第二話 花火
いつものように町の人々が行きかう穏やかな午後。そんな中、少しだけ騒がしい居酒屋の店内はカウンター席を取り囲むように人だかりができている。
その中心で少し幼さの残る白髪の美青年が困ったように笑っていた。
「まさか、兄ちゃんが騎士団長様だとは思わなかったぜ!ほんとに戦えるのか?」
「な~んか頼りないよねぇ。イケメンだから全然いいけど」
「皆さん!リウルさんが困っているじゃないですか。言いたいことが色々あるのも分かりますがそろそろ席に戻ってください。」
さっきからずっとこれである。噂だけは伝達が早いようで、いつもいるイケメンが騎士団長様だったんだって~!みたいなノリで平日というのにかなりの人が来てくれていた。
しかもほとんどの人が見るだけではなく、しっかりと食べていってくれるのでお店としては棚から牡丹餅ような感じでありがく思うのだが、ずっと囲まれたまま質問攻めにあっている彼を見ると素直に喜べないのが現状である。
さっきからすきを見て料理を食べようとしてくれているのだが一向に進んでおらずかなり不憫だ。
助けてあげたいが何度注意しても人が減るどころか増え続けているので、もはや諦めている。リウルさんはそんな私の様子に気付いたのか暗黙の了解で察してくれた。
「ねぇねぇ!騎士団長様は剣より魔法が得意ってホント?見たいっ見せて!」
「うんそうだよ。お嬢さん小さいのによく知ってるね。どんな魔法が見たい?」
しゃがんで女の子に視線を合わせるリウルさんは穏やかな笑みを浮かべている。そのせいで店内の女性が顔がいい!と叫びながら次々と倒れているのだが。
それはともかくリウルさんが魔法が得意って言ったように聞こえる。
しかも今から魔法を披露してくれるというのだ。なんという幸運だろう。思わずぎゅとお盆を持っている手に力が入った。
「キラキラしたのがいい!綺麗なのがみたいなぁ!」
「綺麗な魔法か、、、。うん分かったよ。じゃあ見ててね」
さっきまで騒いでいた人たちは誰一人として声を出しておらず、息をのんでリウルさんを見つめている。
「-フィルシェ」
居酒屋に似つかわしくないほど静まり返った店内で小さな詠唱が響く。
とたん、ぱちぱちと小さくはじける音がした。いきなり目の前が眩しくなり顔をしかめる。そろりと目を開けるといくつもの小さな花火が色とりどりに咲いていた。
まるでいつか見たような、それでいて初めて触れるような。
どうしようもなく愛おしくなるような儚い「魔法」がそこにあった。
あまりの美しさにくらくらする。
今までに味わったことのない高揚感が胸いっぱいに広がっていくのが分かる。
周りの人も見惚れているのか花火を見つめたまま誰一人として動いてはいなかった。
「わぁ、、、!綺麗、、、おにーちゃんすごいね!」
「なんだよ兄ちゃん、、、やるじゃねぇか!あんなの初めて見たぞ!」
「なぁ今のどうやったのか教えてくれよ!すげぇよ兄ちゃん!」
沈黙を破るような幼い少女の声にハッとしたのか周りの人たちが興奮したようにリウルさんに詰め寄っていく。そんな中アルナスは1人突っ立っていた。
あの瞬間今まで探してきた、本当になりたい魔法使いの姿が鮮明に浮かんで見えたのだ。誰かを幸せにするために魔法を使う、そんな姿が。
するりとリウスの周りにいる人たちを器用に避け、リウスの手を取る。
その瞬間リウスの体が強張るのを感じたが気にしてなどいられなかった。
「あのっ、アルナスさ、、、、」
「リウスさん!私を、、、私を弟子にしてくれませんか!」
今思うともっと他にやり方があったのではないかと思うが、そんなことを考えられないぐらい高揚していたのであろう。ぽかんとしたリウスの瞳にキラキラと顔を輝かせる少女が映る。
あぁ、この子は魔法使いになりたいんだった、、、。と常連さんたちは思い出したかのように顔を手で覆うのであった。
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