3. 白石美優との出会い 転
翌朝、1週間も折り返しになる水曜日。
平日の半ばでもあるため疲労が溜まってくる頃合いだ。
世の学生は月曜日と水曜日が嫌いであろう。
木曜はもうすぐ週末という感じで乗り切れるがいかんせん水曜日は週末が遠く感じてしまうのだ。
オレも例外でなく水曜日は好きでは無い。
だがしかし、今日のオレは少しスッキリしている。
やる気に満ちているわけではないが、例えるならテスト最終日の最終科目を受け終わった時のようなある種の開放感というべきか、そのような感覚を覚えているのだ。
オレはいつもより少し遅いギリギリめの時間に学校に向かった。
すると、昨日と同じかそれ以上に学年中が賑わっていた。
それを横目に教室に入りいつもの自席に向かう。
「おはよう真」
「今日は遅いわね」
いつも通り祐人と蒼井が声をかけてくる。
それにオレもいつも通り応じる。
「おう、今日はちょっと寝坊した」
そうして席に着こうとすると、
「何か昨日の白石さんの件、冤罪だったらしいよ。押し付けた女子生徒が呼ばれて職員室でこっぴどく怒られたんだってさ。白石さんも今はその場にいるから謝られてるのかな?」
と、聞いてもいないのに祐人が騒ぎの理由を教えてくれる。
「そうなのか」
興味無さげに返す。
「普通万引きの冤罪なんてその場かせいぜい昨日のうちに解決しそうなものなのに今日になって解決したのよ。まるで、第三者から新しく証拠でももらったみたいな感じね」
蒼井がそう言ってこちらを見る。
こちらを見たとて何も出てこないぞ。
「もしも冤罪なら白石にとってはたまったもんじゃないからな。警察かなんかに捜査してもらったんだろ」
オレは当然のように話す。
しかし、オレの言い分に納得がいかないのか、
「でもさ〜、もし警察が動いてたらこんなにオープンになるかなー?普通教頭先生とかが秘密裏に処理するんじゃないの?」
「それに、押し付けた生徒は今日から停学とかの処置が執行されているはずだよね」
蒼井だけでなく祐人も続けざまに言う。
何なん?
オレのこと嫌いなの?
オレはこれ以上反論も無いので、
「そうかい。それにしても穏便に済んで良かったじゃないか。これでいつも通りの日常が帰ってくるんじゃないか?」
そう適当に話を合わせつつ流した。
2人は何か言いたげではあったが、オレの心情を理解してくれたか、或いはこれ以上教室で追求することではないと察してくれたか、どちらか分からないが話を流してくれた。
すると、白石が教室に戻ってきた。
ホームルームも近いということで話を切り上げたのか。
はたまた解決したのだろう。
すると、教室の皆が白石に向かっていき、
「おはよう白石さん!」
「やっぱ白石さんがそんなことするはずないよね!」
「白石さん大丈夫だった?酷い目にあってない?」
などといった白石を擁護、ないし心配する声などとにかく白石の味方をすることを口々に言う。
そういうのは昨日言うべきだったんじゃないのだろうかと思うが流石にそんなことは言えない。
白石は微笑んで
「はい、大丈夫です。ご心配おかけしましたね」
とか
「ありがとうございます。ですが解決したので問題ありませんよ」
といったことを述べた。
それにしても流石は人気者だ。
いつもよりも白石に集うクラスメイトが多いんじゃないか?
おそらく他クラスの生徒も混ざっているのだろう。
そんな人気者を遠巻きに眺めていると不意に白石と目が合った。
白石は何か言いたそうであったが、流石に今人の輪を壊してまでオレに声をかけられないだろう。
そう思い視線を祐人と蒼井の方に戻した。
しかし、オレの願望混じりの解釈は外れていたようだ。
「ごめんなさい、少しはずさせてもらいますね」
「えっ、ちょっ白石さん!?」
そんな声が聞こえてきた。
目の前の祐人と蒼井の視線がオレからオレの後ろへと移る。
後ろに人の気配を感じるが正直振り向きたくない。
振り向いたら面倒事が待っている。
そんな気がしてならない。
だが、あちらはそんなことお構いなしに、
「おはようございます、黒田君。ところでちょっとお時間…そうですね、時間が無いので昼休みにお時間頂けますか?場所は昨日と同じところで」
爆弾を投下した。
この衆人監視の前で人気者の頼みなど断ることができるはずもなく、
「…ああ、わかった」
了承の返事をしていた。
返事をする際白石の顔を見ると、昨日の猜疑心などは一切なく、少し楽しそうだった。
からかっているつもりなのだろうか。
実際面倒事が嫌いなオレからすれば、こうかはばつぐんだ!
周りからの「なんであいつが…」という目や好奇の視線など注目を浴びてしまっている。
面倒が嫌いなオレにとって、注目は苦手なのだ。
どうにかいい言い訳を考えていると、
「はいお前ら〜、席に着け〜ホームルームを始めるぞ〜」
と、担任の声がかかり弁明の場も与えられなかった。
白石にやつあたりを込めて睨みをきかせるが、あちらは意に介さないどころか可愛らしいいい笑顔を向けてきた。
手玉に取られているようでとてもムカつく上に、昨日のオレの努力は徒労に終わったことを痛感した。
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