第115話 海賊バルバロッサ兄弟(2) ~ウルージの最後~
船員についてはいつまでもヴェネツィアに頼る訳にはいかない。
この際、ロートリンゲンとして船員を雇い、恒久的な海軍を作ることにする。
船員を募集し、訓練も始める。
並行して軍船の新造及び改造も行っていく。
艦船は、軍艦が7隻、航空母艦が3隻の10隻体制となった。
そして数か月が経った頃。
アルジェで反乱が起こったという情報が入ってきた。
フリードリヒは決断した。
「よしっ。この機に乗じて一気に勝負をかける。出航の準備だ!」
「おーーーっ」
帆を張り、風魔導士に追い風を目いっぱい吹かせるとアルジェには一昼夜で到着した。
だが、情報によるとアルジェの反乱はほぼ終息しつつあるという。
敵は50隻もの海賊船を出して向かう捕まえだ。
「まずは空から攻撃する。ペガサス騎兵、魔導士部隊、
「おーーーっ」
航空母艦からペガサスが次々と飛び立っていく。
ネライダが命令する。
「まずは
フランメが魔導士部隊に命令する。
「僕らは撃ち漏らしを集中的に狙うよ。
炎よ来たれ。火炎の
そして
「我らも行くぞ。
「悪魔だーっ!」
海賊たちは恐ろしさのあまり逃げ惑まどっている。
そうこうしているうちに海賊船が大砲の射程に入ってきた。
砲兵隊のジョシュアが命令する。
「
海での射撃訓練の成果もあって、命中精度が格段に上がっている。
砲弾は次々と海賊船に命中し、大破させていく。
ウルージは焦った。
「とにかく白兵戦に持ち込むしかない。野郎ども根性を出してふんばりやがれ!」
海賊たちは必死に櫂を漕ぐ。
一部破壊され燃え上がりながらも10隻ほどの海賊船が軍艦に接舷してきた。
ウルージは叫んだ。
「こうなりゃこっちのもんだ。野郎ども。やっちまえ!」
「おーーーっ!」
海賊たちが勢いよく乗り込んでくる。
白兵戦になると銃は役に立たない。たちまち敵味方入り混じっての混戦となった。
ウルージは切断された左腕に鉤フックの義手を付けている。物語に出てくる海賊そのものだ。
「赤髪の野郎はどこだ。出てきて勝負しろ!」
アダルベルトへの復讐を狙っているようだ。
そこへアダルベルトが登場する。
「うるさいやつだ。ここにいるぞ」
「やっと出てきやがったな。この腕の恨み晴らしてやる」
ウルージがそう言うなり、激しい打ち合いが始まった。
揺れる船の上での足さばきはウルージに一日の長があるが、アダルベルトもこの数か月を無為に過ごしてきた訳ではない。
アダルベルトが
しかし、一瞬の隙をついてウルージは左手のフックを使ってアダルベルトの剣を絡めて取った。
優位を悟ったウルージは薄ら笑いを浮かべた。
が、そこに隙が生じた。
アダルベルトは、横にいた兵士から素早く剣を借り受けると渾身の力を込めた一撃を放つ。
ウルージは右手一本では受け切れず、そのまま袈裟切りにされ、大量の血を吹き出しながら絶命した。
「やべえ。親分がやられちまった…」
これを見た海賊たちは撤退していった。
戦闘の結果、50隻あった海賊船は10隻程度を残して沈没し、残った10隻程度も大破している状態だ。
海賊たちは要領が良く、半数程度が海へ逃げたが、死傷者は半数程度に上っていた。
──ここまで叩けば、しばらくはおとなしくしているだろう。
フリードリヒは、そう思ったが、それは最適な判断ではなかった。ここで一挙にアルジェを制圧しておくべきだったのだ。
フリードリヒの領土的野心のなさが裏目に出た形だ。
◆
海賊団はウルージの弟のハイレッディンが後を継いだ。
兄は暴力一辺倒の人物だったが、弟は違った。
ハイレッディンは頭が切れ、政治にも
ハイレッディンは、アルジェの反乱を終息させると、なんとアルジェをアイユーブ朝のアル=カーミルに献上してきたのだ。
アル=カーミルは副官の黒衣の男に問うた。
「もらえるものはもらっておけば良いではありませんか」
「しかし、海賊の後ろ盾になるなど、予の矜持が許さぬ」
「そのような綺麗ごとを言っていては国を傾けますぞ。ここはバルバロッサの奴めをとりこんで、地中海の覇権を盤石にしておくことが肝要です」
「わかった。そのようにしよう」
アイユーブ朝の支援を受け、海賊団は復活した。
そして以前にも増して盛んに海賊行為を行うと、大量の略抜品や奴隷をアイユーブ朝に献上したのだ。
◆
「まさかアイユーブ朝を利用するとはな…」
フリードリヒは呟いた。
これに対する対応をどうするか…
フリードリヒは、軍務卿のレオナルト・フォン・ブルンスマイアー、副官のレギーナ及び参謀のアビゴールと今後の策を協議する。
「できればアイユーブ朝とは事を構えず穏便に済ませられるといいのだが…」
「しかし、閣下。このまま放置というわけにはいきませんよ」とレギーナが釘を刺す。
「
「そんなことをしてアイユーブ朝と泥沼の戦争になればこちらが持たない。何らかのお膳立てが必要だ」とブルンスマイヤーが指摘する。
「幸い陛下はアル=カーミルとのパイプがあります。まずはこのルートで抗議の文書を送ってもらってはいかがですか?」とレギーナが提案した。
「それで成功する可能性は低いが、戦争をする前置きとしては確かにあった方がいいな。
あとはどうやって戦争を正当化するかだが…」
ブルンスマイヤーは少し考えるとおもむろに言った。
「被害を受けているフランスやイベリア諸国から要請を取り付ける手もありますが、それでは時間がかかり過ぎます。
ウルージは教皇の船を襲ったということで悪名が高かったことを利用して、教皇に討伐令を出してもらうのはどうです?」
「教皇か…こちらから下手に出てあまり借りを作りたくないのだが…」
「では、もう一度教皇の船を襲うように工作してはどうです? タンバヤ情報部なら可能なのでは?」とレギーナが言った。
「そうだな。やるだけやってみるか。それで上手くいかなかったら次善の手をもう一度協議しよう」
「「承知しました」」
◆
皇帝フリードリヒⅡ世に抗議の手紙を頼んだところ、こころよく引き受けてくれた。イタリアの諸都市からも同様の苦情が寄せられていたからだ。
また、皇帝自身、アル=カーミルは友だと思っており、友の暴挙は止めねばならないと使命に燃えたようだ。
フリードリヒⅡ世からの抗議文をもらったアル=カーミルは実際に
「友からこのようなことを言われては、予は耐えられぬ」
「何をおっしゃいます。国家運営と友情のどちらが重要かは自明ではありませんか」
「それは…そうなのだが…」
あくまでも黒衣の副官の男は冷徹だった。
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