第5話 愛は永遠
「なんだ……これは、俺の過去じゃねぇのかよ」
「ひひひ……過去だよ。面白いものを見せてもらった」
あたりは何もなくなり暗闇だ。
そこに俺の座っているベッドがあり、横には老人が椅子に座って笑っている。トンボおじさんはいつの間にかいなくなっていた。
「で、この後は村の連中と共謀して親殺しをするのだろう」
「それは……」
「別に責めちゃいないよ。事実の確認だ」
「……」
「それから、自ら望んで親殺しをしたのに落ち込む。そこでベルと急接近ってか。あははは。面白いね」
「クツ……」
「で、お前の母は周りの村の人間を殺しすぎていた。それを討伐したとして半吸血鬼なにの人間に受け入れられる。あはははは。本当いい人生だねぇ」
老人は腹を抱えて笑っている。
事実だが、コイツに言われると悔しくてたまらなかった。だが言い返せなかった。
なぜだか分からないが逆らってはいけないと俺の全身が警告している。
「それなのに、お前はまだ望む。ベルとかいう女の寿命の延長か? やだねぇ」
老人は俺に向かって縦に手を振った。
「本当に人型の生き物は欲深い。コレが叶えばアレが叶えばソレ。永遠に続く」
「……」
「まぁ、いいだろう」
突然、老人は俺の目の前に現れた。ベッドの上にのっているわけではない。俺のちょうど伸ばした足の上に浮いているのだ。
そして、人差し指をさしてきた。
「ベルの寿命だね。お前と同じにしてやる。そのかわり褒美を貰おうかね」
「褒美……?」
「どうしようかね。お前、ベルと一緒がいいだろ。じゃ、不老なんていらないね」
「……?」
目の前の老人が曲がり、くねり始めた。そして、次第に俺の顔、姿になっていく。
「え……?」
俺は慌てて自分の手を見た。
シワが刻まれ、筋肉が落ち骨の上に皮が貼ってはるような手になっていた。
「え?」
「う?」
勢いよく顔上げるとそこいたのは目を丸くしたトンボおじさんだった。
「カナタ……なのか?」
自分の手とそしてトンボおじさんの反応で大体理解できた。俺は老人になったのだろう。
気持ちローブがゆるい気がする。
アレがニャルラトホテプだったのか……?
「すぐに村に戻らねぇ―と」
俺は勢いよく立ち上がると腰に激痛が走った。
「いた……マジか」
外見だけはなく身体能力も老人になってしまったらしい。
「面白い。これがニャルラトホテプの力か。私も会いたかった」
「面白くねぇ。早くベルの元にいかないと。なんとかならねぇか?」
俺は激痛の走る腰を抑えながら気合で立っていた。本当は今すぐにでも倒れたいがそうもいかない。
「うむ。痛みを感じさせなければいいのか? 後が大変だぞ」
「かまわねぇ」
「うむ。では」
トンボおじさんは俺の頭の周りを、ゆっくりと飛び始めた。いつものへんてこな歌は彼が俺も耳の側を通るたびに聞えた。
「はい喜んでー! はい喜んでー! 今~魔法をかけますよ~。無痛‼」
「フッ」
トンボおじさんは“無痛”と言う部分で眉を寄せ、唇を出して、顔のパーツを真ん中に集めるような表情をしたため思わず笑ったしまった。
その笑いで腰に当てていた手が外れてしまった。
マズイ……アレ?
腰の痛みは全くなかった。
身体も先ほどよりも軽い気がした。
肩を回してから飛び跳ねたが痛みを感じることはない。
「いける」
俺は村へ一目散に走った。その後ろをトンボおじさんがついてきた。
「遅いな」
「これが限界なんだよ」
トンボおじさんに言われるまでもなく以前より足が遅くなっているのは感じているが、これが限界でこれ以上の速さがでないのだから仕方ない。
行った時間の倍近く掛かり村に戻ってきて、俺は固まった。
村で家より大きな生き物が暴れており、村からは大きな声が聞こえた。
「あれはなんだ」
トンボおじさんも大きく口を開けて何か言っているが全く聞こえない。仕方なく、トンボおじさんを肩に乗せた。
「あれはドラゴンだ」
「あれが?」
ドラゴンなんて、物語でしか聞いたことのない生き物だ。
しかし、驚いている場合ではないと頭を振り、村に入っていった。
村は逃げまとう人でごった返しているかと思ったがそうではなかった。ほどんどの村人がドラゴンの周りにいて叫んでいる。
「ベル」
聞き間違えかと思ったが違った。多くの人がドラゴンに向かって“ベル”と言っている。
「あれがベルなのか」
「もしかして、ニャルラトホテプにベルの寿命を自分同じにするように頼んだのか?」
「あぁ」
「ドラゴンは吸血鬼と寿命同じくらいだ」
「まさか……そういうことか」
ニャルラトホテプは狂気と混乱をもたらす神。一筋縄ではいかぬとは思ったがコレか。
よく見るとドラゴンは暴れているが民家や周囲にいる人間を傷つけようとはしていない。だから、これだけの人がドラゴンの周りに集まり、彼女の名前を呼んいるのだ。
ドラゴンは一人でごろごろと転がり、自分のしっぽを噛んでいる。だから、口もしっぽも血だらけ真っ赤に染まっていた。
「ベル……」
「小さくはできるぞ」
「頼む」
「では、私をドラゴンの頭の上に連れていけ」
「マジか……」
俺は暴れているドラゴンを見て覚悟を決めた。できるかできないかではなく、やらなくてはならない。
「いくぞ」
俺はトンボおじさんを胸ポケットに入れると、ドラゴンに向かって走った。
ドラゴンの周りには多くの人がいて、なかなかドラゴンに近づくことができなかった。
「じーさん。邪魔だよ」
「そうだぞ」
村でよく見かける男どもに押しのけられた。
俺は必死にこの男たちの事を思い出した。何かの時のために村全員の顔と名前、弱点になり得ることは記憶していた。
しかし、老人になったからかなかなか思い出せない。
「あ、そうだ。アーサー、ダニエルの娘と付き合いはじめたらしいな」
「なぜ、それを」
アーサーは慌てて俺を見た。「アーサー」とダニエルに呼ばれそちらを向く。
「アーサー、本当か? 俺の娘を付き合っているのか」
「いや、その……」
「なんで、報告しねぇんだ」
二人の男が揉めはじめたスキに、ひとごみを抜けドラゴンのもとに向かった。
近くまでくると、ドラゴンは本当に大きかった。しかし、転げまわっているため、頭までは問題なくいけた。
「早くしろ」
ドラゴンの頭当たりでトンボおじさんを出すと、彼はすぐに飛び立ちドラゴンの上をまわりはじめた。
ちいさなトンボおじさんがドラゴンにつぶされて魔法がうまくいかないではないかと心配になった。しかし、もうこの方法しかないのだから仕方がない。
周囲の村人とドラゴンの声でトンボおじさんの声は一切聞こえない。
しばらく待っているとドラゴンが徐々に縮んでいった。
「やったじゃねぇか」
俺はドラゴンに駆け寄った。
ドラゴンは倒れて動かなくなっていた。その横にトンボおじさんも倒れていた。
二人は同じようなサイズはしている。つまり、ドラゴンは俺の手と同じサイズになった。
安心したら、突然足が震え始めた。
限界か……。
俺はそれに抵抗することなく地面に倒れた。
あれから一か月、俺はベッドから降りることができなかった。その間、ドラゴンになったベルが俺の側にずっといてくれた。
あの時なぜ自分のしっぽを噛んでいたかは、わからないが小さくなってからはそういった行動は一切なかった。
あの後は村人に説明するのが大変だった。
俺を介抱してくれたベルの妹マチが力になってくれたというより殆ど片付けてくれた。
本当に感謝している。
「ベル」
名前を呼ばれてドラゴンになったベルは俺のもとにゆっくりと歩いてきた。
俺は「よいしょ」と腰をおとしてテーブルに捕まりながらゆっくりと膝を折った。そして、そっとベルの前に手を置くと、嬉しそうに彼女は手に上にのってくれた。
彼女が手の乗ったのを確認するとまたテーブルに捕まりゆっくりと立ち上がった。
この身体は不便だと思ったが、ベルと死ぬまで一緒にいられるならそれもまた構わなかった。
「ベル、愛しているよ」
そう言って、手の上にいるベルに口付けをすると「ギャウ」と鳴きながら下を向き目だけで俺をみてくる。その上目遣いがとてつもなく可愛い。
「ベル、ごはんにしようか」
俺はベルをテーブルの上に乗せた。そして、テーブルに並べた食事を見た。
どれもとても美味しそうであり、自分の腕に関心した。ベルが食べると思うと料理の腕によりいっそうに力がはいる。
ベルの前にあるお皿の上に串から外した焼き鳥をのせた。
「ギャウギャウ」
ベルは嬉しそうな声を上げると、お辞儀をしてから焼き鳥を食べ始めた。彼女はもともと鶏肉が大好きであった。年を取るとともに食べられなくなったと言って悲しんでいた。
それが食べられるようになって良かったと思った。
愛らしいベルの姿を見ていると、トンボおじさんが料理を持ってきた。
「あぁ、ありがとう。上手く身体が動かないから持ってきてもらうと助かる」
「まぁいい。それよりこの形で満足なのか。貴様は身体が老いて不自由な体になりベルと会話ができなくなった」
「満足さ。俺はベルと死ぬまで一緒にいたいんだ」
俺は本当に幸せで仕方なかった。ベルがドラゴンはなったため夜行性になった。だから、今でのように彼女の生活を気にして別の家に住む必要がなくなった。そして、半吸血鬼とドラゴンは平均寿命が同じである。
こんな幸せなことはない。
身体の動きが鈍くなったくらいの代償でここまでしてもらえるなんて俺は最高に幸せものだ。
俺の顔を見て珍しくトンボおじさんがため息をついていた。
「貴様が幸せならかまわぬ」
愛は永遠~愛する恋人と過ごすために俺は神と契約する~ くろやす @kuroya44
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