第3話 一緒にいたい
ベルと二人きりだ。
俺はベルの横に転がった。
もうすぐ日が沈む。
こうしているといつものと夜と変わらない。毎晩、俺はベルの家へいき一緒の時間を過ごした。
本当は一緒に住みたかったが、そうすると日中は日の光が入らないように暗くしておかなくてはならなかった。
人間であるベルにとってその生活は酷だ。
こんなに生活が違うのにも関わらず俺だけを愛してくれ嬉しく思う。
完全に日が沈むと俺は起き上がりベッドに座った。そして、横で静かな寝息を立てるベルをみた。
行くならば今夜だ。
俺は夜の方が動けるし、ベルが明日の晩まで持つ保障はない。
ベルの頬に触れるとピクリとまぶたが動き、開いた。ベルは俺を見るとニコリと優しく微笑みをくれた。
「いくの?」
「あぁ」
「上手くいかなくても大丈夫よ。お空で一緒になれるわ」
「不確定要素じゃねぇか」
「そうね。私はおばあちゃんだわ」
俺は勢いよく、ベルの上にのった。両手を彼女の頭の横において彼女をじっと見る。
シワが増えた肌も白くなった髪も青い瞳も全てを愛しく思う。
それなのに、自分のことを“おばあちゃん”だからと一線ひかれるととても寂しい気持ちになった。
ベルの顔にゆっくりと自分の顔を近づけて、軽く唇同士をくっつけた。
「あ……」
唇が離れるとベルは顔を赤く染めた。
「俺の外見年齢は人間の20代くらいで止まってしまうが300年は生きることができる。ベルは年齢と共に身体も年を重ねている。身体特性が違うのは種族が違うからだ。そんな外見だけで俺の愛を疑うんじゃねぇ」
俺が眉間にシワを寄せて怒鳴り散らしているのに、ベルは頬を赤く染めながら嬉しそうに笑っている。
愛おしそうに俺を見つめるベルの顔は少女の時と変わっていない。
「俺が血を使って従属の吸血鬼にしねぇのはベルがベルでいてほしいからだ。だから……ニャルラトホテプに頼むのは戸惑った。でもベルと一緒にいてぇんだ」
「もしかしたら、このままで寿命が延びるかもしれないでしょ。そしたら、一緒に焼き鳥を食べましょ。年を取って食べられなくなり残念におもっているのよ」
「そうだな。でも本当にいいのか?」
「いいわよ。ありがとう。私のためにたくさん悩んでくれて嬉しいわ。」
ベルが少女に戻ってほしいと思ったことは一度もない。不死であってほしいわけじゃない。
だた、一緒にいたい。
ベルの寿命が俺の3分の1もないことは知っていた。しかし、ベルを従属の吸血鬼しようと思ったことはない。
従属の吸血鬼は不老と俺と同じだけでの寿命を手に入れることができるが過去の記憶を失い、血を与えた者に逆らわなくなる。
それはまるで生き人形だ。
俺は、出会った当時のベルに惚れてこの85年間ずっと愛を深めてきた。彼女と別れなければならいない寿命のことを抜けば幸せな時間であった。
失敗したら……と考えるのは、やめよう。
愛しのベル。
「愛しているよ。ベル。行ってくる」
俺はそういうと床に放り出したままになっているローブと仮面を拾ってつけた。夜間の為、ローブのフードは外し、仮面もあたまの後ろにつけた。
「いってらしゃい」
と手を振るベルに手を振りかえすと部屋の外にでた。
「相変わらず砂糖の塊のような関係だな」
扉を出ると目の前にトンボおじさんがいた。美しいベルを見たと奴の顔見ると気が滅入る。
幸せから一気に地獄に落とされた気分だ。
俺はため息をついて廊下を進んだ。後からトンボおじさんが空中を飛びながらついてくる。
「トンボおじさんはいいのかよ。俺はニャルラトホテプに会いにいくんだ」
「私はトンボおじさんではない。オスカル・アレクサンダー・ルドルフ、妖精だ。ニャルラトホテプに会いに行くのは構わない。共に向かおう」
「怖くねぇのか」
「貴様は怖いのか? そもそもニャルラトホテプの名を出したのは私だ。怖くはない」
その言葉に驚いた。トンボおじさんが臆病だとは思っていないが俺の母からはいつも逃げていたのを思い出した。
はっきり言って俺は怖い。ベルが関わっていなければ絶対向かわない。
「会ったことあるのか?」
「ない。だが、興味がある」
興味……?
100年以上一生にいるがトンボおじさんの個人的な事をあまり知らない。
トンボおじさんの事をよきアドバイザーだと思っている。
少初期は勉強を奴に習った。
ナイフで獲物を狩る方法も奴が教えてくれた。それがなれば今俺はここにいない。
雑に扱ってしまうが感謝している。
「私が興味を持つのが不思議か? ニャルラトホテプとあった人間が戻ってこないと言うのは実に興味深い」
俺の心を読み取ったように応えるとニヤリと笑った。こんなに何かに興味を持つ彼をはじめて見たので驚いた。
いつもはなんて言うか、人生に興味なさそうにしている。
だからと言ってトンボおじさんに興味を持つことはできなかった。
外に出ると、太陽は完全に沈みあたりは真っ暗だ。いつもある月明りも今日はない。
闇で生きる者としては特に問題はなかった。半吸血鬼であっても夜は昼より行動しやすい。
しかし、妖精であるトンボおじさんは俺と正反対である。
「暗い」
「入っていいぜ」
「うぬ。よろしく頼む」
俺がローブを広げると、トンボおじさんは服の胸ポケットに中へ入った。
「しばらく休む。着いたら起せよ」
そう言った後は寝息しか聞こえなくなる。
トンボおじさんは俺が寝ている日中に村やベルの様子を見てもらっている。
そのため夜は寝る。だが、いつもはもう少し遅い時間に寝る。
今回はニャルラトホテプに会いに行くためいつもより早く寝て、夜に備えるのだろう。
ニャルラトホテプの住処を俺は噂でしかしらない。その噂も村に伝えられたものであるため、信憑性はあまりない。
しかし、それしか情報がない以上向かわなくてはいけない。
村から離れて1時間くらい経った。
随分と森の奥まで来たがニャルラトホテプの住処らしいものはない。
「ただの噂か……」
ベルとこの世界で過ごす方法はそれしかないのだが、その道も閉ざされてしまったようで気が滅入る。
俺はその場に座り込んだ。
ベルと出会ったのもこんな森の中であった。
俺はもともと人里離れた場所で母と二人で暮らしていた。人間と恋に落ち俺を生んだ母は他の吸血鬼に受け入れがたい存在となっていたようだ。
森の中はいつも薄暗く太陽の光が届かないため半吸血鬼の俺は日中も自由に外に出られた。
母は純血であるため、日が沈まないと家から出てこられない。
いつものように森で遊んでいると少女に声をかけられた。
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