだ。オレは目立ちたくない。目立つと面倒事に巻き込まれるからな。だからオレはこうやって遠回りしたのさ」

結果としては徒労に終わったが。


オレはいつになく饒舌になり、事の顛末を語った。


実際、オレのエゴのために白石には1日不安な思いをさせてしまった。

怒られても恨まれても仕方がない。


「私、黒田くんのこと勘違いしていました。あまり人に興味のない感情の薄い人だと思っていました」


概ね間違っていない。

自分が楽に平和に生きていたいだけだからな。


しかし、白石は続ける。

「ですが、それは勘違いでしたね。黒田さんは長谷部さんの処罰を防ぎ、私の冤罪も解決してくださりました。誰も不幸にならない方法をとった、とても優しい人です」

と、オレに微笑んでそんなことを言う。


美少女の微笑みとあってオレはドキッとしたが、それよりも見当違いのことを言うのが気になった。


「違う。オレはそんなたいそうな人間じゃない。ただ面倒を防いだだけだ。」

勘違いしないでくれ。


だが、オレの言い分など通じていないのか、

「ふふっ。それではそういうことにしときますね」

と、笑ってあしらう。


こんな感じのオレと白石のやり取りは、昼休みが終わり、昼食を摂っていないことに気がつくまで行われた。

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