第一話 騎士団長様でした

「アルナスちゃん~こっちにも料理一つ~」

「は~い、今お持ちします!」


昼間からがやがやと騒がしい居酒屋で良く澄んだ少女の声が響き渡る。ふわりと魔法で浮いた皿を受け取ると慣れた手つきで指定の席まで運んでいく。

ここはラルベルト王国の王都の一角にある居酒屋である。


居酒屋があるこの場所はメインストリートに近く店の外からは買い物をする人や駆け回って遊ぶ子供達の声が聞こえてくる。


そして今日は休日なのでいつもよりお客さんが多い。

必然的に忙しくなった店内でちらりとカウンター席の隅を見る。いつものように少しクリーム色がかった白髪の美青年がじっとこちらを見ていた。


「どうしましたかリウルさん。ご注文でしょうか?」


「えっ?あぁいや今日は一段と人が多いなって思っただけですよ。夜に来ることが多いので昼間はいつもこんなに混んでいるのですか?」


「今日は休日ですし、平日の昼間に比べるとお客さんは多いですよ。まぁ居酒屋なので夜の方がお客さんは多いですけどね。」


そういうと彼は腑に落ちたかのような表情をする。もしかして今日が休日なのを知らなかったのだろうか。そうなると普段は休日も仕事をしているのだろう。


リウルさんはこの頃お店に通ってくれているプチ常連さんである。初めてお店に来たときは何故か入るや否や立ったまま固まってしまい石像でも立っていたのかと思ったほどだ。

よほどお腹がすいていたらしい彼は頼んだ料理を綺麗食べ上げるとどこか浮ついた足取りで帰っていき、それからほぼ毎日通ってくれてるのである。


こちらとしても常連さんが出来るのは嬉しいので悪い気はしない。それに彼ほどのイケメンが毎日来ているとなるとそれを目当てに来る人も着々と増えてくるわけで正直ありがたいくらいである。


「アルナスーー!これ運んでー」


「はーい。リウルさんじゃあまた」


そういってカウンターを離れお皿を運ぶ。見慣れているとはいえふわふわ浮かんでこちらに向かってくるお皿を見るとわくわくしてしまう。このラルベルト王国では一般的に魔法を使う事が承諾されており、街中をでは至る所で使われている。


国民はいまさら当たり前の風景にわくわくなどはしないだろう。だがアルナスは違った、彼女は魔法が大好きなのだ。

彼女自身特別な魔力や加護をもっているわけではないのだが幼い頃から持ち続けたの魔法へのあこがれもあり、実家の居酒屋で働いている今でも魔法使いになりたいという夢を持っているのだった。


普通に魔法が使えるのであればわざわざ魔法使いにならなくてもいいじゃないか。と思う人もいるのだが魔法使いと一般人では出来る事の差はかなり違ってくる。

国民は生活のために魔法を使うのであって、狩人などではない限り簡易的な魔法しか使わない。もちろん様々な魔法を使う人もいるのだが。


なのでこの国で本格的に魔法を使えるのは限られた職業の人たちだけである。

そういうのも相まって魔法使いになりたいのだ。


そんなことをぼんやりと考えていると突然勢いよく扉が開いた。


「いらっしゃ、、、」


「おいっ、リウル!!緊急の呼び出しだ!ボケっとしてないで早くいくぞ!」


「ケイル!?待ってください。まだ食べ終わってないんですが、、、」


いらっしゃいと言い終えるいうよりも早く突然大声を出したケイルという男は呆れたような顔をしてリウルの腕を引っ張る。どうやらリウルさんの知り合いらしい。


「全くお前は、、、。一応騎士団長だろう!なぜ国王からの呼び出しに急ごうとしないのだ!?もういい早くいくぞ!」


「まっ、、、お騒がせしてすみませんアルナスさん。代金はテーブルの上に置いておきます。ご馳走さまでした!」


そういって二人は嵐のようにお店から出ていった。残された従業員も常連さんも驚いた様子で固まっている。それもそうだろう、さっきケイルと呼ばれた人は何と言った

か。



「リウルさんが、、、騎士団長様----------!?」


静かな店内に誰もが思っていたことを代弁するかのようにアルナスの叫び声が響いたのであった。



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