第7話 姫騎士と修道女 ~人族の仲間~

 ヘルミーネ・フォン・ザクセンはロートリンゲン地方の上ロタリンギアにあるモゼル公国のモゼル公爵の一人娘である。


 彼女にはなんとしても果たしたい夢があった。それは騎士になることであった。


 この女性蔑視べっしの酷い世界でも、女騎士は存在していた。ただ、騎士とせざるを得ないような飛びぬけた才能を持つごく一握りではあったが。


 それはまだヘルミーネが7歳だった頃。

 皇帝の近衛騎士団が国内巡回のためモゼル公国に立ち寄った。その時、示威のため近衛騎士団の観閲式が執り行われた。


 その中に女騎士がいたのである。女騎士は末席ながら第5騎士団の団長の地位にあった。

 その煌びやかな甲冑と女の美しい容姿にヘルミーネは一瞬で夢中になった。


 式の後、模擬試合が行われた。女騎士の相手は、身長は2mに届こうかという大柄で筋肉質な男だった。誰もが女騎士が哀れに打ちのめされる姿を想像した。


 しかし女騎士は勝ったのだ。飛びぬけた技量で相手の攻撃をかわし、受け流し、隙を見て相手の急所を一撃した。


 相手の男は気を失い。どさりと倒れる。


 次の瞬間女騎士を称賛する歓声と男を非難する怒号が混ざった大音響がこだました。


 ヘルミーネは感動した。女でもあんな強そうな人を倒せるんだ。


 ──私も騎士になりたい。


 その瞬間、ヘルミーネの生涯の夢が決した。


 ヘルミーネは、父に剣の修行がしたいと懇願した。最初は渋っていた父だったが、目に入れてもいたくない一人娘の頼みだ。子供のうちは少しくらいの我がままは許そうとついには折れた。


 師匠は公国の騎士団長ということに決まった。本人の熱意もあり剣の腕はメキメキと上達した。

 剣士としての基礎をほぼ習得したとき、騎士団長は言った。


「姫様。武器はどうなさいます?」

「当然。レイピアよ」


 例の女騎士が使っていたのがレイピアだったので、ヘルミーネとしては他の選択はあり得なかった。


 レイピアは比較的最近に開発された細身の剣である。軽いので女性でも扱いやすい。切るよりも突くことに特化した武器であった。発達著しい鎧の隙間を狙って突き刺すのである。


 ヘルミーネはレイピアを見事に使いこなし、騎士団長も舌を巻くほどの腕へと上達していくのであった。


 しかし、騎士団長は思うのである。


 ──貴族の妻に剣の腕は無用だ。お嬢様が騎士爵家の男児として生まれていれば幸せだったものを…。


    ◆


 ヘルミーネが12歳で成人を迎えた時、結婚の話が持ち上がった。

 相手は下ロタリンギアのブラバント公。


 ブラバント公は40歳過ぎ。平均寿命がおよそ50歳のこの世界では老齢といっていい年齢だ。

 先妻に先立たれたので、その後釜にということなのだが、既に世継ぎもおり、正妻の座を埋めるだけのお飾りであることは誰の目にも明らかだった。


 ヘルミーネはあせった。このままでは騎士になれない。

 ヘルミーネは国を出奔することを決意する。冒険者として腕を磨き、いずれはどこかの国で仕官して騎士になるのだ。


 装備を整え、最低限の荷物と路銀を持ったヘルミーネは、城の者が寝静まった夜間、ひっそりと城を抜け出そうとしていた。


 しかし、そこを光に照らされ立ちすくんでしまう。警備のため巡回していた従卒に見つかってしまったのだ。


「誰だ!」


 灯りで照らされた眩しさに腕で顔を覆うが、女性であることは一目瞭然だ。


「まさか。姫様?」


 この城の女性で剣を使うものなどヘルミーネ以外にいない。


「ここは見逃してちょうだい。私は騎士にならなければならないの」

「まさか城をお出になるおつもりですか?」


「そうよ。あんなお爺さんのところに嫁にいくなんて、まっぴらごめんだわ」

「お考え直しくだせえ。ご領主様のお気持ちもお察しになって…」


「いやよ。あり得ないわ」

「…………」考え込む従卒。


「お1人ではあまりにも危険だ。せめてあっしをお連れ下せえ」

「………わかったわ。ここを見逃してくれるなら、そうしましょう。あなた名前は?」


「ジョシュア・サンチェスと申します」

「そう。ではジョシュア。あなたもすぐに荷物をまとめていらっしゃい」


 ジョシュアは今年14歳で成人を迎えたばかりの新米兵士で、バスタードソード(両手・片手両用の長剣)の使い手。剣の腕は新米ならではといったところだった。


 そうして2人はひそかに城を出るのだった。


    ◆


 翌日。2人がいないことに気づき、おそらく捜索隊が出されているはずだが、2人はまだ発見されていなかった。ただ、公国内にいてはいつ発見されるかわからない。一刻も早く国外へ出る必要があった。

 しかし、ヘルミーネはお嬢様で剣の修行ばかりしていて公国の地理には明るくない。それはジョシュアも同じであった。


「姫様。あっしの故郷がマインツ大司教のご領地にございます。そこまでの道順ならなんとかわかります」

「『姫様』はおよしなさい。身分がバレてしまうわ。せめて『お嬢様』にしてちょうだい。それにしても…他に方法はなさそうね。とりあえずマインツ大司教のご領地に向かいましょう」


 神聖帝国では、教会も貴族と同様に領地経営を行っていた。大司教ともなると多くの司教区を統括する大勢力である。事実、マインツ大司教は皇帝を選ぶ選帝侯の一人でもあった。


 2人は大司教の領地へと道を急ぐ。


    ◆


 ベアトリス・フォン・ヴィッテルスバッハはマインツ大司教の5女である。

 修道女として修練を積んだ彼女には光魔法の才能があり、ヒーラーとしの腕前はなかなかなものだった。


 彼女は10歳。後2年したら成人であり、そろそろ婚約の話があってもおかしくない年頃である。

 しかし、いくら大司教の娘でも5女ともなると嫁ぎ先が知れたものではなかった。


 このため、彼女はヒーラーとしての腕を活かして冒険者となり、自分の力で生きていくことをいつしか夢見ていたが、なかなか行動に移せないでいた。


    ◆


 ヘルミーネはとジョシュアは司教座のあるマインツの町に着いた。ジョシュアは大司教の領地といっても田舎の出身であり、マインツの町には明るくない。


 様子がわからずきょろきょろとしていると、前方から修道女が早足でやってきた。

 ジョシュアは修道女に気づくのが遅れ、ぶつかってしまった。倒れた拍子に腕を擦りむく。


「痛たたた…」

「たいへん申し訳ございません。急いでいたもので…。あっ。怪我をさせてしまいましたね。すぐに治します。腕を見せてください」


 ジョシュアは修道女に腕を見せる。


「大した怪我ではなさそうですが、一応治しておきますね。光よ来たれ。癒しの光。ヒール」光の回復魔法だ。

 みるみる傷が治り、跡形もなくなった。


 ジョシュアは初めての体験に感動している。


「す、凄い」

「では。私は急いでいますので…失礼します」修道女は行ってしまった。


 ヘルミーネは「もう。頼りないんだから」と文句を言う。しかし、新米兵士に色々求めるのも酷というものであろう。

 しばらく町を探索していると、司教座の建物が見えてきた。


 そこでヘルミーネは思いついた。

「教会といえばヒーラーがいるのよね。冒険者にはヒーラーが必要よ。教会で紹介してもらいましょう」


 教会に着いた。


「私は冒険者のヘルミーネと申します。教会のヒーラーをぜひ紹介して欲しいのですが…」

「教会ではお布施をいただいて治療することはあっても、冒険者にヒーラーを派遣するなどありません。教会をなんだと思っているんですか」


 教会は権威ある組織であり、冒険者など見下していることをヘルミーネは知らなかった。お嬢様ゆえの世間知らずとも言えよう。


「何よ。お高くとまっちゃって」


 ヘルミーネはぷんぷん怒っている。公爵家の娘であることを明かせば対応も違ったのかもしれないが、今はそれもできない。


 ヘルミーネは思案する。

 そうだ、先ほど会った修道女はヒーラーだった。あの娘に声を掛けてみよう。少し若かったけれど、腕は確かそうだった。


 翌日。ヘルミーネたちは昨日会った修道女がいないか教会の近くで見張っていた。

 夕刻近くになって、今日はもうあきらめようと思った矢先、彼女は現れた。


「ちょっとあなた」

「あっ。昨日の…」


「あなたヒーラーなんでしょ。昨日の腕は見事だったわ。私たちの冒険者パーティーに入れてあげてもよろしくてよ」


(入れてあげる? なに? この高飛車な女性は?)と思う修道女。


「あのう。他にメンバーの方は?」

「今のところ私とジョシュアの2人だけね」


 悪びれもせず、ヘルミーネは答えた。


「それで魔獣退治というのは、心もとないのではないでしょうか?」

「も、もちろんよ。今はメンバーを充実させようとしているところなの。そういえば名前を聞いていなかったわね。私はヘルミーネ。そしてこちらはジョシュアよ」


「ベアトリス・フォン・ヴィッテルスバッハと申します。」

「あら。もしかして大司教様のご子息なの」


 ヘルミーネは大司教と聞いても動じる様子がない。そういえばジョシュアという男も従者のように見える。そうすると貴族か大商人の子息だろうかとベアトリスは思った。


「そうです。大司教の5女になります」

「あら。5女ともなると嫁ぎ先も期待できないわね。あなたの腕があれば冒険者として生きる方が道が開けるかもしれないわ」


 痛いところ突かれるベアトリス。

 一人では踏ん切りがつかなかっただけにいい機会ではあるのだが、この2人ではいかにも頼りない。


「今すぐには決断できないので、少し考えさせてください」

「わかったわ。期待して待っているわね」


 それからヘルミーネはベアトリスのところに毎日訪ねてきた。


 ベアトリスは悩む。父に相談しようにも教会は冒険者を見下しており、とても許しが得られるとは思えなかったからだ。

 そうすると家を出奔するしかないのか。しかし、ベアトリスは修道女としての自分に誇りを持っていた。父の怒りに触れ、破門でもされたら目も当てられない。苦悶するベアトリス。


 ヘルミーネが訪ねてくるようになって1週間が経った。ベアトリスの熱意に打たれる。

 考えた挙句、ベアトリスは父への言い訳を思いついた。

 この世界には、聖地を巡礼する習慣がある。修道女としての経験を積むため、聖地巡礼の旅に出るという方便を使ってはどうだろう。というか、それに賭けるしかない。


「わかりました。あなたたちの熱意に応えて、パーティーに入りましょう。準備があるので、出立は明日の夕刻ということでよろしいですか」


「大司教にだまって出奔するつもりなの」

「まともにお願いしても許してもらえるとは思えませんから、強硬手段です」


「あなた。思いきりがいいのね」

「苦渋の選択です」

「わかったわ。では、明日」


 翌日の夕刻。ベアトリスは「経験を積むため巡礼に行く」という置手紙を残し、2人とともに人目を避けながらマインツの町を出立した。


 ベアトリスは尋ねる。


「これからどちらへ向かうのですか」

「バーデン辺境伯領にある黒の森シュバルツバルトは魔獣の宝庫で冒険者が多いと聞いたわ。ここからも近いし、行ってみましょう」とヘルミーネ。


「わかりました。そこで仲間を募集するのですね」

「そうよ」


    ◆


 ヘルミーネ一行はバーデン=バーデンの町に着き冒険者ギルドへ向かう。

 形式どおり冒険者登録をした。当然、Eランクからのスタートだ。


 ヘルミーネは、ギルド職員に相談してみる。


「パーティーメンバーを募集したいのだけど、どうすればいいかしら?」

「掲示板に募集の掲示をすることができます。ですが、Eランクだとなかなか集まらないことが多いです。

 入れてもらえそうなパーティーに直接声を掛けた方がいいかもしれません」

「なるほど。わかりました」


 そうはいってみたものの、見渡すと強面こわもての冒険者ばかりで、声をかけるのも気が引ける。


「………まずは掲示板を見てくれる人もいるだろうから、様子を見ましょう」


 しかし、1週間経っても何の音沙汰もなかった。


 ヘルミーネは、勇気を振り絞って冒険者に声を掛けてみる。


「あなたたち。よろしければ、私たちのパーティーに入れてさしあげてもよろしくてよ」

「なんだてめえ。舐めてんのか。俺たちの仲間に入りたきゃ最低でもシルバーになってからだ。出直しな」


 いくつか聞いてみたが、ヘルミーネの高飛車な態度もあり、似たり寄ったりの反応だ。


「あのう。お嬢様。さすがにその頼み方は…」

「………わかったわ。それでは選手交代よ。ベアトリス。お願い」

「私も自信はないのですが…。とにかくやってみます」


 あの女性ばかりのパーティーがよさそうだ。


「失礼いたします。私たち冒険者を始めたばかりなのですが、パーティーに加えていただけませんでしょうか」


「私たちが『疾風のヴァルキリー』と知って聞いているの」

「いえ。失礼いたしました」


「まあいいわ。だいだい察しはつくけど、ランクは?」

「全員Eランクです」


「疾風のヴァルキリーに入りたければ、見習いから始めるとしても最低カッパーじゃないと」

「わかりました」


 結局、まずは簡単な採取のクエストから始めて堅実にランクを上げていくのが常道なのだろう。

 しかし、これはヘルミーネの性に合わない。


「森の奥までいかなければ、魔獣もそんなに強くないというわ。まずは、入り口近くで弱い魔獣を狩ってみましょう」

「お嬢様。いきなしそれは危険なのでは」と気の弱いジョシュアがこれに食い下がる。


「大丈夫。いざとなればベアトリスが治してくれるし」

「そうですか」ジョシュアは不承不承引き下がった。


    ◆


 フリードリヒのパーティーはいつもどおり黒の森シュバルツバルトで狩をしていた。午前の狩を終わり、昼食場所を探していた時。

 千里眼クレヤボヤンスで辺りを探っていたフリードリヒが異変を察知した。


「人族どうしで争っているな」


 どうも多勢に無勢だ。男1人女2人のパーティーが大勢に襲われている。冒険者狙いの盗賊か? そういえば手配書が回っていた。懸賞金が掛けられていたはずだ。


「旦那。やめときなよ。そんなのに関わっても一文の得にもなりゃしない」と釘を刺すヴェロニア。

「う~ん。そう言われてもなあ」と煮え切らないフリードリヒであった。


    ◆


 ヘルミーネたちは黒の森シュバルツバルトに入って狩をしていた。


「この変な兎くらいならなんとかなりそうね。群れでこられるとちょっと大変だけど」


 ヘルミーネたちは一角ラビットを10羽ほど狩っていた。


 次の獲物を探していた時、身長2mはあろうかという大男とそのとりまきたちが前に立ちふさがった。いかにも悪人面をしている。


「いいカモのご登場だぜ。お前ら身包みぐるみ置いていけ」

「あなたたち何なの?」

「見てわからねえのかよ。盗賊に決まってんだろ」


 ジョシュアは、健気にもヘルミーネたちの前へ出て剣を構えている。だが恐怖のため剣先は震えている。


「男はどうでもいい。とりあえず殺っちまえ。女は傷つけるなよ」

「よっしゃー!」襲いかかる盗賊たち。


 ジョシュアは一撃で剣を叩き落とされ、腹部を刺された。

「ううっ」腹部を手で押さえうずくまるジョシュア。手が血でべったりと汚れているのを目にすると失神してしまった。


「あっ。いけない。光よきたれ。癒しの光。ヒール!」ベアトリスが回復魔法をかける。


 ヘルミーネは善戦しているが、ベアトリスの方は戦闘職ではない。あっという間に拘束されてしまった。

 ベアトリスを拘束していた盗賊が首筋に剣を突きつける。


「この女の命が惜しけりゃ抵抗をやめろ!」


 一種の躊躇の後、ベアトリスは抵抗をやめ、レイピアを放り投げる。


「この卑怯者!」

「気に入らねえな」


 頭目と思しき男がヘルミーネの顔面を殴りつけた。ヘルミーネは吹き飛ばされ、仰向けに倒れると痛みにうめいている。


「こっちの生意気なやつから相手してやる。おまえら押さえとけ」

「へい」


 手下が4人がかりでヘルミーネの手足を押さえつけた。


「あなたたち。こんな背信行為をしていたら神罰が下りますよ!」ベアトリスは大声で叫ぶ。

「神なんかいねえんだよ。いるならもう神罰とやらが下っているはずだろ」

「…………」言い返せないベアトリス。


「さて…」


 おもむろにヘルミーネの甲冑を脱がす。


「俺様はまだるっこしいのが嫌いでな」


 そういうとナイフでヘルミーネの服を切り裂いていく。


「やめなさい。やめてー!」必死に懇願するヘルミーネ。

 ベアトリスも「やめて。誰か。誰か助けてー!」と叫んでいる。


 ヘルミーネの胸が露わになり、やがて服の切れ端を残してほぼ全裸になってしまった。


 頭目が下半身を露わにする。

 屹立する大きいものを目にしてヘルミーネは「きゃーーーーっ」と大きく悲鳴を上げた。


「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ…」恐怖のあまりもう悲鳴を上げる余裕もないようだ。


「俺様は気が短いんでな。いきなりいかせてもらうぜ」


 頭目は×××をヘルミーネの××××に押し当てる。


 その時、頭目の側頭部を激しい蹴りが襲い、数メートルも吹き飛ばされた。軽い脳震盪を起こしたらしく、起き上がれずふらふらしている。


「ふん。丈夫な野郎だ」


 白銀の仮面を付けた、不気味な雰囲気の男。言わずと知れたフリードリヒだ。後ろには武装した女が3人控えている。


 頭目の男が近づいてきた。

 が、下半身を露わにした姿はしまりがない。


「いいところを邪魔しやがって。誰だてめえは?」

「白銀のアレクを知らないとはもぐりか?」


「そんな小者。知るかよ。それにしてもいい女を連れてるじゃねえか。まとめて楽しませてもらうぜ。」

「へっへっへっ…」といやらしく笑う盗賊たち。


「…………」


 女子メンバーをいやらしい目で見られ、フリードリヒはブチ切れた。

 有無を言わさず疾風のような速さで盗賊たちの手を切り飛ばしていく。


「旦那。あたいたちの獲物も残しといてくれよ」ヴェロニアが苦情を漏らす。


 女子メンバーたちも戦闘に参加する。


 ベアトリスを拘束していた盗賊が首筋に剣を突きつけ「この女の命が惜しけりゃ抵抗をやめろ」と喚いている。

 フリードリヒは躊躇なく闇魔法のスタンアローを放つと、盗賊は意識を失って倒れた。


 今度はヘルミーネを拘束していた盗賊が首筋に剣を突きつけ「この女の命が…」と言いかける。こちらも躊躇なくスタンアローでかたずける。


「学習能力がないのか。お前ら」


 残るは頭目だけだ。


「観念しろ!」

「しゃらくせえ!」


 頭目が襲いかかってくる。得物はいかにも盗賊らしくバトルアックスだ。

 フリードリヒはまともに打ち合う間もなく、盗賊の首筋に剣を突きつけた。


「ゆ、許してくれ。俺が悪かった」盗賊の顔は恐怖で引きつっている。


「ダメだな。お前だけは許せない」


 フリードリヒはボソッと言うと、剣を一閃した。盗賊の首がポトリと落ちる。


 酷薄なようだが、この世界では刑罰は厳しく、頭目は斬首ざんしゅを免れなかったであろうことは間違いない。また、死刑以外の刑罰も手足などを切り取られる身体刑が中心だった。


 どの道この者たちは賞金首。賞金首はデッド・オア・アライブが当たり前である。


 続いて、残る盗賊たちを後ろ手に縛り、首にも縄をかけ、数珠繋じゅずつなぎにしていく。引っ張られると首が締まる、いわゆる盗賊縛りだ。


 一息ついたフリードリヒがヘルミーネの様子をうかがうと体を隠すでもなくほうけていた。思わず彼女の秘所が目に入ってしまう。

 視線が合った瞬間、ヘルミーネは正気に戻り「きゃっ」と小さく悲鳴をあげ、あわてて体を隠す。


 ネライダが「主様。見ちゃダメー」とフリードリヒの視線をさえぎってきた。

 フリードリヒはマントを外し、ローザに手渡した。ローザは察したらしく、ヘルミーネの体にかけてやる。


「助けるならもっと早くきなさいよね。まったく…」とヘルミーネは怒っている。


 怒られる筋合いなどまったくないと思うのだが…。


「この度は助けていただき。ありがとうございました。ギリギリでしたがヘルミーネさんの貞操は守られました」


 ベアトリスは素直にお礼を言ってきた。


 一方、倒れている男の様子をうかがう。


 服にかなりの血がついているが、既に治療されている。ベアトリスは修道女の恰好をしているから、彼女が光魔法で治療したのだろう。


「おい。起きろ」


 フリードリヒは男の頬をかるく叩き刺激を与える。

 男は低く呻くと意識をとりもどした。


「はっ。お嬢様は?」

「あっちだ」


「お嬢様。大丈夫でございますか。えっ。この格好は?」

「いろいろあったのだが、お前は知らない方がいい。とにかく私たちが助けたのだ」


「そうですか。それはどうもありがとうございました」


 この男。従者か何かのようだ。(そうすると女の方は貴族か大商人の娘といったところか)とフリードリヒは推察する。


 落ち着いたところで、盗賊たちを警吏にわたすため町へ引っ立てていく。

 警吏は領主ではなく町に雇われた治安維持のための役人で、警邏や犯罪者の逮捕を仕事としている。


 道すがら事情を聞くことにする。


「お前。名前は?」

「ヘルミーネよ」


 庶民とも思えないが、あえて姓を名乗らないようだ。素性を探られたくないのだろう。ここはスルーしておいてやるか。


「ベアトリス・フォン・ヴィッテルスバッハと申します」


「『ヴィッテルスバッハ』ということは、大司教のご子息か?」

「ええ。私は5女ですが」


「それが何でこんなところに?」

「ヒーラーとしての修養を積むためです」


「あのお高くとまっている教会が冒険者とは珍しいな」

「中にはそういう者もいるのです」


 まあ、追及はこの辺で許してやろう。


「あっしはジョシュア・サンチェス。ヘルミーネ様の従者をやっております」

「そうか」


 弱そうだし。男には興味はない。


 町に着き盗賊たちを警吏に引き渡す。


「おお。これは手配中の盗賊ではないか」

「それからこっちが頭目だ」


 フリードリヒはマジックバックから死体を取り出す。


「おう。頭目まで倒すとは大した腕だな」

「馬鹿。あのマスクを見ろ。白銀のアレクだぜ」

「なるほど」


「賞金は私のギルド口座に入れておいてくれ」

「わかった」


「次はヘルミーネの服を調達しないといけないな。商会へ行こう」


 商会へ着く直前、フリードリヒはマスクを外した。商会へはフリードリヒとしていくしかない。

 ヘルミーネたちが驚いた目でフリードリヒを見ている。おおかたマスクで傷でも隠していると思っていたのだろう。


「なぜ。そんなマスクを?」とベアトリスが訪ねてくる。

「ちょっと訳があってな。たいしたことじゃない」


 商会に着くと店員が驚嘆の目でフリードリヒたちを見ている。


「会長。いったいどういうことで…」

「ああ…。とにかくこの娘に新しい服を見繕みつくろってくれないか」

「承知いたしました」


 店員はヘルミーネを連れて店内に入っていく。


 例の女性店員が擦り寄ってきた。


「フリードリヒ様ぁ。またやっちゃったんですか?」

「またお前か」と内心思うフリードリヒ。


「お前。そういえば名前は…」

「酷い。私、名前すら憶えてもらってないの。くすん。くすん」


「いや。ど忘れしただけだ。確かレナーテだったよな」

「違う~。私はベリンダ。もう扱いが適当なんだから。酷すぎる~~~!」


 そうこうしているうちにヘルミーネが新しい服を着て出てきた。


「なかなか似合ってるじゃないか」

「当然よ」ヘルミーネはなぜかふんぞり返っている。


「どういう女なんだ。わからん」と理解しかねるフリードリヒ。


「宿はとってあるのだろう?」

「ええ。常宿が確保してあります」とベアトリスが答えた。

「では宿まで送ろう」


 その日は、ヘルミーネ一行を宿まで送り、別れた。


    ◆


 翌日。ギルドに顔を出すと、ヘルミーネ一行が待ち構えていた。


「あなたたち。よろしければ、私たちのパーティーに入れてさしあげてもよろしくてよ」

「あのう。お嬢様。ですからその頼み方は…」とジョシュアが小声で言っている。

「間にあっている」と素通りするフリードリヒ。


 ベアトリスはヒーラーだから、パーティーに参加するならフリードリヒの負担が減る。ヘルミーネは前衛だろうが、あの実力では特に必要ない。ジョシュアに至っては論外だ。ベアトリスだけOKなんていったらヘルミーネが黙っていないだろう。

 ヘルミーネは悔しそうに唇を嚙みしめて硬直している。


 翌日も翌々日もヘルミーネ一行は待っていた。そして1週間が経った。

 今日もヘルミーネ一行は待ち構えていた。

 声もかけられず硬直しているヘルミーネ一の前をフリードリヒが素通りする。


「主様。よろしいのですか?」


 ネライダが口を開いた。さすがに可哀そうになったのだろう。ネライダは優しいね。


 この機会しかないと思ったのか、ベアトリスが話しかけてくる。


「アレク様。私たちにはあなたたちしか頼れる人がいないのです。助けていただいた身でありながら図々しいのは承知のうえです。私たちをパーティーに参加させていただけないでしょうか」


 ローザ、ヴェロニア、ネライダ、ミーシャが一斉にフリードリヒの挙動に注目した。どうやら彼女たちとしてはOKのようだ。ならば仕方がない。


「さすがにジョシュアは勘弁してくれ」

「あっしはだだの従者ですから。最初から参加するつもりはねえです」


「決まりだな」とヴェローザが呟いた。

「ありがとうございます。感謝いたします」とベアトリスが礼を言う。


 ヘルミーネは赤い顔をしてそっぽを向いている。どこまでも素直じゃないやつだ。


「それでは今日は黒の森シュバルツバルトにいってパーティーの連携を確認しよう」

「では、あっしはその辺で時間をつぶしております」とジョシュアは町に姿を消した。


 黒の森シュバルツバルトに到着した。


「そういえば、メンバーをちゃんと紹介していなかったな。こちらがクレイモア使いのローザだ」

「よろしく」


「ハルバート使いのヴェロニア」

「よろしくな」


「弓と魔法使いのネライダ」

「よろしくお願いいたします。」


「斥候役のミーシャ。基本は拳闘術だが寸鉄も使う」

「よろしくにゃ」


 寸鉄は誤解されがちであるが。遠距離攻撃用の武器ではない。至近距離からぶつけるようにして使う。要するに斥候が失敗したときに、相手を威嚇し、その隙に逃走するのが目的だ。


「最後に従魔のパールだな」

「ガウッ」


「ヘルミーネは見てのとおりレイピア使い。ベアトリスはヒーラーだな。ベアトリスはどんな魔法がつかえるんだ?」

「ヒール、ハイヒール、デトックス、リカバリーくらいですね。」


「ホーリーはどうだ?」

「それは習得できていません」

「あれは練習の機会があまりないからな」


「アレク様は光魔法が使えるのですか?」

「主様は光だけではなく、いろいろ使えます」とネライダが補足する。


「えっ。いろいろって…」

「まあ。そのうちな。ホーリーは機会があったら教えてやろう。他に攻撃魔法もな」


「光の攻撃魔法? そのようなものがあるのですか?」

「教会では教えないだろうが、ある」


「はあ。そうなのですか。私が学んできたことっていったい…」

「まあ。魔法は奥が深いということだ」


 ベアトリスは少し途方に暮れた顔をしてしまった。


「とにかくまずは連携の訓練をしよう。

 斥候はミーシャ。前衛はローザとヘルミーネ。半歩下がった守備的前衛にヴェロニア。

 私は中衛で全体の指揮と足りないところの応援。

 ネライダは後衛で弓と魔法で牽制しつつベアトリスも守ってくれ。

 ベアトリスはもちろん後衛で回復役。そしてパールは遊撃だ。

 回復役は戦況を見極める目が必要だ。難しいぞ。

 それではミーシャ。頼む」

「わかったにゃ。ちょうどよさそうなやつを釣り出してやるにゃ」


 しばらくすると、ミーシャが一目散に逃げてきた。


「失敗したにゃ。ごめんにゃ」


 見るとアイスグリズリーだ。しかも2頭。おそらくつがいなのだろう。


「少し強いやつだ。油断するなよ」


 アイスグリズリーが迫ってくると、ヘルミーネはいきなり切りかかった。アイスグリズリーは素早く避け、爪で反撃してきた。ヘルミーネの腕をかすり血が流れている。


「ヘルミーネ。相手の実力も図らずに突っ込むな」フリードリヒが注意する。


 ネライダが弓でアイスグリズリーの右目を打ち抜いた。隙をみてローザがクレイモアでアイスグリズリーの腕を切り飛ばす。すかさずヴェロニアがハルバートでアイスグリズリーの心臓を貫いた。


 もう一頭の方はパールが牽制していたので、フリードリヒが剣を一閃して首を切り落とした。


「ヘルミーネさん。大丈夫ですか。光よ来たれ。癒しの光。ヒール」ベアトリスがヘルミーネの傷を治療する。


 ヘルミーネはいきなりな展開にちょっとほうけている。


 見る限り。ヘルミーネの剣術はレイピアのそれではない。おそらくバスタードソードの使い手に師事したのだろう。


「ヘルミーネ。剣術はどこで習った?」

「えっ。それは…」

「お前の剣術は通常の長剣のそれだ。レイピアの使い方は根本的に違う」


「レイピアは軽くて使いやすいということじゃないの?」

「それもあるが、レイピアは切るのではなく、刺突することに特化した武器だ。そもそも構え方からして違う」


「手本を見せてやるから貸してみろ」


 フリードリヒはレイピアを受け取り、フェンシングの要領で構えてみせる。フェンシングはレイピアの技が発展してできた競技だからこれで合っているはずだ。


「何。その変な構え方。私が習ったものと全然違う」


「まずこのように半身で構えることで、敵の攻撃が当たりにくく、また避けやすい。相手を攻撃するときは、このように足を踏み込んで体全体を使って突くのだ。左手は右手とのバランスをとるために軽く上げておく」


 その時、運よくアイスグリズリーの姿が見えたので挑発するとフリードリヒの方に向かってきた。


「まずは見ていろ」


 フリードリヒはアイスグリズリーの攻撃を余裕でさばきながら説明を続ける。


「レイピアはこのように切ることもできるが…」

 そう言ってレイピアを一閃するとアイスグリズリーの手を切り飛ばす。


「これは上級者向けだからもっと上達してからでいい。下手をすると剣が折れてしまうからな」


 続いて、アイスグリズリーの右目を突いた。


「通常はこのように刺突して攻撃するのがメインだ」


 そしてアイスグリズリーの喉元と心臓を連続技で突き刺す。アイスグリズリーは絶命した。


「そして突き刺すのは急所でないと効果は薄い。まずは魔獣の急所を覚えることが大事だな」


「レイピアって頼りないような気もしていたけど、凄い武器だったのね」ヘルミーネが嬉しそうに言った。


「ああ。試行錯誤の末に生み出された新しい武器だからな」

「私、頑張って練習するわ」


「なんだ。素直なところもあるのだな」と感心するフリードリヒ。


 それから昼食をはさんで連携訓練に明け暮れた。ヘルミーネも意外に上達が早い。運動神経が良いのだろう。


 昼食のときはベアトリスが大活躍だった。

 昼食は今までフリードリヒとネライダが用意していた。ローザとヴェロニアはからっきしだったからである。

 ベアトリスは教会の炊き出しで鍛えられたらしく、腕はなかなかのものだった。


 そして、ヘルミーネ一行を常宿に送り、別れを告げようとしたとき、ヘルミーネが言った。


「アレクさんの宿はどこなの?」


「それは…」悪い予感が頭をよぎる。


「主様は、私たちと一緒にお城に棲んでおられます」ネライダが正直に言ってしまった。

いい子なのだがこういうところで機転がきかないところが惜しい。


「お城? 一緒に? どういうこと?」

「ネライダの言ったとおりだ。私はホーエンバーデン城の領主の孫で本名をフリードリヒという。訳あって冒険者をやるときはアレックスと名乗っている」

「そういえば、この間行った商会ではフリードリヒ様と呼ばれていましたわ」とベアトリス。


「何よ。私たちはもう同じパーティーのメンバーなんだからお城に泊めなさいよ」とヘルミーネは強硬に主張する。

「わかった。こうなったらやむを得ない」


「ジョシュアが1人っていうのは寂しそうだから、ジョシュアもよろしくね。」

「もう勝手にしろ」


 常宿を引き払い、ホーエンバーデン城へ向かう。

 例によって、義母上にどう説明するか悩む。


「フリード。今日は2人も女の娘が増えたんですって」

「ええ。パーティーメンバーを増強したかったものですから…」


「なんでも、今度は若い男も1人いるとか。まさか…」

 フリードリヒは(義母上、さすがの俺でも男色趣味はないですから!)と思ったがさすがに口には出せなかった。


「ジョシュアはヘルミーネの従者です」

「まあ、従者がいるような身分の娘を連れこんじゃって大丈夫なの?」

「まあ。おそらくは…」


「とにかく、あなたが全部責任を負うのよ。いいわね」

「もちろん。わかっております」


 いちおう何とかなりそうだが、ジョシュアの処遇は迷うな。もし、他家の家臣ということなら、ツェーリンゲン家の正式な家臣にはできない。フリードリヒの客分扱いのままで、騎士団の訓練に参加させて腕を磨いてもらおう。早速団長にお願いだ。


    ◆


 冒険が休みの日。約束どおりベアトリスに魔法を教えることにする。

 ホーリーは、師匠に教えてもらった例の墓地へ行ったら、たまたまゾンビが1体いたので教えることができた。


 あとは攻撃魔法だが、ライトニングアローライトニングジャベリンは直ぐに覚えた。

防御魔法のライトニングウォールもだ。

 ベアトリスの魔法の才能はなかなかだ。

 魔力量の問題もあるので、広域殲滅せんめつ魔法は機会を改めることにしよう。


 光魔法の訓練を終わって、フリードリヒはふと思いついたことを聞いてみる。


「ベアトリスは他の魔法は使えないのか?」

「ええ。教会では光魔法しか教えていませんから」


「では、適性を調べたことはないのだな」

「そう言われてみればそうですね。考えてもみませんでした」


 調べてみるとベアトリスには水魔法の適性があった。調べてみるものだ。


 こちらも教えてみると、初めての魔法なので最初はとまどっていたが、慣れてくるとアイスアロー、アイスジャベリン、アイスフォール、ウォーターカッターをじきに覚えた。やはり才能がある。


 これで後衛の攻撃にバリエーションが増え、更にいろいろなことができそうで楽しみになった。


「私、いつも皆さんが戦っているのを見ているだけでもどかしかったんです。なんだかうれしいです」

「魔法は使いどころも難しいし、何よりペース配分を考えないと魔力切れの問題があるから難しいぞ。その点は実践のなかで経験を積むしかないな」

「はい。頑張ります」


    ◆


 私はヘルミーネ・フォン・ザクセン。モゼル公爵の一人娘よ。


 私は子供のころに見た近衛騎士団の女騎士に憧れ、ずっと騎士になりたいと願っていた。

 そのために厳しい剣の修行もしたわ。


 12歳の時、結婚の話が持ち上がった。

 相手は下ロタリンギアのブラバント公。

 正妻の座を埋めるだけのお飾りであることは私でもわかったわ。


 結局、騎士になることをあきらめきれず、結婚を避けるために国を出奔することにした。でも城を出るところをジョシュアに見つかり、従者にするとは思ってもみなかった。

 マインツ大司教のご領地では、ヒーラーのベアトリスと出会い、説得の末、なんとか仲間になってもらった。


 その後、私たちは魔獣の宝庫である黒の森へ向かい、バーデン=バーデンの町でパーティーメンバーを探したが全く相手にされなかった。


 焦った私たちは3人で黒の森シュバルツバルトへ向かったのだけれど、それが失敗の元。盗賊に遭遇しあわや貞操の危機というところをフリードリヒ様に救っていただいた。しかし、茫然ぼうぜんとしていた私は秘所をフリードリヒ様の前でさらしてしまい…。


 ああ。もうフリードリヒ様に責任を取ってもらうしかないわ。

 ベアトリスの機転もあって、何とかパーティメンバーにはなれたし、私が駄々をこねてお城に住むことにもなった。


 でも、私は身分を隠していることもあって、なかなか素直に気持ちを伝えられない…。

 もうっ。私ってなんてひねくれものなの。


 フリードリヒ様と素直に会話できるベアトリスがうらやましい。

 でも、いつかは…。


    ◆


 私はベアトリス・フォン・ヴィッテルスバッハ。

 私はヒーラーとしての腕を活かして冒険者となること夢見ていたが、なかなか行動に移せないでいた。

 そんな時、ヘルミーネさんに半ば強引に誘われ、出奔した。


 冒険者が多くいるバーデン=バーデンの町でのパーティメンバー探しは難航し、メンバーが見つからないまま黒の森シュバルツバルトへ行き、運悪く盗賊に襲われた。間一髪のところを救ってくれたのがフリードリヒ様だ。


 フリードリヒ様は強いだけでなく、光魔法と水魔法やその他の魔法も使えるらしい。少なくともトゥリブスかその上の数万人に1人の希少な使い手ということだ。

 光魔法もホーリーや私が知らなかった攻撃魔法を教えてもらった。


 それに比べて私って何なんだろう。ヒーラーとして少しばかり自信を持っていた自分が今となっては恥ずかしい。


 それにしてもフリードリヒ様は底の知れないお方だ。興味が尽きない。


 それとともに私はフリードリヒ様に何か違う感情を抱き始めて………いけない。修道女の私がそんなことを考えてはダメ。そう。これは尊敬よ。尊敬の感情だわ。私はフリードリヒ様を尊敬しているの。決してそのような感情ではないわ。

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