2. 白石美優との出会い 承
翌日、いつも通り登校すると教室がやけに騒がしかった。
教室どころか学年中騒がしい。
席に向かうといつも通り祐人と蒼井が既に来ていたため挨拶を交わす。
「おはよう真。何か大変なことになってるみたいだよ」
「朝からうるさいったらありゃしないわ」
「おう。で、何があったんだ?」
オレは当然の疑問をぶつける。
「なんでもあの白石さんが万引きをしたとかで先生に呼ばれたそうだよ」
「あんな子でもそういうことしちゃうのね〜。ちょっと意外だったわ」
オレの質問に2人が答えてくれた。
蒼井に関しては答えというより感想だが。
「そうなのか。それは大変なこって」
2人にリアクションを取り席に着こうとする。
だが、そんなオレを座らせたくないのか、
「せっかくだから様子見に行ってみない?」
と、野次馬根性丸出しの蒼井が提案する。
「ダメだよそんな野次馬なんて」
そこで祐人が引き止める。
流石は祐人。こういう時にもまともな判断ができる。
「でも気にならない?」
しかし、蒼井は食い下がる。
「まぁ気にならないって言ったら嘘になっちゃうけど…」
祐人は折れた。
いくらなんでも早過ぎないか?
もう少し粘れよ。
「ほら、あんたも行くわよ」
2対1の状況で意見を覆すなど手間でしかないため渋々ついて行く。
職員室前に着くと人だかりが出来ていた。
野次馬はオレたちだけではなかったようだ。
しばらくすると職員室から白石が出てきた。
泣きはらしたり、激怒しているというわけではないが少し落ち込んでいるようにも感じられる。
ある程度以上の注意は受けたのだろう。
だが、彼女の目は反論がある者の目のようでもあった。
しかし、そう感じたのはオレだけだったようで、
「ヒソヒソ…白石さんでも万引きなんてするんだね…」
「ヒソヒソ…可愛い顔してひどいね〜…」
といった声があちこちから聞こえてくる。
そんな中、白石を見ていると不意に目が合った気がした。
何か言いたげな目だったが、状況が状況なので話しかけてくることはなかった。
もうすぐホームルームが始まるということで皆教室に戻る。
オレたちも例外ではなく教室に向かった。
教室はしんと静まりかえっていた。
流石にあんなことがあった手前、さらには白石が席に着いている手前いつも通りとはいかないだろう。
席に着くと、机の中に何かが入っていた。
『昼休み、地学室に来てください。話があります』
呼び出しの手紙だ。
確認した後、手紙をしまってスマホを取り出した。
この雰囲気の中ホームルームまでの時間つぶしはスマホか読書以外は難しいだろう。
オレが手紙を読み終えたことを確認したことで後方からの視線は消えた。
はぁ…。
正直めんどうくさい。
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昼休み、昼食を摂るべく祐人と蒼井がやってくる。
だが、呼び出しを受けているため断りを入れる。
「悪い。今日は用事があるから先に食べててくれ」
オレがそう言うと2人は驚いたような表情で、
「めずらしいね。宿題でも忘れた?」
「あんたも何かやらかしたの?」
と言ってきた。
何故マイナスな用事と決めつけるのだろう。
失礼な奴らだ。
だが、真実を言うのも面倒事につながりそうなので適当に合わせておこう。
「まぁそんなとこだ」
そう言って地学室に向かう。
地学室に着くとそこには既に待ち人が居た。
「来てくれて良かったです。正直来ないかもと思っていたので」
「いや、流石にあんなので呼ばれたら来るだろ。それで渦中のお方がなんの用で?白石さん」
オレは冗談混じりに返す。
手紙の主は読んだ瞬間想像がついていた。
そして、この後の内容も。
「あなたにいくつか聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
ここで断る勇気などオレには持ち合わせていない。
それに断る方がめんどうになるに決まっている。
それならばさっさと用件を済ませるのが1番だ。
そう思い、首肯して質問を促す。
「私は今日、万引きの罪で呼ばれました。タイミングは昨日のスーパーでのことです。しかし、私はやってません。ですが、私のカバンには身に覚えのない商品が入っていました。つまり、冤罪を押し付けられたのです。そこで、昨日同じスーパーに居たあなたは何か知らないのかと思い呼び出させてもらいました」
白石は怒りや悲しみなどの感情を殺し、淡々と状況を説明する。
おそらくオレに対して疑っている部分もあるのだろう。
だが、それを悟らせようとはしない。
正直驚いた。
普通なら、まして冤罪を押し付けられたのなら怒りの感情の1つくらい混ざっている。
ましてや白石は教室でも人気の美少女だ。
コミュニケーション能力も高く愛想を振り撒くくらい簡単なものだろう。
男であるオレに色仕掛けという程ではないにしろ近しいことをして口を割らせる方が確実であるのにも関わらずそれをしない。
驚嘆と同時に関心した。
だが、
「悪いが、本当にオレは何も知らない。力になれず申し訳ないがオレから言えることは何もない。だが、スーパーで行われたということは監視カメラに映っていたんじゃないか?」
極当たり前なことを言ってみる。
「私もそう思い確認しましたが、監視カメラには犯行現場は映っていませんでした」
しかし、白石からは否定の返事だ。
「そうか。それなら本当に申し訳ないがオレからはこれ以上何も言えない。もしも何か分かったら報告するということでいいか?」
早く終わらせたいため切り上げようとする。
「分かりました。お時間いただきありがとうございます」
白石がそう言ったのでオレは地学室を出た。
白石も了承したが、これでは白石のオレへの疑いは晴れるどころか増すばかりだろう。
オレが犯人ではないにしろ犯人とグルであるかもしれないのだ。
白石からすればそれを隠しているようにも聞こえてしまう。
冤罪なんて時間が経てばバレる。
しかし、それまで人気者の白石に疑い続けられると事実が発覚した後にオレの立場が危うい。
疑いが長ければ、いつしかそれは確信、嫌悪感にまで発展する。
人気者に嫌われると面倒事が降ってきそうだ。
平穏に過ごしたいオレにとって、それは避けなければならない。
今でこそ白石に対して腫れ物を触るような扱いだが、真実が明るみになれば今まで通り白石は人気者だ。
「まったく…。面倒だがやるしかないか…」
オレは廊下でため息混じりに呟いて教室とは別の方向へ向かった。
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