第三話 午後の話
「う~~ん、、、、どうしましょう。」
煌びやかな装飾が施された部屋の中でリウルが溜息を吐く。
昨日いつものように居酒屋に行くとあっという間に人に囲まれてしまい色々大変だったのだが、お嬢さんに見せた魔法で周りの人たちが笑顔になってくれているのを見てとても誇らしく思ったのだ。こういう時のために魔法を学んだのだとそう思えた。
そしてあわよくばアルナスさんの笑顔を見たかったのだが、笑顔を通り越して手を握り弟子にしてくれと言われたのだ。
どうやら彼女が魔法を学びたいらしいということは理解出来たのだが、あまりのパニックでろくな返事もできないまま店から出てきてしまった。
想い人にいきなり手を取られたら誰だってそうなるだろう、と誰に言うでもない言い訳を零す。
想い人が魔法使いになりたいと思っているなんて想像もしなかったし、もしかしたらアルナスさんと近づけるチャンスかもしれない。魔法が得意で良かった~~~!と思うのだが魔法は綺麗な物ばかりではない。
魔法使いになるという事は国の争いごとに協力することもあるということだ。
あくまで可能性の話であり国に協力しなければならないという確信もないのだが、あんなに可愛らしい笑顔を向けてくれる彼女が少しでも危険な事に巻きこまれる可能性があるのならと、どうしても躊躇してしまう。
「おい、俺の存在忘れてないか?さっきから溜息がうるさいのだが」
「ケイル、、、。私は弟子をとってもいいのでしょうか、、、?」
幼馴染に力の無い声でポツリとつぶやく。ちらりとケイルを見るとまるで石像になったかのように固まっていた。
「は?気のせいか?今弟子をとると聞こえたのだが、、、?」
「気のせいじゃないです。迷っているんですよ。弟子をとるかどうか」
「おっっまえ、ただでさえこんなに忙しいんだぞ!?弟子を取っている暇などあるわけがないだろう!ていうかお前が弟子を取るなど弟子が可哀想ではないか!!」
遠慮なく辛辣な言葉を投げかけてくる幼馴染に思わず笑いそうになる。事実、騎士団は忙しいのだ。毎日毎日任務漬けで正直嫌になりそうだ。騎士団長ともなれば尚更なので弟子に時間を割くことが出来ないとなると確かに可哀想ではある。
「いやでも彼女のためなら任務など秒で終わらせられますね。」
問題はそこではないのだ。アルナスさんのためなら任務どころか一晩で屋敷一つ建てれそうである。何か言いたげに呆れた顔でこちらを見てくるケイルの視線が痛い。
「はぁ、、、お前の事だから国のいざこざを気にしているんだろう?ならお前が守ってやればいいじゃないか。お前ぐらいになると人ひとり守るのくらいたやすいだろう」
吐き捨てるようにそう言った彼の目が左を向いていた。あれは気恥ずかしい時によくやるケイルの癖だ。自分では気づいていないのであろうその癖に思わず頬が緩む。
ぶっきらぼう見えて彼は世話焼きなのだ。
そう言われてみれば確かに自分が守ってあげればいいだけの話だ。よしと意を決したように笑う。
絶対に彼女を傷つけさせない。そうと決まればさっそく今晩居酒屋にいって返事をしなければ。
アルナスさんがしたいと言っていることは全力で応援したいとそう思ってしまうのはきっと彼女が特別だからなのだろう。
「うん。決めたよケイル。弟子をとることにする。色々ありがとう」
「別に何もしていない。お前が勝手に決めたことだ。ほら仕事に戻るぞ」
満更でもなさそうなケイルのあとに続いて部屋を出る。
ゆったりとした午後の話だった。
一目惚れ騎士様と町娘~魔法使いになりたいのですが、騎士様が魔法を教えてくれるのですか!?~ 縹 そう @soup_2539
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