第66話 下ロタリンギア平定(4) ~ブラバント・フランドル連合軍との決戦~
フリードリヒは、ブラバント・フランドル連合軍が視認できる位置まで軍を進めた。
そこでライン
「戦いは基本的に
地方領主連合軍はこの位置で待機しておいてもらおう。そのうえで細かな
「敵は
「数の問題ではない。現に対デンマーク戦争の時は10倍の敵を1日で敗走させたこともある」
「そこまで言うのならば止めはしないが…」
ヴェルフェンは納得していないようだ。
──実戦を一目見ればわかることさ。
「我々は
「
「なに。秘策があるのさ」
「マリー。頼む。」
フリードリヒがホムンクルスのマリーに指示を出すと、マリーは
これで敵陣からは
敵の
目の前で一瞬のうちに
そして(これならばあるいは…)と思った。
◆
ブラバント公とフランドル伯は
こちらは地理的に有利な場所に前もって完璧に布陣している。後は攻め上ってくる敵を逆に攻め下って
そう思っていたのに…
「敵の一部が視界から消えました」
ブラバント公とフランドル伯は報告を聞いて
フランドル伯は
「敵は軍の一部をどこぞに
「それが…一人も戻ってきておりません」
「とにかく追加で
「はっ」
フランドル伯は自分に言い聞かせるように言った。
「まあよい。こちらが有利な場所に陣どっている事実に変わりはない。多少の不利などいつでも
「そのとおりですな」
ブラバント公は同意した。
◆
その頃、フリードリヒは
フリードリヒは工兵隊に指示を出す。
「よし。例の物を準備しろ。
すべての準備を終えると、例によって太陽の周囲に光の輪が現れた。フリードリヒの水魔法による仕込みである
フランドル伯の兵やブラバント公の新兵は初めて見る神秘的現象に驚きを隠せないでいる。
その様子を確認すると、フリードリヒは「マリー。もういいぞ」とミラージュの解除を
マリーがミラージュを解除すると、敵の目に
敵陣に動揺が広がり、
丘の上という有利な場所とはいえ、前後を敵に押さえられたのだ。挟撃されたら丘の上というアドバンテージも薄れてしまう。
敵は半数をこちらに向けて陣を組み直そうとしている。
「遅い! 砲兵隊、
砲弾が敵を襲い、あちこちで爆発する。
爆風で兵士は傷つき、馬は音に驚いて逃げ出していく。
◆
「何だこれは!? 敵の魔法なのか?」
フランドル伯は
ブラバント公が答える。
「敵が神から
「魔法ではないのか?」
「左様です」
ブラバント公は説明する。
「敵の
「あの太陽にかかっている輪はそういうことではないのか?」
「確かにナンツィヒを攻めたときも
「あのような奇跡が偶然で起こるものか!」
「ですが、今回は大天使ミカエルが姿を見せておりません」
「大天使がそう何度も降臨するわけがなかろう!」
フランドル伯は急に不安になってきた。自分は神に
その間も砲弾の雨は降り続け、本陣のすぐそばにも着弾し、フランドル伯の側近がやられた。
いつ自分がやられてもおかしくない。
◆
そろそろ砲弾の数が減ってきた。念のため残弾を残して砲撃を一旦停止する。
「砲兵隊。打ち
ペガサス騎兵、魔道部隊、
彼らが悪魔の本性に戻るとその
これしきのことで驚いていてはフリードリヒには付いていけない。
この時点でブラバント公が集めた新兵はほとんどが逃走していた。まともな訓練を受けていない兵にこのような状況が耐えられるはずがないのだ。
いつものように、まずはペガサス騎兵が
ネライダが指示を出す。
「
爆風に巻き込まれた者は手足をもがれ、破片を浴びた者は血まみれになって痛みに
「続けて、
「ダダッ」という音とともに自動小銃の弾丸が敵兵士を襲う。
見方が次々と見えない何かに体を打ち抜かれ、敵兵士は当惑している。
それでも気丈な者は弓を打ち返してくるが、ペガサス騎兵には届かず、味方に当たる始末だ。
フランメが魔道部隊に命令をだす。
「よしっ。僕らもいくよ。
炎よ来たれ。火炎の
炎の矢の雨が次々と敵を襲う。服を燃やされた敵があちこちで火を消そうと
とどめは
「悪魔だーっ!」
敵兵士たちは恐ろしさのあまり逃げ
◆
フランドル伯は
既に味方の4割近くが死傷して使い物にならない。かといって空中の敵を攻撃する手段も思い当たらない。このままではジリ貧だ。
幸いここは丘の上、敵本陣へ一気に攻め下れば一発逆転もあり得る。
「敵本陣へ騎馬で攻め下れ。
騎士たちがランスを構え、フリードリヒの本陣めがけて次々と突撃していく。
◆
フリードリヒは、敵の騎士が突撃するのを見て心の中でニヤリとした。予想どおりだ。
この時代の騎士は馬鹿の一つ覚えしかできない。
フリードリヒは
「射程内まで引き付けて一斉射撃だ…今だ。
敵の騎士たちは自動小銃の弾に打ち抜かれ、次々と倒れていく。
それでも何騎かは弾幕をすり抜けて突撃してきた。
「今だ。馬防柵を立てろ!」
命令を受けた工兵体が寝かせてあった馬防柵を敵に向けて斜めに立てた。馬防柵の先端は
すり抜けて来た何騎かの騎士たちも突然に
騎士たちは落馬し、逃げようとするが自動小銃の餌食となっている。
「よし。もういいだろう。ブラバント公とフランドル伯の身柄を確保せよ。全軍、
敵はほとんど消耗しており、反撃も散発的だ。
それに対し、
ヘルミーネが「私も行くわ」と言い出した。
「いや。君は…」と言いかけたところでバイコーンに乗って駆け出してしまった。
それを
ヘルミーネの武器はレイピアで馬上での戦闘には向かない。
フリードリヒが追いついた時には、馬から降りて
さすが長年フリードリヒとともに鍛えただけあって、並みの歩兵では太刀打ちできない。
──ちょっと過保護だったかな…
と思った矢先。
同じレイピアを持った女兵士がヘルミーネの前に立ちはだかった。
しかし、強い。オリハルコン級の強さではないか。
ヘルミーネは防戦一方となり、徐々に追い詰められていく。
フリードリヒは見るに見かねて割って入った。
が、よく見るとエリーザベトではないか。相変わらず神出鬼没なやつだ。彼女ならばあの強さも納得できる。
「おまえがこんなところで何をやっている?」
「
でも、あんたが出てきたんじゃもう潮時だね。金は前金でたっぷりもらっているからこの辺でとんずらさせてもらうよ」
というなりエリーザベトは風のように姿を消してしまった。
「何よあの女。知り合いなの?」
ヘルミーネが
「
「ふ~ん。そういうことにしておいてあげるわ」
女の勘は鋭い。何か裏があると勘づいたらしいが、ここは見逃してくれるようだ。
そこで歓声が上がった。
第2中隊のカロリーナがブラバント公の身柄を確保したらしい。
時を置かずして新たな歓声が上がる。
今度はアダルベルトの第1中隊がフランドル伯の身柄を確保したようだ。
これにより、敵兵士の抵抗は納まり、騎士や一般兵士も投降してきた。
ブラバント公軍の方は半数が逃走したおかげで死傷者は3割程度だったが、生き残った者はやはりほとんどが
逃走したブラバント公の兵だが、ライン
まあ、地方領主連合軍にも多少の戦利品は必要だからこれはこれでいいだろう。
こうして、ブラバント・フランドル連合軍との決戦は終結を迎えた。
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