1. 白石美優との出会い 起

桜も散り、入学直後のドキドキも無くなったゴールデンウィーク明け。


大型連休明けということもあり多くの人々が気怠さを感じていることだろう。


このオレ、黒田真くろだまこと高校1年生も類に漏れず精神的な倦怠感に包まれていた。


「帰りてぇ…」


「何言ってんのさ。昨日まで1週間くらい休みだったのに」


「ほんと。朝からそんなやる気なさそうだとこっちの気も悪くなるからやめてくれない?」


オレが独りごちると美男美女がつっこんできた。


呆れたように言ったのは赤城祐人あかぎゆうと

ギラギラしたワイルドなイケメンというよりは落ち着いた爽やかなイケメンだ。

イケメンが故にとてもモテる。

さらにはサッカー部で1年生、入部して1ヶ月足らずだというのにレギュラーに抜擢されて今度のインターハイ予選もスタメンで出るだろうとまで言われている。

顔だけでなくスペックまでイケメンである。


もう一方は蒼井瑠奈あおいるな

こちらは祐人とは違うタイプで活発なポニーテールの美少女だ。

陸上部に属していて、100m走では部内で1番速いとの噂もある。


2人は中学から一緒で高校のクラスまで同じというなんとも腐れ縁な関係だ。


「連休明けなんて皆そんなもんだ。オレだけじゃないさ。見ろよクラスメイトたちを」


そう言ってオレはクラスメイトたちに視線を促す。

連休明けで久しぶりということで友達と会話に花を咲かせているように一見感じられるが、その実はオレと同じように休日を惜しんでいるに違いない。


「何言ってんのよ」


「仕方ないよ。真のこれはもう病気のレベルなんだ」


2人して酷い言い草だ。


「お前らなぁ…」


文句の1つでも言おうとすると、不意に教室のドアの開く音が聞こえた。


他のみんなにも聞こえたのだろうクラスメイトがドアの方に視線を向ける。


本来こういう場合誰が来たか判明した時点で友人とのお喋りに意識を戻すか、挨拶などに声を掛けるかの2パターンに分けられるだろう。


しかし、今回はどちらでもなく静寂が訪れていた。

だが、そんな静寂もすぐに喧騒へと変わる。


「えぇと…おはようございます」

やってきた者が教室へ入りながらそういうと、


「おはよう白石さん!」


「休日何してた〜?」


「今日も可愛いね!」


など様々な声が寄せられる。


白石美優しらいしみゆ


オレたちが通っている甲突学園の美少女四天王と呼ばれる4人の1人だ。


肩まで伸ばされたセミロングの黒髪に整った目鼻立ち。

いわゆる清楚系美少女というやつだろう。


ていうか美少女四天王て…。


普通に四大美少女とかでいいだろうに。


美少女の白石は毎朝登校してくる度このように教室の人気を独り占めというわけだ。


ちなみに蒼井も美少女だが、彼氏持ちであることが入学早々広まったため四天王には含まれていない。


まあ普通は入学1ヶ月で彼氏なんかいないよな。

こいつらは中学から付き合ってたが。


そんな白石だが教室の方々から声をかけられ対応できずにいる。


「あの、えぇと…そんなに一気に話されても困ります…」


白石もそう言ったことで少し落ち着いたが人だかりは変わらない。


これが我ら1年A組の日常だ。


「大変そうだね、あんなに人気だと」


「ガツンと言えばいいのよ。迷惑だって」


「そんなのができるのはお前だけだ」


「失礼ねー。他にもいるわよきっと」


「まあまあ、そこも瑠奈の魅力だから」


「さっすが祐人!」


そんなこんなで2人がイチャつき始めた。


それを横目にオレはため息を吐きながらスマホをチェックする。


「はいお前ら、席に着け〜。ホームルーム始めるぞ〜」

そうこうしていると担任が来てホームルームが始まるというのがいつもの流れだ。


なんの変哲もないありふれた日常。

だが、変に忙しくなく平穏であるため気に入っている。


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キーンコーンカーンコーン


「それじゃ、僕たちは部活に行くからまたね真」


「おう、お勤めご苦労様」

いつも通り授業が終わり放課後。


瑠奈と祐人は部活に行くため帰りはオレ1人となる。


中学よりも多い授業数をこなしたうえで部活動にも励む我が友人には敬服いたすところだ。


うちの高校は自称進学校ぽく文武両道を掲げていて、部活動に入る生徒が多い。

が、強制というわけでは無いためオレは当然入っていない。


毎日部活動など面倒だ。


そんなことを考えながら近所のスーパーに寄る。

親の転勤が入試時期と重なってしまったためオレは残ったが家族は他県に引っ越したのだ。


そんなわけでオレは一人暮らしをしている。

そのため、食事も自身で用意しなければならないのだ。


スーパーを周っていると、見知った顔を見かけた。


白石だ。


まだ1ヶ月しか経っていないとはいえ一応はクラスメイト。

お互い顔と名前くらいは知っているということで挨拶を交わす。


ということはなく素通りしようとした。


しかし、あちらもこちらに気づいたのか目が合ってしまった。


あちらが会釈をしてきたのでオレも同様に会釈で返す。

ただのクラスメイトなんてこんなもんだろう。

教室でもオレと白石が会話を交わすことはほとんどない。

最初の1ヶ月こそ名簿順なため席が近かったが席替えをすればそれも終わり。

その程度の仲なのである。


会釈が終わり、白石は買い物に戻ったのでオレも自分の買い物をするために移動しようとした。


だが、ちょうどその時白石の背後に不審なやつが目に入った。


不審と言っても見た目から不審という訳では無い。

なんならあれはうちの高校の制服を着ている女子生徒だ。

学年までは分からないがオレが知らないのでクラスメイトではないことは確かだ。


まあクラスメイトを全員覚えてるかというとそんなことはないが。


その女子生徒は何かを持ってそっと白石に近づく。


オレは何をしようとしているのかわかったが、その行いを止めることはせずに様子を見ていた。



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翌日、白石が職員室に呼び出される校内放送が流れた。

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