閑話8 消える下着 ~匂いフェチ~
ある日、俺付きの侍女のコンスタンツェに突然言われた。
「フリードリヒ様。下着はきちんと洗濯に出してくださいね」
「えっ。どういうことだ。きちんと出しているつもりだが」
「でも、ストックしている下着の数が足りないんです。どこかにほったらかしになっているんじゃありませんか」
「もしかして、リーゼが失くしてしまったとか…」
「最初の頃はともかく、今のリーゼはきちんと仕事のできる子です。人のせいにしないでください」
「…………」
──では、いったいどうだというのだ。
「とにかく、無くなった分は商会から補充しておくよ」
「お願いしますね」
◆
廊下でメイドのリーゼロッテとすれ違うったので、いちおう聞いておく。
「リーゼ。お前に渡した私の下着を失くしたりしてないよな」
「それはもちろんです」
「ちゃんと洗い場まで自分で持っていっているんだな」
「はい。いつもは」
「違うこともあるのか」
「そういえばこの間、ヴェロニアさんに会って『それ旦那の下着だろ。それならあたいが洗い場まで持っていってやるよ。』って言われたので、渡しました。そういうことが何回か…」
犯人はヴェロニアか。しかし、いったい…。なんとなく想像がつかないでもないが…。まあ、たいして高いものでもないし。つまらないことで責めてパーティーの関係が悪化するのも良くない。当面は放置だ。
◆
その後、ある日の夕食後。
パーティーの女子たちが談笑していた。
ローザが突然真顔になり、口火を切った。
「ヴェロニア。あなたあの人の下着を盗んだわね」
「えっ!」
「隠してもだめよ。リーゼから受け取った下着を部屋へ持ち込むのを見たわ。どういうつもりなの!?」
「けっ。バレちまったものは仕方ない。こうなったら自棄だ」
そう言うとヴェロニアは続ける。
「なあ。旦那ってスゲーいい匂いするよなぁ。わかるだろ」
皆、否定はしないが、積極的に肯定もできないといった顔をしている。
「あたいなんか鼻がいいからさ。戦闘中なんかで旦那が汗をかくと匂いでクラっときちまうことがあってさ。でも、戦闘中に匂いを嗅いでたりしたら魔獣にやられちまう。だからさ…」
「それで盗んだと…。」とローザ。
「どんな理由があってもそれは犯罪ですわ」とヘルミーネが断罪する。
「そうです。許せません」とベアトリスも同調した。
「ミーシャはわかるにゃよ」と1人超然とヴェロニアに賛同するミーシャ。
そしてネライダとプドリスは茫然とした顔で沈黙している。話についていけないのだろう。
しかし、ヴェロニアは気にしていない。自分の世界に入ってしまっている。
「あたいも汗の臭いが好きな訳じゃねえんだ。それとは違う男の匂いっつうの…それがたまんなくてさ…。わかるだろ」
「「「「うん、うん!」」」」
もはや皆ヴェロニアに同調している。
「誰にも邪魔されずに旦那の匂いを嗅いでるとさぁ。胸がキューっとなっちまって、おもわず手が…へ…」
「そ、そんな破廉恥な!」ヘルミーネが声を上げる。
「そうです。それは神への背信行為です」ベアトリスが続ける。
そして、絶句して目を白黒させているネライダとプドリス。2人には刺激が強すぎたようだ。
ローザは余裕のありそうな表情で皆を眺めている。
「そうかい?あたいも昔のパーティーメンバーにいた姉御に教えてもらったんだけど。普通にみんな自分で慰めてるって言ってたぜ」
「「「「普通………?」」」」
「あたいもずっと男嫌いだったからそのままになってたんだけど、旦那に会ってから思い出してさ。試してみたらやめられなくなっちまって…」
「それで、具体的にはどういうことですの?」
「なんでぇ。なんだかんだ言って興味あるんじゃねえか」
「いえいえ。これは間違ってそのような羽目にならないように聞くだけです。予防のためですわ。予防の」とヘルミーネが言い訳する。
「まあいいさ。あのな、××を××したり、××を…」
もはや皆、真剣そのもので聞いている。
「あたいは持ってねぇけど、道具を使うやつもいるらしいぜ」
「「「「道具ぅ!?」」」」
今度はローザも少し驚いたようだ。
「町にぁそういう店もあるみたいだぜ。恥ずかしくて自分では行けないけどな」
「…………」
皆、絶句している。
そのまま気まずい雰囲気になって、自然、その場は流れ解散となった。
◆
「フリードリヒ様。また下着が失くなっているのですけれど…。こんどはたくさん」
コンスタンツェにまた言われた。
「たくさん?」
「ヴェロニア1人ではなかったってことか。まったくうちの女子連中ときたら…」と呆れるフリードリヒ。
「やっぱり心当たりがないから、おおかた妖精のいたずらか何かだろう。それだと防ぎようがないから。あきらめるしかないな。また補充しておくよ」
「承知いたしました」
納得しかねる顔をしていたが、コンスタンツェは引き下がってくれた。
◆
私はコンスタンツェ。フリードリヒ様付きの侍女だ。
今日、フリードリヒ様にまた下着がなくなったことを報告した。
本当は、犯人には薄々心当たりがあるのだが、告げ口のようになるので控えておいた。
フリードリヒ様も薄々わかっているようなのだが、放置することに決めたようだ。
──それならば、私も…。
結局、私って…ダメな女?
◆
私はベアトリス。神に仕える修道女…のはずだった。
ヴェロニアさんにあの話を聞いてから良からぬことが頭を過り、悶々とした日々を送ってきた。
我慢に我慢を重ね………ついにやってしまった。この手にフリードリヒ様のシャツが一枚。しかも今日脱ぎたてだ。
──おお神よ。哀れな子羊をお許しください。
しかし、ここまでやって止まれるはずもない。
フリードリヒ様のシャツを顔にあて、匂いを嗅ぐ。
「すうーー。はぁーー。すうーー。はぁーー」
ああいい匂い。ヴェロニアさんの言うとおり、胸がキュンとしてくる。
「それでぇ。こうするん…だったよね」
私は服をはだけると…。
「痛っ!」ちょっと強すぎたか。
フリードリヒ様はこんな乱暴にはしない。
フリードリヒ様のことを想って、やさしく…やさしく…。
だんだん上達してきた。
そして日々罪を重ねていく私だった。
──おお。神よ。迷える子羊をお救いください。
◆
いつものようにあの人の血を吸わせてもらった後、いつものキス。
ヴェロニアの話を聞いてしまったこともあって、気持ちが高ぶっていた私は貪るように積極的になってしまった。
「今日のはいつもより情熱的だったね。悪くない」
──自分で慰めるなんて…我慢できないわ。
「私はいつでも準備できていましてよ」
「準備?」
あの人には意味が伝わらなかったようだ。
私は意を決してあの人の手をとると、私の胸にあてた。
「そういうことか。察しが悪くてごめん。でも、本当にいいのかい」
私は言葉に出すのが恥ずかしく、かすかに頷くのが精一杯だった。
あの人は愛おしそうに私を見つめ、やさしくもう一度キスをすると、やさしく髪を撫でながら次は首筋、鎖骨のあたりへと徐々にキスをしていき、私の胸を開けさせる。そして…。
日を改めて回を重ねるにつき、行為はエスカレートしていき、ついにその日は来た。
「君の××で私の×××を×××××くれないか。」
以前にも言われたこの言葉。
もはや私には何の抵抗感もなかった。これも2人の積み重ねの結果だと思った。
最初はぎこちなかった私も徐々に上達していった。
でも、最後の一線は越えていない。そこは、あの人が成人になってからということなのだろう。
私は構わないのに、なんて律儀な。でも、待つのも楽しみ。
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