黒糖ちんぽの鬼光りショートショート 〜宇宙人が空の彼方でオナニーしているよ〜
ある日、人類は未来視の道具を手にした。
それは世界中の空から雨のように降ってきた。
雨のように、無数の手鏡が降ってきた。
◇
手鏡に写るのは自らの顔ではない。
自らの未来の姿でも無い。
そこに写るのは、ある種のイメージ。
行きつく未来のダイジェスト。
--賑わう街。
--来るべき災厄。
--生命の誕生。
言語化されない未来のプロフィールが、見えない映写機によって投影されているかのように、そこには写っていた。
その手鏡はそのうち【未来手鏡】と呼ばれるようになった。
◇
ある少年が、自らの見た未来についてこう述べている。
「大量のタバコを生産する工場の姿が見えた」
「大きな塔が爆発するのが見えた」
「ファミレスで仲良くご飯を食べる家族たちの姿が見えた」
あるビジネスマンは、自らの見た未来についてこう述べている。
「金魚に餌を上げている政治家の姿が見えた」
「軍隊に囲われた巨大な壁が見えた」
「ファミレスの中で、客が揃いも揃ってマスクをつけている異様な光景が見えた」
各々で見える未来は違った。
手鏡を入れ替えても、各々の見る未来に変化は無かった。
当然、叶う未来と叶わない未来があった。
◇
その論文が発表されると、世間はたちどころに騒がしくなった。
『全世界の国会議員が見た未来と、その他の人間が見た未来とでは、その現象のもっともらしさに圧倒的に有意な差がある』
換言すれば、次のことが言える。
『未来手鏡に写るのは、自分が国会議員になった時の未来である』
◇
この論文が発表されるやいなや、世界の議員の選挙活動は格段に変わった。
例えば、日本。今までならば、街宣車に乗った議員が自分の名前やマニフェストを繰り返しアピールするという、費用対効果の非常に薄い方法に頼らざるを得なかった。今ならば、たった次の一言だけだ。
『皆さん、この手鏡を見てください!!』
◇
民衆はより良い未来へと投票をした。事実その未来は到来した。
そして、到来していない未来があった。
現職議員の未来と対立する未来である。
例えば、消費税8%の未来と10%の未来がそれぞれ別の政治家の手鏡に映ったとする。このうち、10%の未来を達成する政治家が当選した場合、どうあがいてももう片方の政治家は議員になれない。統計上どんなに優勢でも、彼は議員になれない。仮に両方当選したとしたら、どちらかの議員は交通事故か何かで死ななければならないだろう。
良い未来を提供できないから議員になれないのか、元々議員になれないのか。それは誰にも分からない。
◇
選挙区の異なる政治家AとBは、互いに同じ未来を持っていた。すなわち、Aの手鏡に写る未来とBの手鏡に写る未来は全く同じだった。
AとBは共に民衆から指示され、晴れて議員となった。Aは上院議員、Bは下院議員として。
ある日、BはAに対してこう言った。
『僕が議員になれたから、君は議員になれたのだ。感謝したまえ』
Aはプライドを刺激され憤慨し、Bをナイフで刺し殺した。
刺し殺せたということは、AこそがBの未来を作っていたということに他ならないと、Aは満足していた。
三日後、Bは地中深くの棺から這い上がって、何事もなかったかのように下院議員としてのキャリアを再開した。棺を埋めていた数メートル分の土は、文字通り人並み外れた力によって掘り返されていた。それも大地の内側から。
BはAの殺人を告発した。刑事がAに手錠をかけようとした時、突然に刑事は泡を拭いて絶命した。Aに手錠をかけようとした者は例外なくそうだった。そのうち警察はAを逮捕するのを諦めた。
Bの任期満了に伴い、Aは交通事故で亡くなった。
◇
政治家を志す少年Cの見た未来は、ブラックコメディのような絶望的な管理社会だった。生まれながらにして、少年Cはその未来しか見ることができなかった。このままでは議員になれないと、少年は死に物狂いで政治学の勉強をした。しかし、どれだけ努力し、どれだけそこに見えた未来のおぞましさを学ぼうとも、手鏡に写る未来が変わることはなかった。それは生まれながらに決まっているのである。
そのうち彼は議員になった。そして、反体制派のマシンガンで蜂の巣にされるその日まで、彼は政治家の仕事を続けた。
◇
世界中のあらゆる議員の見る未来が、完全に一致した。彼らが提示した未来は、世界の大多数の人間のお気に召す理想社会の姿だった。
国境が潰え、世界は一つの共同体となった。
無論、それを不服に思う民衆もいた。彼らは武装蜂起し、手近の議員を一人一人射殺していったが、議員はそのたびに蘇生した。
全ての議員を同時に殺さなければ、未来のを変えることは不可能なのである。
この時代はその後4,187年の間続いた。議員たちは事実上不老不死と化していた。議員の生死については、人類は常に次のどちらかの運命を辿るか試されていた。すなわち「一人の議員が死んでも他の議員が生きているので、彼は蘇生する」または「一人の議員に死が訪れた時、他の議員全てが死に至る」ということ。人間の寿命の回数だけ続けられてきたそのコイントスは、常に前者の未来へと現実を投じてきた。
しかし、ついにその体制は終わりを告げた。
レジスタンスは地球を爆弾にしたのだ。
◇
......という体制側のプロパガンダを手鏡に写していた極右政治家は、見事に落選した。
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